【11話】こうなった原因
目を覚ますと、私は私室のベッドの上にいた。
傍らにはイスに座ったアルシウス様がいて、心配そうに私の顔を覗いている。
「気が付いたようだな」
「あの……私はいったい――っ!」
起き上がろうとするが、できなかった。
体が鉛のように重くなっていて、ベッドに溶接されてしまったみたいに動かない。
頭で命令しても、まったく言うことを聞いてくれなかった。
「魔力暴走のダメージがまだ残っている。今は無理をせず、きちんと体を休めていろ」
「……なんですか、それ」
――魔力暴走。
聞いたことのない不穏な言葉に、不安が募っていく。
「多すぎる魔力を制御できず、体内で暴走させてしまうことだ。バンクルを外したことで、キミの魔力は急激に増加した。それにキミの体は耐えられず、魔力暴走が発生。結果として気を失ってしまった」
「……要は、私が未熟だったということですね」
「長年抑えられていた魔力を一気に解き放ったのだ。こうなったのも仕方のないこと。自分を責めるな。むしろ非があるのは俺の方だ。こうなる可能性は十分にあったのに、予測できなかった。本当に不甲斐ない」
アルシウス様はそう言ってくれるが、やっぱり責任を感じずにはいられない。
雪山で倒れたあの日のように、今回も私のことを助けてくれたのだろう。
未熟さが原因で彼にまた迷惑をかけてしまったことが、ただただ申し訳なかった。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。次は必ず成功させますから」
「いや、もうやらなくていい。魔力暴走はキミが想像しているよりもずっと危険なものだ。今回は気を失うだけで済んだ。だが次に同じことが起これば、命を失うかもしれないのだぞ」
「構いません。もう一度私にやらせてください」
間髪おかずに返事をした私は、じっとアルシウスを見つめる。
その瞳には、いっさいの迷いがない。
反対にアルシウス様はうろたえていて、
「……どうしてそこまで」
小さな声で聞いてきた。
「アルシウス様が現れなければ、私はあの日あの雪山で死んでいました。ですからこの命は、あなたのために使いたいのです。そのためでしたら、死んでも構いません」
「……。もう一度聞く。本気なんだな?」
「はい」
「分かった。だが次は俺も、全力でサポートする。それと、一つ約束してくれないか」
身を乗り出したアルシウス様は、私の手をギュッと握った。
「死んでもいいなんて、二度と口にするな。キミがいなくなれば悲しむ人間もいる。どうかそのことを忘れないでほしい」
「……かしこまりました」
悲しんでくれる人間が誰かなんて、私には心当たりがない。
でもアルシウス様がそう望むのであれば、従おうと思う。




