表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常冬の国に春を呼ぶ大聖女~無実の罪で婚約破棄された私が出会ったのは、『絶氷の魔術師』と呼ばれる美丈夫でした~  作者: 夏芽空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

【13話】陛下との謁見


 枯れ果てた巨木を私が復活させてから、ひと月ほど。

 

 フロスティア王国に毎日のように降り続いていた雪は()み、毎日氷点下を記録していた気温も上昇。

 今では、軽装で外に出られるくらいになっている。

 

 そう、常冬だったこの国に春が来た。

 太古の昔よりずっと続いてきた呪いから、ついに解放されたのだ。

 

 アルシウス様によれば、そうなった要因は私の力にあるのだと言う。

 

 バンクルを外したことで、私は本来の力を取り戻した。

 それにより国にあらゆる恩恵をもたらす恵みの力も、大幅に強化。常冬の呪いを打ち破るにいたったのだとか。

 

 今日はそのことをフロスティア王国の国王――レイゲル陛下へ報告するため、私とアルシウス様は王都を訪れていた。


「失礼いたします」


 王宮の客間のテーブルに、私は腰を下ろす。

 隣にはアルシウス様、そして対面には陛下がいる。

 

 陛下……お目にかかるのは初めてだけど、威圧感のある人ね。

 緊張してきたわ。

 

 歳は40代くらいだろうか。

 ずっしりとした屈強な体格と、厳つい顔立ちをしている。

 

 こんなことを思うのは失礼かもしれないけど、ちょっと怖い。

 

「本日お伺いしたのは、この国の気候が変化したことについてです。そのことについて俺なりに考えをまとめましたので、陛下にご報告に上がりました。しかし本題に入る前に、まずは彼女について話す時間をください」

 

 今回の件には、私が密接に関わっている。

 だからまずは、どのようにして私がアルシウス様と一緒にいるのか、という部分から陛下に話す必要があった。

 

 アルシウス様はまず私のことを語り、それが終われば続けて本題――気候変動についての報告をしていく。

 報告内容は要点が簡潔にまとめられており、とても分かりやすい。

 

 やっぱりアルシウス様は聡明なお方だわ。

 

 横で聞いている私は能力の高さに感心していた。

 素敵な人だと、改めてそう感じる。

 

「――以上が今回の件についての報告となります」

「ご苦労」

 

 短く応えた陛下は、少し難しい表情をしている。

 お気に召さない点でもあったのだろうか。

 

「隣国の大聖女が追放されたというだけでも驚いたが、まさかお前と一緒に暮らしているとはな。さらに驚きだ」

「研究を急ぐあまり報告が遅れてしまいました。申し訳ございません」

「よいよい、気にするな! そんなものは一番最後で構わん!」


 ガッハハハと、大きな笑い声が部屋に響く。

 

 気を悪くしていないのはよかったのだが、まさかそんな笑い方をするなんて思っていなかった。

 ちょっとびっくりしてしまう。

 

 ……見た目のイメージとは、ぜんぜん違う方ね。

 

 アルシウス様もだったけど、フロスティア王国の人間はそういう傾向にあるのかもしれない。

 それともこの二人が特別なんだろうか。

 

 そんなことを思っていると、陛下は再び舌を動かし始めた。


「春が到来したことで、この国は大きく変わり始めた。やせていた土が栄養をつけ、今では多種多様な農作物が実るようになった。近頃では、それを生業にする者も続々と現れてきている。以前では考えられなかったことだ。国の未来は明るく照らされている。……エレイン殿。これもすべて、あなたのおかげだ」


 優しく笑った陛下は、まっすぐに私を見つめる。

 

「このレイゲル・フロスティア。国を代表してあなたに感謝する」

「おやめください! 私にはもったいなきお言葉です!」


 まさか国のトップ直々にお礼を言われるなんて!

 

 予想外にもほどがある。

 大慌てになってしまった私は、ぶんぶんと首を横に振った。

 

「ほう……なんと謙虚な。容姿だけでなく心の内まで美しいとは、まったく素晴らしいな。良い女性を捕まえたな、アルシウス」

「な、なにをおっしゃる!」

「む? 違うのか?」

「エレインには俺の研究の手伝いをしてもらっているだけです! 陛下が思っているような関係ではありません! 勝手な想像を口にするのは控えていただきたい!」

「それはすまなかった。……しかし常に冷静で何事にも動じない前が、ここまで取り乱すとは珍しい。その様子では私の言うことも、あながち間違ではないように思えるがな」

「……。報告は済みました。これにて失礼します」


 席を立ち上がったアルシウス様は、陛下に一礼。

 行くぞ、と私に声をかけるなり、出口の方へ足早に歩いていってしまう。


「あの……失礼しました!」


 ここで置いてけぼりを食らう訳にもいかないので、陛下に挨拶をしてから急いで後を追った。

 アルシウス様の横に並ぶ。

 

「よいか、アルシウス。式を挙げる際にはぜひ私も呼ぶように! スピーチを担当しよう!」


 背中越しに陛下の言葉が飛んできたが、アルシウス様はまったくの無視。

 いっさい言葉を返すことなく、部屋から出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ