プロローグ 魔の森の入り口
魔の森って、もっと怖い場所かと思ってた。
でも、風は気持ちいいし、苔はふわふわしてるし、なんなら昼寝できそうな感じ。
あ、あの木、顔みたいな模様してる。かわいいかも。
僕は、ここで育った。
誰が育ててくれたのかはよく覚えてないけど、魔物たちはみんな優しかった。
フィアはよく僕の髪をいじってくるし、バルドは「ノア様はもっと肉を食え!」ってうるさいし、メルは……うん、メルはちょっとよくわかんないけど、たぶん僕のこと好きなんだと思う。
文様?
うーん、昔から腕にあったけど、別に痛くもかゆくもないし、かっこいいと思ってる。
魔物たちは「ノア様の文様は特別だ」って言うけど、僕はただの模様だと思ってる。
人間たちは、これを見るとすごく怖がるんだよね。
昨日も森の外から兵士が来て、僕の顔見た瞬間に叫んで逃げてった。
僕、笑ってただけなのに。
──その頃、王都では──
「確認されたか?」
「はい。第三王子ノア=グレイシア、生存。魔の森にて魔物を従えているとの報告です」
「処分したはずだ。文様が現れた時点で、王族としての資格はない」
「民に知られれば、王家の信頼は崩れます。神罰と受け取られる可能性も……」
「……再処分を検討しろ。今度こそ、確実に」
──ノアは、森の奥へ進んでいた。
花を摘みながら、鼻歌を歌いながら。
世界が震えていることなど、まるで気づいていなかった。
森の奥に、でっかい石がある。
苔に覆われてて、触るとひんやりしてて気持ちいい。
フィアが「それ、昔の神殿跡だよ」って言ってたけど、僕にはただの大きな石にしか見えない。
でも、たまにその石の前で寝ると、変な夢を見るんだよね。
空が割れて、龍みたいなのが飛んでて、僕の腕が光ってて――
うーん、夢って不思議。
「ノア様、また石の前で寝てたんですか?」
フィアが、しっぽを揺らしながら近づいてくる。
「うん。なんか、空が割れる夢見た」
「……それ、たぶん予知夢ですよ」
「えっ、そうなの? でも空が割れるって、どういう意味?」
「世界が終わるってことです」
「えー、やだなあ。僕、まだこの苔の上で昼寝したいのに」
──王都・地下会議室──
「文様の位置は一致している。第三王子ノアで間違いない」
「魔物を従えているという報告もある。幹部級の魔物が四体、常に傍にいるらしい」
「……神話の再来か」
「民には“神罰が近づいている”と囁かれている。王家の血に龍人の因子が混じったと知れれば、我々は終わる」
「再処分は不可能だ。もはや、手が届かない」
──森の中──
「フィア、今日のごはん何?」
「バルドが猪を狩ってきました。焼きますか?」
「うん、焼いて! あ、でも焦がさないでね。前みたいに真っ黒なのはちょっと……」
「……あれは“野性の味”です」
「いやいや、野性すぎるって!」
ノアは笑っていた。
魔物たちも笑っていた。
その笑い声が、森の外では“災厄の足音”として伝えられていた。
─王都・王宮地下──
「第三王子ノア=グレイシア、生後三日目に文様が発現」
「位置は左腕。龍人族の文様と一致。魔素濃度も異常値」
「民衆の不安を考慮し、処分を決定。魔の森へ移送」
「記録は抹消。王族名簿からも削除済み」
「育成は?」
「魔物側に委ねた。接触は一切なし」
「……神罰と見なされぬよう、沈黙を保て」
記録官は、羊皮紙に印を押した。
その手は、わずかに震えていた。
──森の奥──
ノアは、焼けた猪肉を頬張っていた。
「うまっ! バルド、今日のは当たりだね!」
「当然だ。ノア様のために、三日間追い続けた獲物だ」
「えっ、そんなに? じゃあ、もっと味わって食べなきゃだね」
彼は笑っていた。
自分が“処分された王子”であることなど、知る由もなかった。
森の外って、ちょっとだけ気になる。
フィアには「出ちゃダメです!」って言われるけど、別に悪いことするつもりはないし。
昨日、森の端に咲いてた青い花が気になってて、ちょっと見に行くだけ。ほんのちょっと。
「ノア様、また外に出るんですか?」
「うん、花がね、すごくきれいだったんだよ」
「……人間たちが見たら、また逃げますよ」
「えー、僕、花見てるだけなのに」
──森の外・村の見張り台──
「……見えた。あれが、文様の者だ」
「本当に? あんなに穏やかな顔をしてるのに……」
「笑ってる。あれは、我々を見下しているのか?」
「いや、違う。あれは“神罰の使い”だ。我々の罪を見て笑っているんだ」
兵士たちは剣を抜いた。
けれど、誰も一歩も動けなかった。
ノアは、ただ花を見ていた。
──森の中──
「フィア、この花、君にあげる」
「えっ……ノア様、それ、森の外の……」
「うん。すごくきれいだったから、君にも見せたくて」
「……ありがとうございます。でも、次からは私も一緒に行きます。護衛として」
「えー、護衛なんていらないよ。僕、強いし」
「それが問題なんです」
森の外って、ちょっとだけ気になる。
フィアには「出ちゃダメです!」って言われるけど、別に悪いことするつもりはないし。
昨日、森の端に咲いてた青い花が気になってて、ちょっと見に行くだけ。ほんのちょっと。
「ノア様、また外に出るんですか?」
「うん、花がね、すごくきれいだったんだよ」
「……人間たちが見たら、また逃げますよ」
「えー、僕、花見てるだけなのに」
──森の外・村の見張り台──
「……見えた。あれが、文様の者だ」
「本当に? あんなに穏やかな顔をしてるのに……」
「笑ってる。あれは、我々を見下しているのか?」
「いや、違う。あれは“神罰の使い”だ。我々の罪を見て笑っているんだ」
兵士たちは剣を抜いた。
けれど、誰も一歩も動けなかった。
ノアは、ただ花を見ていた。
──森の中──
「フィア、この花、君にあげる」
「えっ……ノア様、それ、森の外の……」
「うん。すごくきれいだったから、君にも見せたくて」
「……ありがとうございます。でも、次からは私も一緒に行きます。護衛として」
「えー、護衛なんていらないよ。僕、強いし」
「それが問題なんです」
森の外って、ちょっとだけ気になる。
フィアには「出ちゃダメです!」って言われるけど、別に悪いことするつもりはないし。
昨日、森の端に咲いてた青い花が気になってて、ちょっと見に行くだけ。ほんのちょっと。
「ノア様、また外に出るんですか?」
「うん、花がね、すごくきれいだったんだよ」
「……人間たちが見たら、また逃げますよ」
「えー、僕、花見てるだけなのに」
──森の外・村の見張り台──
「……見えた。あれが、文様の者だ」
「本当に? あんなに穏やかな顔をしてるのに……」
「笑ってる。あれは、我々を見下しているのか?」
「いや、違う。あれは“神罰の使い”だ。我々の罪を見て笑っているんだ」
兵士たちは剣を抜いた。
けれど、誰も一歩も動けなかった。
ノアは、ただ花を見ていた。
──森の中──
「フィア、この花、君にあげる」
「えっ……ノア様、それ、森の外の……」
「うん。すごくきれいだったから、君にも見せたくて」
「……ありがとうございます。でも、次からは私も一緒に行きます。護衛として」
「えー、護衛なんていらないよ。僕、強いし」
「それが問題なんです」
森の外って、ちょっとだけ気になる。
フィアには「出ちゃダメです!」って言われるけど、別に悪いことするつもりはないし。
昨日、森の端に咲いてた青い花が気になってて、ちょっと見に行くだけ。ほんのちょっと。
「ノア様、また外に出るんですか?」
「うん、花がね、すごくきれいだったんだよ」
「……人間たちが見たら、また逃げますよ」
「えー、僕、花見てるだけなのに」
──森の外・村の見張り台──
「……見えた。あれが、文様の者だ」
「本当に? あんなに穏やかな顔をしてるのに……」
「笑ってる。あれは、我々を見下しているのか?」
「いや、違う。あれは“神罰の使い”だ。我々の罪を見て笑っているんだ」
兵士たちは剣を抜いた。
けれど、誰も一歩も動けなかった。
ノアは、ただ花を見ていた。
──森の中──
「フィア、この花、君にあげる」
「えっ……ノア様、それ、森の外の……」
「うん。すごくきれいだったから、君にも見せたくて」
「……ありがとうございます。でも、次からは私も一緒に行きます。護衛として」
「えー、護衛なんていらないよ。僕、強いし」
「それが問題なんです」
ノアは、花を差し出した。
フィアは、それを受け取った。
その瞬間、村では鐘が鳴り響いていた。
“神罰が近づいた”という合図だった。
──プロローグ・終──