【13話】陛下との謁見
枯れ果てた巨木を私が復活させてから、ひと月ほど。
フロスティア王国に毎日のように降り続いていた雪は止み、毎日氷点下を記録していた気温も上昇。
今では、軽装で外に出られるくらいになっている。
そう、常冬だったこの国に春が来た。
太古の昔よりずっと続いてきた呪いから、ついに解放されたのだ。
アルシウス様によれば、そうなった要因は私の力にあるのだと言う。
バンクルを外したことで、私は本来の力を取り戻した。
それにより国にあらゆる恩恵をもたらす恵みの力も、大幅に強化。常冬の呪いを打ち破るにいたったのだとか。
今日はそのことをフロスティア王国の国王――レイゲル陛下へ報告するため、私とアルシウス様は王都を訪れていた。
「失礼いたします」
王宮の客間のテーブルに、私は腰を下ろす。
隣にはアルシウス様、そして対面には陛下がいる。
陛下……お目にかかるのは初めてだけど、威圧感のある人ね。
緊張してきたわ。
歳は40代くらいだろうか。
ずっしりとした屈強な体格と、厳つい顔立ちをしている。
こんなことを思うのは失礼かもしれないけど、ちょっと怖い。
「本日お伺いしたのは、この国の気候が変化したことについてです。そのことについて俺なりに考えをまとめましたので、陛下にご報告に上がりました。しかし本題に入る前に、まずは彼女について話す時間をください」
今回の件には、私が密接に関わっている。
だからまずは、どのようにして私がアルシウス様と一緒にいるのか、という部分から陛下に話す必要があった。
アルシウス様はまず私のことを語り、それが終われば続けて本題――気候変動についての報告をしていく。
報告内容は要点が簡潔にまとめられており、とても分かりやすい。
やっぱりアルシウス様は聡明なお方だわ。
横で聞いている私は能力の高さに感心していた。
素敵な人だと、改めてそう感じる。
「――以上が今回の件についての報告となります」
「ご苦労」
短く応えた陛下は、少し難しい表情をしている。
お気に召さない点でもあったのだろうか。
「隣国の大聖女が追放されたというだけでも驚いたが、まさかお前と一緒に暮らしているとはな。さらに驚きだ」
「研究を急ぐあまり報告が遅れてしまいました。申し訳ございません」
「よいよい、気にするな! そんなものは一番最後で構わん!」
ガッハハハと、大きな笑い声が部屋に響く。
気を悪くしていないのはよかったのだが、まさかそんな笑い方をするなんて思っていなかった。
ちょっとびっくりしてしまう。
……見た目のイメージとは、ぜんぜん違う方ね。
アルシウス様もだったけど、フロスティア王国の人間はそういう傾向にあるのかもしれない。
それともこの二人が特別なんだろうか。
そんなことを思っていると、陛下は再び舌を動かし始めた。
「春が到来したことで、この国は大きく変わり始めた。やせていた土が栄養をつけ、今では多種多様な農作物が実るようになった。近頃では、それを生業にする者も続々と現れてきている。以前では考えられなかったことだ。国の未来は明るく照らされている。……エレイン殿。これもすべて、あなたのおかげだ」
優しく笑った陛下は、まっすぐに私を見つめる。
「このレイゲル・フロスティア。国を代表してあなたに感謝する」
「おやめください! 私にはもったいなきお言葉です!」
まさか国のトップ直々にお礼を言われるなんて!
予想外にもほどがある。
大慌てになってしまった私は、ぶんぶんと首を横に振った。
「ほう……なんと謙虚な。容姿だけでなく心の内まで美しいとは、まったく素晴らしいな。良い女性を捕まえたな、アルシウス」
「な、なにをおっしゃる!」
「む? 違うのか?」
「エレインには俺の研究の手伝いをしてもらっているだけです! 陛下が思っているような関係ではありません! 勝手な想像を口にするのは控えていただきたい!」
「それはすまなかった。……しかし常に冷静で何事にも動じない前が、ここまで取り乱すとは珍しい。その様子では私の言うことも、あながち間違ではないように思えるがな」
「……。報告は済みました。これにて失礼します」
席を立ち上がったアルシウス様は、陛下に一礼。
行くぞ、と私に声をかけるなり、出口の方へ足早に歩いていってしまう。
「あの……失礼しました!」
ここで置いてけぼりを食らう訳にもいかないので、陛下に挨拶をしてから急いで後を追った。
アルシウス様の横に並ぶ。
「よいか、アルシウス。式を挙げる際にはぜひ私も呼ぶように! スピーチを担当しよう!」
背中越しに陛下の言葉が飛んできたが、アルシウス様はまったくの無視。
いっさい言葉を返すことなく、部屋から出ていった。




