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魅了持ちの執事と侯爵令嬢  作者: tii
一章 帝都セレスティア
8/80

8執事と茶会

翌日、炊き出しを終え、無事に帰還したカーチャたちは、

しばしのあいだ穏やかな日々を過ごしていた。


時が流れ、およそ一月後のこと――

邸宅にはユリウスが訪れ、主と共に静かな茶のひとときを持つこととなった。


「炊き出しまでしていただいたとか。まことに感謝している」

そう述べるユリウスの言葉と共に、女中たちはユリウスより贈られた果実や高級茶葉を、忙しなく、しかし丁寧に受け取っていた。

それらは決して形式的な贈り物ではなく、真心を感じさせる上等の品ばかりであった。


そしてユリウスは、ふと笑みを浮かべ、カップを傾ける。


「また――執事殿の噂も耳にしたよ。あの炊き出しの列、尋常ではなかったそうだね」

「まったく……その美貌には、呆れるばかりだ」


ユリウスの視線がちらりと隣に控える男に向けられる。

執事は、静かに控えたまま一礼し、何も語らずとも、空間の気配を支配していた。

整えられた銀のティートレイ、その上に置かれた茶器は、すべて彼の手によるもの。

その所作には、どこか凛とした気迫があった。


ユリウスは、声をやや低め、話題を変える。


「ただ――ひとつ、気になる話がある。

最近、“舞踏会荒らし”と呼ばれる者が現れたそうだ。

どこぞの伯爵と聞くが、君の執事殿とは対極の存在で、礼節など持たぬ野性味に満ちた男。

その美貌で、数多の令嬢を……“餌食”と呼ぶのは語弊があるが、手ごめにしているという噂だ」


執事のまつげが一瞬だけ影を落とし、茶匙が微かに静かに置かれた。

音なき威圧、それだけで場の空気がひきしまる。


ユリウスは続ける。


「その者がこう言っている。

“件の地域で慰問の折に歌っていた令嬢――その名を教えろ”と」


あの慰問は、ユリウスからの秘密裏の依頼であり、

それに応じたことも広く知られてよいものではなく、大掛かりに探されるような事態は放置できない。


「……ああいった会が苦手なのは存じている。

だが、どうか。次の舞踏会に、ご出席いただけぬか」


静寂の中、カーチャは執事の気配を感じ取っていた。

彼は何も語らぬが、その背には、

「命じていただければ、いつでも動ける」

――そんな覚悟が、たしかに漂っていた。



茶会の終わり際、ユリウスはこともなげにそう言った。

「このあと少し、執事殿をお借りしてもよろしいか?」

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