表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅了持ちの執事と侯爵令嬢  作者: tii
一章 帝都セレスティア
14/100

14執事と貴公子

その夜の舞踏会は、ユリウスの主催により、豪奢の極みとも言える催しであった。

白大理石の階段、煌めくシャンデリア、絹のカーテンが風にそよぎ、バロックの弦楽が会場を満たしていた。


あの時の衣装に似た白銀色のドレスに身を包んだカーチャ様は、群衆の中にあってひときわ凛と輝いていた。

その傍らには、深紅のヴェルヴェットに黒を効かせた、執事が静かに控えていた。

品格と冷気を帯びた美貌、その立ち姿すら装飾の一部と化す存在。まるで玉座に侍る黒曜石の衛士のようである。


カーチャは会場中央のソファに腰をかけ、時折来賓たちに挨拶を返していた。


「まるで、おとり捜査をしているみたいね……」


執事は唇の端だけで静かに微笑んだ。


「しかしながら、カーチャ様。……いつもながら、ひときわお美しい。

この会場に咲く白薔薇、そのものにございます」


「……よく言うわ」


視線をそらして小さくため息をつくカーチャ様。


その瞬間だった。

会場の入口がざわついた。


視線が一斉に集まる。

そして、すべての喧騒が、吸い込まれるように沈黙へと変わった。


“野薔薇の貴公子”と噂される人物が姿を現したのだ。


燦然たるプラチナブロンドの髪に、全てを見透かすような金色の双眸。

端正にして、どこか獣じみた野性味を纏う美貌の青年──

その不完全さすら魅力として輝かせる気配は、執事とはまた異なる類の美しさであった。


見る者の心を、気づかぬうちにからめ取る。

まるで薔薇の茨が、香りに酔った魂を絡めとるように。


男はゆっくりと、しかし確かな足取りで会場を横切り、

カーチャ様の前へと進み出る。


そして言った。


「……あなたさまが」


ひと息分の静寂。

カーチャの前に颯爽と跪きこう言ったのだ。


「──あなたを探し求めていた。

いかなる花も、その気高き美には遠く及ばず、

その声は、夜明けに響く竪琴よりも清らかだ。

どうか……この身をあなたの伴侶としてお受け取り願えますか」


会場がどよめいた。

唐突な求婚、しかしその眼差しには一片の冗談も浮つきもなかった。


貴族たちはその美しき“野薔薇”の告白に酔いしれ、誰もがその続きを見届けることを願っていた。

だが、カーチャの隣に立つ執事は冷ややかにその光景を見つめていた。


(まったく――やってくれる)


その様子を、会場の奥から鋭く見つめる者がいた。

主催者たるユリウスである。


青の双眸が理性を宿し鋭くとらえ、執事と“野薔薇の貴公子”──ヴァルター卿の姿を静かに照準した。

まるで観察対象に興味を抱いた、冷静なる学者のように。


(……想定外、だな)


ユリウスの瞳に、一瞬いら立ちの色が灯った。

だがすぐに、それも深い静謐に沈んでいく。



さて、わたくしも挨拶させていただこうか。



――これは、ただの舞踏会ではなく。

一つの運命の夜の、幕開けであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ