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魅了持ちの執事と侯爵令嬢  作者: tii
二章 隣国
57/100

57陽光は静かに絡めとる

 謁見の間は、黄金のモザイクと白大理石がまばゆく輝いていた。

高い天井から吊るされた水晶灯が、窓から射し込む午後の光を受けてきらめき、その反射が壁面に揺らめく。

床を覆う緋色の絨毯の両脇には、背の高い金の柱が並び、柱頭には太陽の紋が浮き彫りにされている。


この国は「太陽に愛された国」と呼ばれ、黄金色は権威と祝福の象徴だった。

 その中央、来訪者を迎える席に立つのは、帝国の名誉元帥ヴァルター・フォン・ロゼンクロイツ。

光を受けたその姿は、まるでこの国の象徴色を凝縮したかのようだった。

燦めく金糸のような髪はわずかな動きで陽光をはじき、肌は陶磁のように滑らかでありながら温もりを含む白。

長身に纏った深い軍礼服は、鋭い線と緩やかな曲線の対比でその均整を際立たせ、瞳に宿るのは陽光を閉じ込めたかのような琥珀色――覗き込む者を底から掬い上げる光だ。


 後方には黒衣のユリウスが静かに控え、そのさらに後ろには第一皇女ナナが、表情を抑えて立っていた。

参謀が一歩進み出て、朗々と声を張る。

「帝国の名誉元帥ヴァルター・フォン・ロゼンクロイツ閣下、および随行の方々でございます」

 表向きは軍事助言を仰ぐための招聘。形式は歓迎の場だが、その空気の奥には互いを値踏みする視線が潜んでいた。


 その時、奥の扉が静かに開く。

金と黒の刺繍を施した長衣を纏い、女帝がゆるやかな歩調で入室する。

揺るぎない威厳を纏いながら歩みを進めたその足が、ヴァルターの正面でふと止まった。


 視線が彼に注がれる。

女帝の国を象徴する陽光の色を、そのまま人の形にしたような存在――その光景に、女帝の瞳が一瞬だけ見開かれる。

息を吸い、紅を引いた唇がわずかに綻んだ。


「……まあ」

 低く、息に混じる感嘆。

「これほどの……」


 ヴァルターは変わらぬ礼儀正しい所作で深く一礼したが、その姿が黄金の間に差し込む光をさらに強くするように見え、廷臣たちの間にざわめきが生まれた。


 女帝の感嘆が謁見の間に淡く響くと、参謀は即座に一歩進み出て頭を垂れる。


「陛下、閣下の軍略は諸国に並ぶ者なしと評判です。本日は、この国の防衛計画についてご助言を賜りたく――」

 声には礼節と期待が織り込まれ、周囲の廷臣たちは同意のように頷いた。


 女帝はゆるりと玉座へ腰を下ろし、視線を逸らさぬまま柔らかな微笑を浮かべる。

「ええ……太陽の恩寵を受けたこの国を守る策なら、なおさら聞いてみたいものですわ」

 言葉は歓迎の体裁を保ちつつも、その瞳の奥に、国防を論じるときの鋭さとは異なる柔らかな光が宿った。


 背後の黒衣、ユリウス殿下は感情を表に出さず、女帝の視線の色を静かに見極めている。

わずかな顎の傾きでヴァルターの立ち位置や間合いを確認するその所作は、従者を超えた冷静さと指揮官の目を兼ね備えていた。


 一方、ユリウスの背後に控えるナナは、感情を押し殺した面差しのまま、時折視線をわずかに動かす。

それは女帝でも参謀でもなく、ヴァルターとユリウスの間を測る動きだった。


 参謀が促す。

「では、陛下よりお許しを賜りましたら、閣下のご意見を……」

 玉座から、金糸の袖が軽く動く。

「ええ、始めましょう。――名誉元帥」

黄金に満ちた謁見の間で、静かな視線が交差する。

明日も20時あたりに更新します!

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