実況者と繋がりたい、女の話。
あたしビイコは、とあるゲーム実況者と繋がりたいと思って、彼の好きな食べ物、興味を持ちそうな内容を知る為、上がった動画を視聴したり、ボヤッターでの近況報告をチェックしている日々。
「今日、美少女ゲームなのぉ…!? しかも、ボイス付きって……嫌だなぁ…。もし、コレで、声優さんと繋がったら、如何しよう…」
如何しても、観たくない動画の時は見ない。それによって、彼がこのジャンルは伸びないんだなぁ…と判断して、なるべく“この系”を実況しないでくれるから。
そーゆう、視聴者の事を考えてくれる彼の事が大好き♡
「しかも……また…あの女が、作ったゲーム……」
彼は最近、とある作者のゲームを、コレでもかと実況する。再生数が少ないのに、だ。
その作者の事を調べたら、“女”だって事。
彼が実況する度に、これ見よがしに、「また私が制作したゲームで遊んでくれて有難う御座います♡」というコメントを、みんなが閲覧出来る場所で書き込むという、“私は彼から特別扱いされてる女です”アピールがうざい奴だ。
コイツのボヤッターでのぼやきを何度か見た事があるが、同性の事をさらっとディスる内容が多く、それでよく美少女との恋愛をテーマにしたゲームが作れるなぁ、と感心してしまう。
彼と関わる為に、ゲームを道具にしているのが、あからさまだから…。
実況を視聴する度に、彼は勘がイイ印象だ。だから、この女製作者の下心に気付いてないワケがないクセに、何故かコイツが作ったゲームを取り上げる。…しかも、何度も。
二人はデキてる…。だから、あの女は特別扱いを受けるんだ…って、考えが何度も思い浮かび、その度に悔しくて泣いた。
ーービイコも、彼好みのゲームを作って、実況してもらいたいなぁ…。
ーーそれで…それで……
あたしも、ゲームを作る事にした。ーー彼と、繋がる為に。
彼の今迄の好みのジャンルは熟知している。そのジャンルで、ビイコの好きなキャラクターをモデルにしたオリジナルキャラを制作すればイイ♡
ーー待っててね? ビイコ、貴方の大好きなゲームの一つを生み出すから♡♡♡
*
3年掛けて、ゲームを制作した。正直、こんなに掛かるの!? って思うぐらいに、大変だった…。
その間に、彼が結婚したかというとーーまだ、そういった発表も、噂も出ていない。
只、彼はあの頃よりも有名になり、恋敵が増えた事で、いっっっつも気が気じゃなかったが……その悩みも、今日で終わる…筈。
沢山ある中での、ビイコが作ったゲームを見つけてもらい、且つ彼に実況してもらえるというのは、確率的にほぼ低い。その可能性を少しでも上げる方法が、フリーゲームのみを取り扱った提示版に書き込んで、宣伝するやり方だ。
彼はいつだったかの実況で、その提示版でフリーゲームを探していると公言した事があるので、あたしは其処に自作ゲーム【実況者と繋がりたい、女の話。】の宣伝をする為、書き込んだ。
「……えっ…? 嘘…!? 」
息抜きに、ボヤッターを巡っていたら、トレンド一覧に、彼が以前、実況していた美少女ゲームのとあるキャラを演じていた声優さんの名前が挙がっていたので、それをタップして詳細を見ると、ーー結婚と妊娠を同時に報告したというネットニュースが報じられているらしく、それで『おめでとう御座います!! 』と祝福コメントが目立つ一方、ガチ恋勢と思われる『もう推し辞めます。サヨウナラ…』という書き込みもちらほらあった。
三年前から、彼は彼女の大ファンである事を公言してて………違うよね?と、彼女のボヤッターでのぼやきを調べる。
「………相手……書いて、ない…。裏方だから? 一般人だから? そっ…それとも……同じ、有名人、だから…? 」
ピコンっ
「!?」
声優さんのパートナーが誰なのか気になって、心臓がバクバク煩くて、如何にかなってしまいそうだった時ーー知らないメールアドレスから、一件のメッセージが送られてきた。
それを開封すると、ーー今度は違う形で、心臓が煩くなる。
彼だ!
彼が、ビイコのゲームを実況してもイイか? と、確認のメッセージを送ってきたのだ。
あたしは直ぐに『任意なのに、丁重にメッセージを送ってくださり有難う御座います!! もちろんオッケーです! アナタ様の事はいつも拝見しているので、どんな実況になるのか楽しみです♡』と返信した。
*
二ヶ月後ーー人生、なにが起こるかわからないものだなぁ、と思った。
念願の彼と、顔合わせする日が、訪れてしまったのだ♡
ビイコのゲームを実況した動画を上げた後、『あなたの作品を凄く気に入ったのですが……制作の過程とか、裏話とかが聞けたら嬉しいです! 』というメッセージが送られてきた。それに、オッケーと返したら、暫くして彼から再びメッセージがきてーー『直接会って、聞きたいのですが……ご迷惑ですか? 』というモノで、会うという流れに至る。
「貴女が、ビイコさんですか? 」
「!?」
待ち合わせ場所に現れた男性は、ーー動画で何度も観て、カッコいいなぁと思っていた彼だった。
「……えっ…!? 」
彼の左手の薬指に、キラリと光る、銀色の指輪が…。
「? ……あー…コレ、ですか? 実は数ヶ月前に、結婚したんですよぉ」
へへっと嬉しそうに笑う彼は幸せそうで、ポロリポロリと、訊いてもいないのに情報を漏らしてくれる。
相手が、結婚と妊娠を同時に報告した、あの声優だったって事。結婚報告は、子供が産まれてから発表しようと思ってる事。人生、なにが起こるかわからない、と、嬉しそうに語っていた。
………。
…………………………。
「……如何して、直接会って、話を聞こうと思ったんですか? 」
そう尋ねたら、彼は突然ビイコを抱き締めてきてーー「結婚発表したら、こうやって……他の女の子と遊べなくなっちゃうだろ? 」と、実況では聴いた事がない様な“男”を感じさせるモノで、鼓動が激しくなる。
「!? ッ………えっ……? 」
あたしは、持っていた刃物で、彼のお腹を刺した。そして、ソレを思いっ切り抜く。
「ッッ…てっ…めッ……」
彼から離れると、噴き出た血により、ビイコの服は、返り血で赤黒く汚れていた。
「ずっと、追っかけていたのに……真面目な男性だと、思っていたのに……女に結構、だらしなかったんだね…? 」
彼に抵抗される前に、その右肩へ刃物を突き立てる。
「ゔあ"あっっ!?!!! 」
「貴方が悪いんだよ? ……ビイコ以外の女と、幸せになろうとするから…。ビイコの事、遊び相手だけで、済まそうとするから…」
ガチ恋勢の気持ちに気付いてるクセに、気付かないフリをして…。でも、自分の商品を売りつけたい時だけ、ファンサするーーそんな、“恋は盲目”状態の、ガチ恋勢の気持ちを利用するから、こんな目に遭うんだよ?