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常冬の国に春を呼ぶ大聖女~無実の罪で婚約破棄された私が出会ったのは、『絶氷の魔術師』と呼ばれる美丈夫でした~  作者: 夏芽空


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【23話】救援依頼


 その日。

 ブロディア邸を訪ねて来たのは、誰もが腰を抜かすような驚きの人物だった。

 

「久しいな、二人とも。元気にしておったか?」

 

 この国のトップ――レイゲル陛下その人だ。

 

 なんでも、私とアルシウス様に急ぎの話があるらしい。

 王都へ呼び出す時間も惜しいので、こうして自ら会いに来たのだという。

 

 フットワークが軽いというか、パワフルな人よね。

 

 いい意味で王様らしくない。

 アルシウス様が慕っているのもきっと、そういう人だからなのかもしれない。



 三人は客間へ移動した。

 私とアルシウス様がテーブルに横並びに座り、陛下はその対面に座る。

 

「まずはこれを見てほしい」


 陛下が差し出してきたのは、折りたたまれた一枚の紙。

 

 アルシウス様は紙を受け取ると、さっそくそれを広げた。

 隣にいる私も見るのだが、記載されていたのは衝撃の内容だった。


『強力な魔物の集団に王都が襲撃されている。どうか助けてほしい』


 文書の中身を要約すると、そんなもの。

 送り元は私の祖国――ハテオン王国だ。

 

「つまるところそれは、ハテオン王国からの救援依頼だ」

「エレインを国外追放しておいてよくもこんなものを。恥を知らないのか。……まさかとは思いますが、受けるなんて言いませんよね?」

「政治的な話をするのであれば、応えた方がいいだろう。向こうに貸しを作ることができるからな」

「馬鹿な!? 本気で言っているのですか!!」

「落ち着けアルシウス。話はまだ終わっていない。最後まで聞け」


 怒りをあらわにしたアルシウス様を、陛下は呆れ顔でなだめる。


「今のはあくまで、政治的な話。エレイン殿の身の上を知っている一個人の立場からすると、素直に派兵する気にはなれん。そこで私はエレイン殿の意思を伺おうと考えたのだ。……エレイン殿。どちらに転んでも構わないと私は思っている。あなたの考えを尊重すると約束しよう」

「私は……」


 陛下のお心遣いは、もちろん嬉しい。

 でもこんな大事なことを突然言われたって、すぐに答えを出せるはずもない。

 

 どうしていいのか分からず、言葉に詰まってしまう。


 そんな私の手をギュッと握ってくれたのは、アルシウス様だった。

 

「キミはひどい仕打ちを受けた。国がそうなったのも、言うなれば自業自得。当然の報いだ。ここで見捨てる判断をしても、俺も陛下もキミを責めたりはしない」

「……アルシウス様のおっしゃる通りです。不当に力を制御されたり国外追放されたりと、私が受けたものはひどいものばかり。自業自得という言葉が、まさにピッタリでしょう。ですが、民に罪はありません。……陛下。私もハテオン王国へ向かいます。大聖女の力で魔物を撃退し、民を救って参ります」

「確かにエレイン殿の力があれば、大きな戦力となるだろう。しかし、本当によいのだな?」

「構いません。……私はこの国に来て、自分のために生きると決めました。もしここで動かなければ、たぶん一生後悔すると思うんです。ですから、行きます。民と、私自身が後悔しないために」

「……お人好しにもほどがあるぞ、キミは」


 アルシウス様から飛んできたのは、呆れた物言い。

 

 でも、笑っている。

 かけた言葉とは裏腹に嬉しそうにしているのは、私がこう言うと分かっていたらからなのかもしれない。

 

「俺も行こう」

「よろしいのですか?」

「当たり前だ。戦場に妻を一人で送る夫がどこにいる。キミが行くのであれば、当然俺も一緒だ」

「ちょっ!? 陛下がいる場でなんてことを!」

「どうせいつかは公になるんだ。恥ずかしがることではない」

「そうですけど、なにも今じゃなくなったて……」


 確かに一理あるけども!

 でもね! せめてこの件が解決して落ち着いた後でも良かったんじゃないかしら!


 そんなことを考えていたら、対面に座っている陛下が勢いよく立ち上がった。

 

「ガハハハハハ! ついに決心したかアルシウス!」

「はい。それで、陛下に一つお願いしたきことがあります」

「おぉ! なんでも申してみよ!」

「帰ってきたらすぐに式を挙げたいと考えております。あなたには国一番の式場を用意してほしい」

「よし、心得た! 私に任せておけ! 二人の門出にふさわしい場を必ずや用意しよう!!」

「ありがとうございます。これで心置きなく出立できる……!」


 え……ちょっと、あの……。


 二人だけで盛り上がり、話が勝手に進んでしまった。

 私は完全に置いてけぼりだ。

 

 もちろん思うところはある。

 けれど嬉しそうなアルシウス様の顔を見てしまえば、なにも言えなくなってしまう。

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