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常冬の国に春を呼ぶ大聖女~無実の罪で婚約破棄された私が出会ったのは、『絶氷の魔術師』と呼ばれる美丈夫でした~  作者: 夏芽空


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【22話】初めての夜


 どうしようどうしよう!!

 

 もう何が何やら。

 頭の中がぐちゃぐちゃにこんがらがって、訳が分からなくなる。


「……よし。そろそろ次の段階に進んでもいい頃だ」


 やっぱりだわ……!

 

 意味深なアルシウス様の呟きに、私は確信する。

 

 次の段階――つまり彼は、越えるつもりでいる。

 男女の一線を。

 

 顔を真っ赤にした私は、アルシウス様の両肩をガッと掴む。

 

「あの! お気持ちは嬉しいのですが、私まだ心の準備ができてなくて……。でもその、お気持ち自体は嬉しいんですよ! 本当に!!」

「言わんとしていることはよく分からいが……おそらくキミは勘違いをしているぞ」

「…………へ?」

「俺が言っているのは研究のことだ。これまでの成果を踏まえ、さらにもう一段階進んだ研究をすることを思いついたんだ」

「このタイミングで、ですか?」

「あぁ。閃きというのは天からの贈り物。いつも思いがけないタイミングでやって来る」


 いやいやいや! なによそれ!?

 絶対おかしいでしょ! ありえないわよ!!


 そんな言葉が出かけるも、喉の辺りまで来たところで止まる。

 

 アルシウス様はなかなかに掴みどころのない人。

 一般的にはありえないことでも、彼ならばありえてしまう。


 つまり、だ。

 私がひとりが勝手に勘違いして勝手に暴走していたということになる。


 それに気づいてしまえば最後。

 怒涛の恥ずかしさが込み上げてきて、燃えるように体が熱くなった。

 

「しっ、失礼します!!」


 アルシウス様にくるっと背を向けた私は両手で顔を覆い、ダッシュ。

 逃げるようにして部屋から出ていった。

 

 なんなのよ、もう!!


******


 寝室が共同となって、初めての夜。

 私とアルシウス様は、一つのベッドの上で背中合わせで横になっていた。


「エレイン。まだ起きているか?」

「は、はい!」

 

 ドクンドクンドクン!!

 私の心臓は非常に激しい鼓動を打ち鳴らしていた。

 部屋の外にも聞こえているんじゃないかってくらいの大音量となっている。

 

 緊張するとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。

 こんな状態のまま眠るなんて絶対に無理だ。


 でも、今のままじゃダメよね。

 

 これからは毎晩、アルシウス様と同じベッドで眠ることになる。

 いつもでも緊張しっぱなしという訳にもいかない。早く慣れないと。

 

 ……いくわよ!

 

 意を決して私は、寝返りを打つ。

 

 そうしたら、なんてことだろう。

 アルシウス様も同じタイミングで寝返りを打ってきた。


「「――!?」」


 意図せず向き合う体勢になった二人は、そっくりの驚き顔。

 そして反射的に元の体勢に戻る――二人ともだ。

 

「ごごご、ごめんなさい!!」

「いや、俺こそすまなかった……」

「……」

「……」


 お互いの謝罪のあとには、しーんとした沈黙。

 気まずい空気が流れる。

 

 ……最悪だわ。

 どうにかしなくちゃ。

 

 共同の寝室になって、今夜はせっかくの初日。

 なのに二人でだんまりなんて、そんなのってないだろう。

 

「あの! 同じタイミングで向き合いませんか?」

「あ、あぁ! それは名案だ。ぜひそうしよう!」


 せーの、で息を合わせ、二人はいっせいに向きを変える。

 

 ううっ!

 ち、近いわ!

 

 アルシウス様の美しいお顔との距離が、いつもに比べてずっと近い――近すぎる。

 恥ずかしくなって私はつい顔を下げてしまうのだけど、アルシウス様は違った。

 

「綺麗だ」

 

 温かい感触が私を包む。

 私はそう、アルシウス様にギュッと抱きしめられていた。

 

 まさかこんなにも急に、アグレッシブな行動を取ってくるなんて思わなかった。

 

 予想外にもほどがあるわよ!

 ……どうしよう。心臓の音、聞こえてないといいのだけど……。

 

 心臓の鼓動がひときわ大きくなる。

 破裂寸前、今にももう爆発してしまいそうだ。

 

「嫌だったら言ってくれ」


 好きな人に抱きしめられているのだ。

 嫌なはずがない。

 

 でもたぶんアルシウス様は、それを分かっていない。

 私の身を本気で案じてくれている。

 

 なんだかズルいしやっぱり掴みどころがないけど、でも本当に優しい人。

 いつものアルシウス様だ。


 それを思うと、安心感が溢れてきた。

 温かな気持ちが全身に広がっていく。

 

 なんて心地いいのかしら。

 ふぁ~あ。

 

 安心したら、急にまぶたが重くなってきた。

 ずっと緊張しっぱなしでいたからか、ものすごく眠い。

 

「ごめんなさいアルシウス様。私もう、眠ってしまいそうです。とっても落ち着くので、今夜はずっとこのままでいてください」

「いや、それは困る! 頼む、待ってくれ。この体勢のままというのは俺の理性が持たない――」


 アルシウス様がなにか言っているが、うとうとしているせいでまったく頭に入ってこない。

 おやすみなさい、と言って私は瞳を閉じた。

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