第16話「選抜チーム始動、初陣の相手はJ下部組織」
第1章:始動、選ばれし13人
新年度が始まり、陽翔が所属するヴァンレーヴ東京ジュニアは、
“選抜育成チーム”の立ち上げを宣言した。
その目的は、U-15全国クラブ選手権の優勝。
そして、Jリーグ下部組織やユース強豪チームに勝ち抜くための、
“精鋭集団”の育成だった。
選ばれたのは、各ポジションから実力を認められた13人。
その中には、新堂悠翔や神谷陽翔の名ももちろん含まれていた。
「人数が少ない分、連携と戦術理解が命。
そして、お前たちには1ヶ月後に試される“初戦”がある」
監督がホワイトボードに書いたのは、
**「FCアストレア U-15」**の名。
Jリーグ下部組織であり、プロ育成に定評のある名門。
全国でもトップクラスの実力を誇る。
「この試合は、ただの練習試合じゃない。
“自分がこのチームで戦う価値があるか”を証明する場だ」
陽翔の心が静かに燃え上がった。
(……来た。真の意味での、“試金石”だ)
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第2章:反発と不安、戦術家の苦悩
だが、順調な船出とはいかなかった。
「なあ、神谷。お前、ホントにこのチーム回せるのか?」
「中盤の設計図ばっかり考えて、俺たちの個性はどこに反映されてんだよ」
“戦術責任者”として任命された陽翔に対し、
一部の選手たちが不満を漏らし始めていた。
特にFWの永瀬圭吾は、明確な対立姿勢を取っていた。
「俺は“型”にはめられる選手じゃねえ。自分の感覚でやる」
「でも、それじゃチームとして崩せません」
「だからって、お前の“理屈サッカー”で勝てる保証はあるのか?」
陽翔は一瞬、言葉を詰まらせた。
(……自分の設計は、まだ“信用”に値していない)
そんな彼の横に、新堂が肩を並べる。
「おい永瀬、やりたいようにやりたいなら、
まずは“神谷の設計”で得点してから言え。
今はまだ、俺たちの方が借りを作ってんだ」
「……チッ」
永瀬は吐き捨ててその場を去った。
新堂は小声で陽翔に言う。
「チーム作りってのは、戦術だけじゃない。“信頼”を積み上げるんだ」
「……うん、ありがとう」
陽翔は夜、自室でノートを開きながら、ある結論に至った。
「理想を押し付けず、“実感”として伝わる設計に変える」
明日からの練習で、彼のアプローチは少しずつ変わり始める。
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第3章:少人数の戦術革命
翌日、陽翔は練習メニューの前に“短いミーティング”を開いた。
「今日の目標は、“中盤3人で1秒以内の判断を3回連続出すこと”です」
最初はぽかんとした表情の選手たち。
だが実践していく中で、少しずつ声が飛び始める。
「いける! 今のテンポだ!」
「神谷の指示、次の動きとピッタリじゃん!」
陽翔は、自分の“戦術脳”を言葉とリズムに変え、
仲間の身体感覚に落とし込む工夫をし始めていた。
次第に空気が変わっていく。
永瀬さえも、陽翔の指示に無言で頷くようになった。
(戦術は、言葉ではなく、“共鳴”で伝えるものだ)
陽翔の指揮は、まるでオーケストラのように、
少人数チームの連携を形作っていった。
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第4章:初陣前夜、芽生える覚悟
試合前夜。陽翔は静かにグラウンドに立っていた。
足元には、これまで使ってきたノート。
そこには、今日までに書き記した膨大な戦術メモが詰まっている。
(俺は、“フィジカル”では彼らに敵わない。
でも、脳で戦い、チームを勝たせることができる)
ふと、新堂が現れた。
「何してんだよ、こんな時間に」
「……最終確認。明日はきっと、苦しい時間が来るから」
「だろうな。相手はJ下部。技術もポジショニングも、完成度が違う」
新堂は一歩近づいて、言った。
「でも俺は、“神谷陽翔のサッカー”で勝ちたい。
お前が導いてくれよ」
陽翔は頷いた。
(絶対に、勝たせる)
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第5章:初戦開始、J下部との激突
翌日。試合会場は、FCアストレアの本拠地グラウンド。
陽翔たちヴァンレーヴ選抜は、ビジターとして乗り込んだ。
相手のパスは鋭く、プレスは速い。
一瞬でも迷えば、すぐに奪われる。
「くそっ、やっぱ格が違う……!」
前半15分。ヴァンレーヴは1点を先制されてしまう。
だが、陽翔は冷静だった。
「大丈夫。相手は“自分たちのテンポ”を守りすぎてる。
逆に、こちらは“変化”で揺さぶれる」
その読み通り、後半にかけて陽翔の采配が冴え渡る。
左から右へ、縦から斜めへ。
陽翔の声が響くたびに、選手たちが即座にポジションを切り替える。
「圭吾、斜め裏! 新堂、ダイレクトで!」
その瞬間、新堂に完璧なスルーパスが通る。
「おらぁっ!!」
新堂の右足から放たれたシュートが、ネットを揺らした。
1-1。追いついた。
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第6章:ラスト3分、勝敗を分けるもの
残り3分。陽翔は声を飛ばす。
「ここで引き分け狙いはしない! 前に出るぞ!」
選手たちが一斉に前に上がる。
相手は混乱し、ポジションがずれる。
「今だ、永瀬!」
陽翔のスルーパスに抜けた永瀬が、キーパーと1対1。
「……決める!」
鋭いシュートが、ゴール右隅へと吸い込まれた。
2-1。逆転。
ホイッスルが鳴る。
“選抜チーム”、初戦勝利。
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最終章:確かな歩み
試合後、コーチが静かに語る。
「今日の勝利は、“完成度”ではなく、“化学反応”の勝利だ。
神谷、よくやった。お前のサッカーには、魂がある」
陽翔は、目を閉じて深く呼吸をした。
(……ここからだ。俺たちは、全国で“証明”する)
その瞳には、万年Bチームだった過去の自分など、もういなかった。