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【おとなの童話】  作者: 米森充


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3/3

僕(シバ犬)と二人のご主人の物語(前)

 僕の名前は「ケイ」♂(おす)。

 

 僕と今のご主人との出会いは、動物管理センターにふらりと新たな『ご主人』となる人が現れた時に始まる。


 『ケイ』と言う名前は、のちにそのご主人がつけてくれたんだ。


 それじゃ、その前の僕って何て名前だったの?


 ・・・忘れた。

 

 『前のご主人』があれだけ愛情を込めて呼んでくれたのに、どうしても思い出せない。

 その『前のご主人』って僕が生まれた時からずっと育ててくれたし、とても可愛がってくれたよ。それなのにそのご主人がつけてくれた筈の僕の名前すら思出せないなんて、なんて恩知らずなんだろう。ごめんね。

 だけど『前のご主人』の優しさや笑顔や匂いだけは決して忘れていないよ。

 あぁ、また会いたいな。だって離れ離れになって随分経つからね。


 あの日、僕の住む家の前の道を、オルゴールの音楽を大音量で鳴らしながら走る宣伝カーが目に入ってね。僕はその車から発せられる柔らかい、誘われるような魅惑の音色に心を奪われて、夢中で家を飛び出しちゃったんだ。

 それからその車の音楽を追いかけているうちにハッと気が付くと、全く知らない場所にいた。

「ここは何処?」迷子になった僕。

 そう、僕はその日から野良になっていた、ごくありふれたシバ犬だよ。


 年齢は自分じゃよく分からないけど、ずっと前から日に日に体力が落ちているし、毛並みも悪くなってきているから、認めたくないけど年寄ジジイり犬だと思う。

 『骨っ子』のような硬い食べ物は噛みきれなくなってきたし。できればお粥とか缶詰のような、ペースト状の柔らかく食べ易い物にありつけられたら嬉しいし。放浪さすらいしながらただ歩いていると、すぐ疲れてくるし。

 でも、食べ物なんてそうそう容易く見つけられないよ。空腹のまま何日も街をあてもなく歩いていると、僕は突然!野良犬捕獲専門の人に捕獲されてしまった。


 そしてここ、『動物管理センター』に連れていかれ、たくさんの先住犬がいる檻の中に押し込まれてしまったんだ。


 僕はここがきらい!

 だって、センターの係の人は偉そうに僕を従わせようとするんだもん。

 「お手」だの「お座り」だの、誰がそんな服従なんてするもんか!

 多分、僕がどれ程の者だと試したんだろうけど、その手には乗らないね!僕は僕さ!孤高のワンコなんだから!


 それにしても、ここの先輩同居者達はやたら『ワンワン』うるさい。

 しかも意地悪で不親切。僕に無関心か、威嚇する。僕は歓迎されていないようだ。

 そんないろんな犬種の先輩達の性格は様々だけど、昼も夜もよくもまぁ、吠える。そんなだから人間社会から疎まれ、簡単に捕獲されたんだろ?よく飽きずに吠え続けているな。


 ある日気づいたんだけど、毎日ある時間になると人間の係員のオジさんが檻に入ってきて先輩犬の一人(匹)をどこかに連れて行くんだ。

 そして二度と戻ってこない。・・・・そのうち僕はだんだん不安になってきた。  一体あの先輩犬は何処に連れて行かれたのだろう?

 こんな救いようの無い寒々したところにいると、僕はもう一度大好きなあの『ご主人』に無性に会いたくなる。ここから脱出してご主人を探したい。


 悪いか?


 そんなある日、見知らぬ中年の男の人がここの係員に伴われ、僕らのいる檻のある部屋にやってきた。それが冒頭のおじさん。



 他の先輩犬たちは、あれから4、5人(匹)に減ってしまったが、相変わらず「ワンワン」うるさい。彼らは自分たちの置かれた状況に対して何も感じないのか?疑問に思わないのか?毎日のように仲間が何処かに連れ去られ、二度と会えないんだぞ!

 彼らは一体、どうなったのだろう?



 僕は彼ら先輩犬たちを尻目に、様々な不安と冷たい檻の中の雰囲気から片隅でブルブル震えていた。

 そんな僕の事、小心者って言う? 

 あぁ、そうだよ!僕は小心イヌさ!ほっといて!



 

 その時やってきたそのオッサンはひとしきりジーッと檻の中を眺めると、おもむろに檻の隅でブルブル震え続ける僕を指差したんだ。


 え?僕は指名された?


 檻の中に入ってきた係員。僕に真っ直ぐ向かってやってくると、僕を捕まえ檻の外に連れ出した。



「良かったねぇ!良かった!良かった!」「ウン!ウン!ヨシヨシ!お前、とっても幸運だったな!・・・良かったなぁ!」などと、ここに居合わせた係の人達が一様に皆、僕の事を祝福してくれている。涙ながらに僕の顔や背中を盛んに「撫で撫で」しながら。

「お前、命拾いしたなぁ、幸せになるんだぞ!」と、クシャクシャの笑顔で。


 僕はどうなったの?


 どうやら僕はこのおじさんに譲渡されたみたい。



 そして係員の一人がこのおじさんに首輪と綱が一緒になったリードと、僕の身体を毎日拭いてくれたタオルケットを大切そうに渡していた。

「ありがとうございます。」硬い握手の後、おじさんが係員の皆さんに頭を下げ、抱っこしながら僕をおじさんが乗ってきた車の後部座席に乗せた。


 動物管理センターの人達総出で、手を振り車窓の僕を見送ってくれながら。



 こうして僕は新しい飼い主であるご主人の家に連れて行かれた。


 ご主人の家はあの管理センターから車で30分程離れた郊外に一人暮らしのようだ。 他にこの家には誰も居ないし。多分、ここから僕とこの新たなご主人とのふたり暮らしが始まるらしい。






     つづく





 



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