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常冬の国に春を呼ぶ大聖女~無実の罪で婚約破棄された私が出会ったのは、『絶氷の魔術師』と呼ばれる美丈夫でした~  作者: 夏芽空


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【3話】絶氷の魔術師


 ――温もり。

 意識を取り戻した私が最初に感じたのは、そんなものだった。


 心臓は脈打っているし、体にも感覚がある。

 とりあえずは生きているみたいだ。

 

 でも私、雪山で倒れたはずよね?

 どうなっているのかしら。

 

 ここがあの雪山とは思えない。

 状況を確認するため、瞳を開いてみる。

 

 私は今、広々とした部屋のベッドの上で横になっていた。

 首から下には分厚い毛布がかけられている。

 

 暖炉には火が入っていて、くべられている薪がパチパチと音を立てていた。

 

「……。ここはどこなのかしら」


 危機的状況ではないということは分かったが、それはそれ。

 新たな疑問が生まれてくる。

 

 視界に映るもの。

 その全てを、私は知らない。

 

 ここは私にとって、まったくの未知の場所だった。

 

 ゴンゴンゴン。

 やや重たいノック音が、ドアから響いてきた。

 

 ……誰かしら?

 

「ど、どうぞ」


 少し緊張しながら返事をしてみると、すぐにドアが開く。

 部屋に入ってきたのは、銀髪に青色の瞳を持つ美丈夫だ。

 

 歳は二十代半ばくらいだろうか。

 長身で細身に見えるが、随所は筋肉で盛り上がっている。

 

 顔立ちはまるで、緻密で精巧な作り物のよう。

 これまでに見てきたどんな人よりも美しい。

 

 この部屋にあるものと同様に、入ってきた彼のことも私は知らない。

 でも、

 

「目が覚めたようだな」


 重厚なその声を聞いて分かった。

 

『こんなところでなにをしている! 大丈夫か!!』

 雪山で意識を失う前に聞いた、あのときの声だ。

 

 きっとこの人が助けてくれたんだわ。

 

 意識を失った私をここまで運んでくれた。

 今の状況からして、そう考えるのが妥当だ。

 

 体を起こした私は、深く頭を下げる。

 

「助けていただきありがとうございました」

「気にするな」


 返ってきた声色は少しぶっきらぼうだった。

 気遣ってくれているというよりも、礼を言われるのが面倒だからそう言っている感じだ。

 

 けれども少し無愛想にされたって、この人が私を助けてくれたという事実に変わりはない。

 だから私はもう一度深く頭を下げる。

 

 男性はそれに対して無反応。

 質問はあるか? 、と短く口にした。

 

 ……もしかして私、嫌われてる?

 

 さすがに二連続で不愛想な反応をされると傷つくものがある。

 地味にショックを受けるが、さっき浮かんだ疑問を解消するチャンスがやって来た。

 

 ショックはグッとこらえ、私は疑問を口にする。

 

「ここはいったいどこなのでしょうか?」

「フロスティア王国北辺の地――ラトス。そして今キミがいるのは、俺の屋敷だ」


 男性が口にした国名は、私の目的地。

 どうやら奇跡を起こすことができたらしい。

 

 安心感が体に広がっていくのを感じる。

 緊張感が解け、自然と表情が柔らかくなる。

 

「他に聞きたいことはあるか?」

「えぇっと……あなたはいったい」

「俺はアルシウス・ブロディア。この国の魔導士団長をしている者だ」

「――!?」


 背筋がビクンと跳ねる。

 その名は、あまりにも有名なものだった。

 

 ――アルシウス・ブロディア。

 フロスティア王国最強の魔術師と言われ、『絶氷(ぜっひょう)の魔術師』という二つ名を持つ。

 

 性格は残忍かつ、冷酷無比で非情。

 人の命を奪うことをなんとも思わない人物として、世界各国で広く恐れられている人物だ。

 

 とんでもない人に出会ってしまったわ……!

 柔らかくなっていた私の表情は、一瞬でカチコチに。恐怖で凍りついてしまう。

 

「そう怖がるな。別に取って食おうという訳ではない」


 呆れ顔になったアルシウス様は、小さく息を吐いた。

 

「俺からも聞きたいことがあるが、それは次の機会にしよう。目覚めたばかりで色々と混乱しているだろうからな。今はゆっくり休んで体力を回復しておけ」


 私に背中を向けたアルシウス様は、部屋から出ていった。

 

 今のは気遣ってくれた……のよね?

 

 どうやら嫌われている訳ではないらしい。

 ここで私は、あることに気づく。

 

 アルシウス様はたぶん、無愛想で不器用な人間。

 表現がうまくできない。

 

 だからこそ嫌われているんだと、私は勘違いをしてしまった。

 

 でも、本質は違う。

 きっと優しい人だ。

 

 まだ少ししか会話していないのに、こんなことを思うのはおかしいかもしれない。

 本性を隠している可能性だってある。

 

 でも私には、そうは思えない。

 そんな振る舞いをできるほど器用な人間には見えなかった。

 

 もちろん絶対的な確信はないし、証拠だってない。

 すべては私の印象だ。


 でも私は大聖女として仕事をする中で色々な人と関わってきたから、人を見る目はあると思う。

 だからたぶん、正しいはず。

 

「……噂とはぜんぜん違うわね」

 

 冷酷無比で非情――噂に聞いていたような人物とはぜんぜん違う。

 まったくの正反対だ。

 

 良い人そうでよかったわ。

 

 安心したら、急に眠気が襲ってきた。

 ベッドに横になった私は、ゆっくりと目をつぶる。

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