完璧に快適な室温
「ねえ、なんだか暑くて寝苦しくないかしら」
ベッドの中で妻が眠気を含んだ口調で口にした言葉を夫は笑い飛ばす。
「なにを言ってるんだ。室温は高性能AIによって完璧に管理されてるんだぞ。どこの家でもそうだろ。気の所為に決まってる」
しかし夫の言葉に納得できないのか妻は天井にある高性能マイクに向けて話しかける。
「ねえ、いつもより気温が高くないかしら」
「いいえいいいえ、おく……奥様。いつも通り完璧にににに快適な室温がが保たれていますす」
妻はなんだか変な気がしたが、しかしこれで自分と夫とAIで2対1である。
眠気とじっとりとした暑さのせいで頭がうまく働かない妻は、どこか釈然としない思いを抱えたまま、隣で眠る夫の寝息を子守歌にして夢の世界へと旅立っていった。
その年は例年をはるかに超える暑さによって、家に備え付けられた高性能AIの多くが故障していることが分かるにはもう少し時間がかかった。