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『ダンジョンが枯渇しない限り、その領地は飢えを知ることはない』
そう言われるほどに、ダンジョンというものは資産であり資源でもある。
ダンジョンが枯渇したとしても、贅沢さえしなければ数代は食べるものには困らない。
当然、ダンジョンを所有する領地を持つ国にも多くの財源をもたらしてくれる。
ダンジョンに冒険者が現れ、使用料を支払い。ドロップするアイテムの何割かを寄付することでその領地の収入源になっている。
下級ダンジョンですらお金になる。
なりたての冒険者は、下級ダンジョンで力をつけるために通い詰める。
使用料は、微々たるものだがドロップしたアイテムを必ず寄付してくれることになるため、それが高く売れるのだ。
ごく稀に、下級ダンジョンに上級モンスターが発生することがあるが、何かの「理由」がなければそんなことはあり得ない。
つまり安全が確約されている。
調査が不十分で後に中級ダンジョンだったと発覚する事件も過去に数回ほどあった。
だが、法律の改正によりダンジョンの調査が不十分で事故が起きた場合は厳罰化されたため、調査は細密に行われている。
ちなみに、ダンジョンの調査が不十分で事故が起きた場合は、ダンジョンを完全に閉鎖するという措置が取られるようになっている。
そうなると、発見した領地からしたら財源がなくなってしまうので死活問題になる。
だから、国も発見した領地もかなり細密にダンジョンの調査をするのだ。
皇太子達が、入ったダンジョンは最近発見された下級ダンジョンだった。
ちなみに、発見所有管理をしているのは、爵位を返上する寸前だった男爵家だ。
彼らは、ダンジョンを見つけたおかげで、領地の立て直しをすることができた。
男爵令嬢は、良縁に恵まれたそうだ。
……それほどまでに、ダンジョンは彼らの生活を変えたのだ。
調査は、細密に行われて安全だと判断されたので、そのダンジョンに入ることになった。
安全性はかなり高く。S級モンスターのヒドラが出るなどあり得ない事だった。
初めは、落石などと不慮の事故だと大人達は考えていたが、ヒドラが出た。ということもあり個別に話を聞き取りする必要があると調査団は判断した。
まず最初に、聞き取り調査を終えてからダンジョンを閉鎖するかどうか決めることになったのだ。
また、皇太子婚約者の家門にすぐさま報告をすると、意外なことにも彼女とは不仲と言われていた義弟がその場で膝から崩れ落ちた。
「ね、姉さんは……?ちゃんと探してくれるんですよね?」
義弟は、報告に来た者に縋りつき今にも泣き出しそうな顔をしていた。
それは、どう見ても姉を心配する弟だった。
「落ち着きなさい。お前が取り乱したらあの子が不安になってしまうだろう?」
「そうよ。貴方は自分の立場を考えなさい。まずは落ち着いて」
それを、止めるのが婚約者の両親だ。
けれど二人の目には、涙が浮かび上がっていた。
貴族の家には珍しく家族関係は良好なようだ。
それが良かったのか、残された家族にとっては不幸なのかもしれない。
義弟は義姉を嫌っているようには見えず。むしろ、実の姉のように思っているように見えた。
「お願いです。探してください。お金には糸目をつけませんから、僕の個人的な資産を全て使ってください。冒険者、いや、S級の冒険者を呼んで姉さんを探してください!お願いです。僕もついていきます」
義弟が演技で義姉を心配しているようには、とても見えなかった。
彼は、財産を投げ打って危険を顧みず自分も探しに出る。と言い出した。
「やめなさい。お前はこの家を継ぐんだ。もしも何かあったとしたら、あの子が悲しむ」
皇太子婚約者の父が義弟の肩を掴んだ。
彼も義弟と同じ気持ちなのが伝わってくる。
「ですが、何もできずに待っているだけなんてあまりにも辛いです!」
義弟は「姉さんが……、姉さんが、早く見つけないと」と、何度も呟き取り乱している。
本当に不仲なのだろうか。
報告に来た者は、違和感を持った。
不仲。とはいえそこまでの行動を示そうとする義弟と探す必要はない。ダンジョンを閉じろ。と言い出す仲睦まじいと言われた皇太子。
その差は歴然としていた。
皇太子達の言っている事は血も涙もない。
きっと、助かる事なんてないのだから見捨てても問題ない。と思っているようだ。
報告に来た者は、皇太子婚約者家族が傷つくと思い。
ダンジョンを閉鎖しよう。と、皇太子達が訴えている。とは、とても言えずにいた。
消えた婚約者家族に報告した者は、すぐに上に報告をした。
聞き取り調査時に、彼らと皇太子婚約者との関係性も聞き取る必要がある。と、判断された。
事故というにはあまりにもできすぎている。万が一の可能性もあるからだ。
そして、S級冒険者を呼び出して、ダンジョン内の探索もすることとした。
その件は、皇太子たちには伏せると決めた。
彼らが何かを隠している可能性があるからだ。