【20話】私の方なのに
「わ、分かった! おとなしく出ていく! だからもうやめてくれよぉ!!」
ボロボロに涙をこぼしながら、ニコライ様は大声で叫ぶ。
圧倒的な力と本気の殺気にあてられたことで、完全に戦意を失っていた。
アルシウス様は先ほどと同じようして、もう一度腕を真横に振るう。
兵士たちの足元を覆っていた氷がバキンと音を立てると、一瞬にして砕けた。
「早く逃げろ!」
「噂以上のバケモンじゃねえか! あんなのにかなう訳ねえよ!」
「どけどけ! 邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!」
氷から解放され自由になった兵士たちは、乗ってきた馬車へと逃げるようにして駆けていく。
表情にはもれなく、アルシウス様への怯えと恐怖が浮かんでいた。
そして兵士たちのリーダーであるニコライ様はといえば、
「待てお前ら! 僕を置いていくな!!」
必死になって声を張り上げていた。
しかし助けようとする兵士は一人もいない。
それでも一番最後に残った兵士が、彼の腕を取った。
尻もちをついたままのニコライ様を、そのまま強引に引きずっていく。
「なにするんだよ馬鹿! 僕の服が汚れるじゃないか!」
「ここから逃げることが最優先です! 我慢してください!!」
部下に叱られながら地面を引きずられていく第一王子。
たぶんもう一生見ることのないであろう、なんともシュールな光景を眺めていたら、
「ありがとう」
アルシウス様からお礼を言われてしまった。
え……どうして?
とっさに応えられず、それどころか私はキョトンと棒立ちしてしまう。
だってお礼を言うのは、どう考えても助けてもらった私の方なのに。
「正直に言うと、俺は少し怖かった。もしかするとキミは、あの男の言うことを聞いてしまうのではないか。そう思ってしまったのだ」
「心配しないでください。私はここにいますよ。この国を二度と常冬には戻しません」
「……違う。この国から大聖女の力が無くなることが怖かったのではない」
私の両肩にアルシウス様は手を置いた。
多量の熱を帯びた二つの瞳で、じっと私のことを見つめる。
「キミが――エレイン・セファルシアが俺の前からいなくなるのが怖かった。あの笑顔を二度と見られないと思っただけで胸が張り裂けそうだった。キミのいない生活なんて、俺にはもう考えられない……! エレイン。これからもずっと俺の側にいてほしい」
「はい……はい!!」
大粒の涙を流しながら私は何度も、何度も頷く。
嬉し涙なら、これまでにも何度か流したことがある。
でも間違いなく、今日のが一番だ。過去のものとは比べ物にならない。
頬を伝う雫の温もりが、そうだと強く教えてくれる。
いつまでも笑っていられる、温かい場所。
私はずっとそれを求めていた。
もう無理なんじゃないかと諦めそうになったこともあった。
でも、諦めなくてよかった。
だって私は今、ようやく手に入れることができたのだから。
嬉しくてたまらない。
ありがとうの気持ちで、胸がいっぱいになる。
「ありがとう、エレイン」
一歩近づいたアルシウス様は、私にそっと唇を重ねる。
ちょっと不器用だけど、でも優しくて熱い。
私のファーストキスは、まるで彼そのものみたいだった。
読んでいただきありがとうございます!
面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、【↓にある☆☆☆☆☆から評価】を入れてくれると作者の励みになります!
【ブックマーク登録】もしているだけると嬉しいです!




