表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

第10話「初陣の証明と、再会の影」

1. 正式メンバーとしての初練習


ジュニアチームの正式メンバーとして初めて迎えた練習日。

着替えのロッカールームには、自分専用のネームプレートが貼られていた。


「陽翔くん、今日からここだよ」

マネージャーの女性が微笑む。


名前を呼ばれる。それだけで胸が高鳴る。

これまで、特別枠という仮の席にいた俺が、今は“名札のある場所”にいる。


ウォームアップ中、武田が駆け寄ってきた。


「よっしゃ、これで本当に“チームメイト”だな!」

「……うん。よろしく」


短い言葉でも、互いの中に芽生えた信頼は、すでに深い。


この日の練習は戦術重視。パス回しとポジションの確認に時間が割かれた。

俺は2列目の攻撃的MFに配置され、スルーパスとスペース作りを任された。


コーチは要所でうなずいていた。

すべてが順調──そう思えた。



2. 初めてのチームミーティングと番号の割り当て


練習後、クラブハウスに集合がかかった。


「さて、次節の公式戦に向けてメンバー登録と背番号を決めるぞ」


選手たちの表情が一気に引き締まる。

公式戦、それは“本物”の証明の場。


番号が読み上げられていく。

「7番 武田」「10番 山本」──


そして、「14番 陽翔」


静まり返った空気の中、一瞬のざわめきが生まれる。

だが誰も否定はしなかった。練習で見せた俺の動きを、みんなが覚えていたからだ。


14番。それは“期待の中盤”に与えられる番号。


数字を背負った瞬間、責任が生まれる。

それでも、胸の奥で何かが灯る。




3. 初の公式戦メンバー入り


翌週金曜日の放課後。クラブハウスの掲示板に、ついに次節のスタメンが貼り出された。


「スタメンは──FW武田、MF山本、そして……MF陽翔!」


紙に記された自分の名前を見つけた瞬間、鼓動が速くなる。

これまでとは違う、公式戦の“スタメン”。

背番号14が、確かにそこにあった。


「やったな!」

武田が笑って背中をバン、と叩いてくる。


「……ああ」

笑いたいのに、緊張で頬が引きつっていた。


試合会場は、市内トップクラスの強豪・緑山ユナイテッド。

“天才キッズ集団”として、県選抜にも複数名を輩出している名門。


練習後、父が車で迎えに来た。

ハンドルを握る横顔は、いつもより厳しい。


「名前があるだけで満足するなよ」

「……わかってる」


「ピッチに立ったら、あとは実力だけがすべてだ」


その一言が、背番号よりも重く感じられた。



4. 試合前日の父との対話


土曜の夜、父は珍しく俺を連れ出した。

向かった先は、家の近くの河川敷。


「ほら。ボール持ってこい」


夜の静けさの中、父はベンチに腰掛け、俺はリフティングを始める。


「明日は怖いか?」


「……ちょっとだけ」


「それでいい。怖さを知ってるやつは、冷静にプレーできる。

逆に怖さを知らないやつは、無謀になる」


父の言葉は、静かに胸に染みた。


「お前には考える頭がある。明日も、いつも通り“見て、判断しろ”」


そう言って、ふと視線を空に向けた。


「……そしてもう一つ。明日、お前のことを見ている“目”がある。油断するなよ」


「……誰のこと?」


父はそれ以上、何も言わなかった。

ただ風の音だけが、夜のグラウンドに吹いていた。



5. 公式戦・出場機会とプレッシャー


日曜の朝。試合会場には、想像を超える数の観客が詰めかけていた。

ジュニアの試合とは思えないほどの熱気。


「おい、あそこにスカウト来てるらしいぞ……」

「緑山の“天才10番”が出るからな」

「どっちも目立たなきゃな……!」


ベンチ裏では、そんな会話が飛び交っていた。


そして──キックオフ。


俺は中盤右のポジションでスタメン出場。

緊張で手足の感覚が少し鈍かった。


開始早々、相手のプレスは驚異的だった。

特に中央の選手は、間合いの詰め方が異常に速い。


「おい、陽翔!」

山本が叫ぶ。


何度かパスが乱れ、チームの流れが悪くなる。

前半15分、カウンターからあっさりと1点を奪われる。


(……まずい)


押される展開の中で、俺は冷静さを取り戻そうとした。

ベンチから、コーチの指示が飛ぶ。


「陽翔、落ち着け! 見ろ、スペースを見つけろ!」


(……見える)


相手の左サイドが高く上がりすぎている。

そこに一瞬の“間”が生まれる。


28分。

センターライン手前でパスを受けた俺は、右サイドへ展開しつつ、自ら前方へと走り出す。


──武田が受けてトラップ。タイミングよくスルーパス。


走り込んだ俺は、相手DFの内側をすり抜けるように抜き去り、冷静に右足を振り抜いた。


シュートは、GKの指先をかすめて、ゴール右隅へ。


「決まったあああ! 同点ゴール、14番・陽翔!!」


観客席がどよめいた。


武田が駆け寄ってくる。

だが俺はそれを待たず、センターサークルへ歩く。


(まだだ。これで満足するわけにはいかない)


ピッチに立って証明する。

俺は、ただの“推薦枠”じゃない。

実力でここに立っているんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ