【8話】最高の気分 ※メアリ視点
ハテオン王国の大屋敷、バレスタ公爵邸。
そこに暮らすメアリは、私室のソファーでふんぞり返っていた。
「うふふ! 今日も最高の気分だわ!」
弾みに弾んだ声が室内に響く。
今日のメアリは、最高に絶好調だった。
でもそれは、今に始まったことではない。
三か月前――エレインが国外追放処分を受けたあの日から、ずっと最高の気分が続いている。
――ハテオン王国の大聖女、エレイン・セファルシア。
メアリはずっと、彼女のことが嫌いだった。
いや、憎んでいたといった方が正しいだろう。
ハテオン王国の大貴族――バレスタ公爵家の次女メアリは、恵まれた容姿を持って生まれてきた。
その美しさは、一級品の宝石。
他の令嬢たちとは比較にならないくらいに眩しく、光り輝いていた。
そして優れていたのは、容姿だけではない。
魔法もだ。
ごくわずかしかいない聖女の中でも、メアリの聖属性魔法は飛び抜けて強力。
聖女としての才に溢れる、特別な聖女だった。
しかし人々は、メアリに見向きもしない。
彼らが見ていたのは常に一人――大聖女のエレインのみだ。
名だたる大貴族の生まれであるメアリとは違い、エレインは平凡な伯爵家の生まれ。
容姿はそこそこ――でも、メアリには遠く及ばない。比較にならないくらい圧倒的に勝っている。
それなのに大聖女だというだけで、過剰に評価されている。
常に高いところから見下されているような気がして、メアリは不快でたまらなかった。
(必ず引きずり降ろしてやるわ!)
エレインへの憎悪を抱えながら、メアリは生きてきた。
けれどもう、それを抱える必要はなくなった。
エレイン・セファルシアは、もうこの国にいない。
顔を見ることだって一生ないだろう。
これだけでも最高なのだが、まだ他にもいいことがあった。
犯罪者として国外追放されたエレインに代わり、メアリはニコライの婚約者となった。
そう、メアリは手に入れることができたのだ。
第一王子の婚約者という、確固たる高位の地位を。
憎んでいた女は消え、誰もが羨む地位を手に入れることができた。
まさに、一石二鳥。
これが三か月続いている、好調の理由だ。
「ま、全部が全部うまくいっているという訳ではないのだけどね」
大聖女のエレインが国外追放となったことで、これまで王国に恵みを与えてきた力はなくなった。
ハテオン王国では近頃、その影響がちらほらと出始めてきている。
農作物の収穫量の減少。
魔物による国境付近の街の襲撃。
これらはすべて、恵みの力が失われたからだ。
ニコライは原因に気づいていないようだが、メアリには分かっていた。
(って言っても、焦る必要はぜんぜんないのだけどね)
確かに収穫量は減った。
しかしそれはあくまで、驚異的な量が取れていたこれまでと比べた場合の話。
周辺諸国と比較すればその数は多く、まだまだ十分な量が収穫できている。
魔物襲撃の件もそうだ。
襲撃してきた魔物は弱小で、現地の兵士で簡単に対処できたと聞いている。
つまりそう、まったく問題ないのだ。
エレインがいなくなったことで、王国に悪影響は出てきている。
しかしそれらはすべて、些細なもの。
気にかける必要なんてどこにもない。
(私の最高の時間は、これからもずっと続いていくのよ!)
メアリは不敵に笑う。
きっと明日もまた、最高の一日となるだろう。




