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常冬の国に春を呼ぶ大聖女~無実の罪で婚約破棄された私が出会ったのは、『絶氷の魔術師』と呼ばれる美丈夫でした~  作者: 夏芽空


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【15話】浮かび上がる気持ち


 アルシウス様の案内でやって来た、アクセサリーショップ。

 店内に入るなり私は、

 

「気負うことなく好きなものを選んでくれ。それを購入しよう」


 隣にいるアルシウス様に、さらりとそんなことを言われてしまう。

 しかしこれがまた、難しい話だった。

 

 この店はただのアクセサリーショップじゃない。

 超高級店だ。

 

 客層はセレブと呼ばれているような人たちばかり。

 そして店内に飾られている商品には、そのどれもに見たこともないくらいの値がつけられている。

 

 気負わずになんて、私には無理だ。

 そんなことをしていいはずがない。

 

 慎重に慎重を期し、私は店内の商品をじっくりと見定めていく。

 そうしていくうちに目に留まったのは、プラチナのブレスレットだった。

 

「……綺麗」


 感嘆の声を漏らした私は、そのブレスレットを手に取る。

 

 チェーン部分には装飾がなく、いたってシンプル。

 それが銀色に輝くプラチナの美しさを、より際立たせていた。

 

 ものすごく好みのデザインだ。

 けれど私が惹かれた一番の理由は、そこではない。

 

 やっぱりそっくりだわ。


 アルシウス様をチラリと見る。


 プラチナの放つ、洗練された銀色の光。

 その輝きがアルシウス様の髪色とそっくりだったからだ。


「このブレスレットが気に入ったのか?」

「はい」

「ではこれを購入しよう」


 ……聞かれなくて良かったわ。


 数ある中から、どうしてこのブレスレットを選んだのか。

 その質問をされなくてよかった。

 

 ま、もし聞かれても、きっとごまかしていただろうけど。


 本人を前にして言えるはずがない。

 恥ずかしくて死んでしまうもの。

 

「……こんな風に女性に贈り物をするのは初めてだ」

「私が初めてになれたのですね。ちょっと嬉しいです」

「どうして嬉しくなるのだ?」

「どうしてってそれは……どうしてでしょう」


 分からない……。

 自分のことなのにどうしてだろ。おかしな話よね。

 

「すまない。俺に聞かれても分からない」

「……。で、ですよね! 変なことを言ってしまい申し訳ございません! アハハ!」

 

 ごまかしたくて、だから私は必死で笑ってみせる。

 分からないのだから、そうするしかない。



 夕方。

 茜色に染まった道を走る帰りの馬車の中、対面に座るアルシウス様へ私は頭を下げる。

 

「今日は本当にありがとうございました」


 非常に高価なブレスレットを、彼はプレゼントしてくれた。

 

 でも、それだけではない。

 レストランで食事をしたり大きなホールでミュージカルを鑑賞したりと、アクセサリーショップを出た後も私のことをたくさん楽しませてくれた。

 

 今日一日ずっと楽しくて、まるで夢の中にいるようだった。

 アルシウス様には、感謝してもしきれない。

 

「こんなにも楽しい時間を過ごせたのは初めてです。一生忘れなれない最高の一日となりました」

「喜んでもらえたのであればなによりだ。……しかし困ったな。そんな風に言われたら、次にキミと出かけるのときのハードルがものすごく上がってしまうではないか」

「はい。今日以上のものを期待していますね」

「…………ふむ。これは難題だ。人生で一番の壁に当たってしまったかもしれん。エレインに協力してもらうしかないかもな」

「ダメですよ。この件に関してだけは、協力を拒否します」


 そこまで言うと、私とアルシウス様は二人で笑い合った。

 

 何気ない会話をして、一緒に笑い合う。

 なんて幸せで素敵な時間なのだろう。

 

 一生このまま時間が止まってしまえばいいのに。

 

 なんて思うけど、それはダメだ。

 どうしてもアルシウス様に聞いておきたいことが、私にはあるのだから。

 

「どうしてアルシウス様は街を見ようと、私にそう言ってくれたのですか」

「キミにお礼をするためだ」

「そう……ですよね。そう言っていましたものね」


 なんでこんなことを聞いたのかしら、私。


 私は既に質問に対する答えを知っていた。

 にもかかわらずどうしても聞いておきたかったのは、もしかしたら違う答えが返ってくるかもしれない、と期待していたからだ。

 

 たとえばそう、お礼ではなくて単純に私と出かけたかった、とか。

 期待していたのは、そんなもの。

 

 もしかして私、アルシウス様のことが……。

 

 胸に手を当ててみれば……やっぱりそうだ。

 伝わってくる鼓動は、自分でも驚いてしまうくらいに高鳴っていた。

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