【おとなの童話】癇癪《かんしゃく》カンタのひろしくん
僕はひろし。
ひとりぼっちで生きてきた。
この世に夢なんか無い。
お父さんもお母さんもずっと前に死んじゃった。
僕には友達なんて一人もいないし、その方が気軽でいいや。
ひとりの方が誰にも気を使わず好きに生きられるし、他人に干渉されるなんて我慢がならないし。それに嫌な事には関わらないで済むし。
他人は僕の事、斜に構えた一風変わった人[変人]と思っているみたい。
ひとりぼっちって、なんて素敵なんだろう?
そう思わないかい?
そんな僕はいつも自由気ままに生きてきたせいか、非効率や無駄な事が大嫌いで人に指図されるのも嫌い。
だからせっかく工夫を凝らして無駄を省いているのに、些細な事で手抜きと思われ他人に説教されると癇癪爆弾が炸裂するんだ。(人はそんな僕を見て、『癇癪カンタ』ってあだ名をつけているのを知っている。)
この前も女上司に、僕がやった仕事の出来栄えについて、ほんの小さな事を指摘されて地団駄踏んで言い返してしまった。
彼女はせっかく優しく諭すように言ってくれたのに、僕は男のプライドを傷つけられたような気がして頭に血が登ったんだ。
こんな僕に対してでも、彼女はいつも優しかった。
実は今、僕は少々困っている。もう一月前から原因不明だが目の周りが腫れて真っ赤にただれたような症状が出てきて悩まされているんだ。
側から見たら、まるでお岩さんのようにギョッ!とする顔に変容してしまったのだから。
でも、僕なんて見た目がどうであろうと誰も気にしやしない。ほっといてくれ!そう思うほど、人生にイジケていた僕。
そんな状態になるまで放っておいた僕も悪いが、そんな顔で仕事に行ったら、あろう事か職場の人たちが僕の顔を見て一様に驚き「病院に行って医者に診て貰いなさい」って言う。
僕は医者も病院も嫌いだし、第一面倒くさいし、待合室で待たされるのは嫌だし、眼科に行くのか皮膚科が正解なのか分からないし。
眼科から皮膚科にたらい回しされたら最悪だし。
だから僕は病院に行けと言われる度に「ヤダね!病院なんか行かないよ!」って言うんだ。
あの優しい女上司にも言われたけど、ワザといつもより憎々しげに言ったら、とても悲しい顔して僕の顔を見ていたよ。
『ザマァみろ!そうやって僕を見下して偉そうに言うからだ!』って思って得意になった僕。
そんな僕を見かねて話しかけてくるお節介なオッサンがいた。
「せっかく人が親切で忠告してくれているのに、そんな言い草はないだろ?
人はな、親切な言葉をかけてもらえるうちが花なんだぞ。
君は少し拗ねたところがある様だし、意固地なところもある様だな。
でもな、人の親切は素直に受け取るもんだ。もしその気が無くとも、せめて親切には感謝の言葉を添えて「でもこう言う理由があるので結構です。」くらいの礼儀は欲しいな。
そうは思わないかい?それがおとなというものだ。」
そのオッサンは小太りで白髪混じりの坊主頭で見た目はちょっと怖いし、いかにも関わると面倒な人に見えるから無言でいると、更に調子に乗って言ってきた。
「それにな、アンタのその症状は他人から見ただけで不安になるぞ。もしかして、何かの感染症じゃないか?って。
もしもそうなら、アンタが触ったところから感染するかもしれないだろ?
アンタが受診して何が原因か調べて貰わなきゃ、沢山の人に迷惑をかけるって分かるだろ?だから人の話は聞くもんだ。
人間社会も会社も家族も友達も、決して独りよがりでいたら上手くいかないものだ。そうだろ?
アンタは今までひとりで生きてきたつもりかもしれんが、この世に人として生きてきたのなら、必ず他人との関わりがあるものなんだ。必ず誰かに負担をかけて、誰かに迷惑をかけてきたものなんだ。
アンタもワシもな。人は皆、お互い様なんだよ。
だから自分だけで大きくなったつもりの傲慢さは捨てて、もっと謙虚になりな。それに人の生活や仕事や生き方に無駄なんて無い。手を抜かず、丁寧に生きる事だよ。真摯に生きろ。
アンタもワシもひとりじゃない。社会の一員であり、大切な存在なんだ。その事を忘れてはいけないぞ。分かったか?」
「・・・・・ウン・・・・分かった。」何となく分かったような釈然としない気持ちだが、オッサンの上から目線で偉そうな説教を終えた後の満足そうな顔を見てムカついたが、それに反論する意欲も湧かず、その場はこれで抑えようと思った。
思えばよく癇癪を起こさなかった!偉いぞ!僕!!
そしたらオッサン、調子に乗って更に言ってくる。
「それじゃ、この続きは近くの居酒屋で飲みながら話そう。」と言ってきた。
僕は「僕、酒は飲まないんで。じゃ!」素っ気なくいなす僕。
「そうか・・・。」物欲しそうなオッサンの残念な顔。
さっきのオッサンの説教が何故か心に残る。
僕はひとりじゃない?社会の大切な存在?
ホントかな?
考えごとをしながら歩いていると、女上司が目の前に。
こっちに気がつくと、何かを探るように見てくる。でも相変わらず優しい眼差し。
僕はその時初めて気づいた。
彼女も他の人たちも皆んな僕の事を見守ってくれていたんだ、と。
・・・・申し訳ない・・・・
これも初めて思った。
僕は彼女に向かって頭を下げた。
それを見て彼女はニコリと笑う。
何だか心が通じたようだ。
ヨシ!今日、仕事終わりに病院に行こう。
諭してくれたオッサンには素直に感謝できないが(だって憎たらしいほど顔が厳ついもん。)
でも、いつも気を配ってくれた女上司の彼女には感謝したくなってきた。
それと同僚のおばちゃんたちにも。
僕ってこんなに単純で素直だったかな?
顔の症状には不安が残るが、心のモヤモヤと闇は何故か晴れてきたような気がする。
明日から、皆んなに「ヤッ!」って明るく挨拶できる気がする。
あのオッサンなら「おはようございます。だろ?」ってまた説教してくるだろうが。
おわり
童話を描いたつもりだったが、だんだん童話っぽくなくなってきたけど、イベント企画の童話のジャンルで出品します。
異論は受け付けませんので悪しからず。




