【19話】本気の怒り
「はぁ? なんだよお前は?」
顎をしゃくり上げたニコライ様は、ターゲット変更。
私へ向けていた視線をアルシウス様へと切り替える。
「俺はアルシウス・ブロディア。この国の魔導士団長をしている者だ」
「へぇ、お前があの絶氷の魔術師か。だけどお前に用はない。僕はエレインと話をしにきたんだ。関係ない邪魔者は引っ込んでろよ」
「そういう訳にもいかない。彼女の事情を俺は一通り聞いている。しかし自ら手放しておいて必要になったら取り戻しに来るとは……ずいぶん虫のいい話だな」
「黙れよ! その女がいないと国が崩壊するんだ!」
「だがエレインは帰りたくないと、そう言っている。自分の事情を押し付けるだけで、彼女の意見は無視するのか?」
「当たり前だ! 他人の事情なんて知るかよ! 僕の言うことは絶対なんだ!!」
「……話にならん。ロクでもない男というのは知っていたが、実物はもっとひどい。幼稚な精神を持つクズの中のクズ――醜悪だ。同じ男として恥ずかしい」
「この僕にここまで舐めた口を利いたのはお前が初めてだ……! もういい!! お前を殺して、エレインを連れて帰る! 行け、お前たち!!」
指令を受け、ニコライ様の後ろに控えていた兵士たちが動き始めた。
その数、十人以上。
剣を振り上げ、いっせいにこちらへ向かってくる。
「アルシウス様!」
「大丈夫だエレイン。心配することはなにもない」
アルシウス様は正面へ腕を伸ばすと、それを兵士たちへ向け真横に振るった。
兵士たちの動きがピタリと止まる。
誰一人としてその場から動かなくなった。
「なにをしているんだお前たち! さっさとあいつを殺せよ!!」
「動けません! 足が動かないのです!」
「はぁ!? なにふざけたこと言って――嘘だろ……おい」
兵士たちの足元を見れば、地面から突出した分厚い氷で覆われていた。
ほんの一瞬で、兵士たち全員の動きは封じられた。
剣を振るうことで氷を砕こうとしている人もいるが、傷一つつけられていない。
氷の強度は剣を遥かに凌駕していた。
そして、誰がそれをやったのか。
考えるまでもなくそれは明らかだった。
「これだけの人数を一瞬で制圧するとか……ありえないだろ、普通。ななななな、なんなんだよお前は!?」
「これが絶氷の魔術師の力だ。と言っても、まだ力の半分すら出していないが。もう一度だけ言う。今すぐここから消えろ。……いいか、これは最後の警告だ。もし従わないのであれば、今度こそ容赦しない。次は足ではなくその命を凍らせる」
尻もちをつきガタガタと震えるニコライ様を、アルシウス様は強く睨みつける。
決して声を荒立てている訳ではないが、雰囲気は重厚。
威圧感が半端ではない。
そこには殺気までもが感じられ、とても冗談で言っているとは思えなかった。
アルシウス様の本気の怒りだわ。
私は今日、初めてそれを見たような気がする。




