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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
深く混じって"愛"対して

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疑わしきは罰わせずep1

 僕とゲティが事務所でふたりきりの状況。昔は頻繁にあったが社員が増えた今、誰かが事務所にいることが多くふたりきりで話す機会はほとんどなかった。

 仮に話したとしても仕事の内容だけで雑談をすることはない。だからこそ、今日のように自分の話をゲティからすることは珍しかった。


 別に社員の過去を知りたいわけではないが、一応本人に話す意志があるのなら聞かざるを得ないこともある。今回の件に関してはゲティが誰かを殺していたかもしれないと言う話を聞いてしまった以上、管理をするものとして聞かなければならなかった。

 話の結果、ゲティは鴨野家の者を殺してはおらず、いろはの勘違いというか逆恨みだということが分かった。


 そのいろはが共に行動しているのが相良凛太郎であり、錬金術の研究をしている可能性がある人物。娘と妻を亡くした哀れな男が何の研究をして、何の魔術を使っているのかは分からないがルーン魔術を使った直感によって人の理から外れたことをしていると考えている。

 

 いろはのことを心配するゲティ、相良さんの研究について興味のある僕。目的は違えど僕らの目指す人物は重なった。


「それで、どうするんだ?」


「どうしよっか」


 相良さんのことを調査しようと思ったのは良いが、魔術管理局で分かれて以降の事は何も知らない。どのように帰ったのかも知らないし、どこに住んでいるのかも知らない。


「お前あれだけ自信満々に言ってたのに――」


「今日あったのが5年ぶりくらいだよ?居場所なんて知るわけないじゃん」


「そのことを誇るな。それじゃどうするつもりだったんだよ」


「正直に答えると何も考えてはなかった。ま、調さんとかに頼めば居場所は分かるんじゃない?」


「便利な道具みたいに調を使うな」


「協力だよ。ゲティは賢者の石に関わっていると言ったら調さんはどうすると思う?」


 ゲティに問いかけると悩むまもなく即答する。


「間違いなく興奮して協力してくれるだろう」


「だよね」


 魔術の研究者としての側面をもつ調さんにしてみれば賢者の石自体に興味はなくともその研究には興味を惹かれるだろう。


「あいつは倫理観は持ち合わせているが影で何をやっているか私もわからん。相良の件を伝えたら誰にもバレないように研究を受け継ぐ気もする」


「さすがにその辺は弁えてるとは思うけど」


 口ではゲティにそう伝えたが内心では調さんも好奇心に負けてラインを見誤りそうな気もする。魔術師ではない調さんも好奇心という悪魔には逆らえないのだ。


「私個人的には調を巻き込むのは無しだ。それよりも」


 同じソファに座っているのにも関わらず互いに顔を合わせていなかったが、ゲティは体の向きを変えて僕の方へと向き直る。


「お前のルーン魔術で探せないのか?詳しくはないが失せ物探しとかをやっていただろ?」


 失せ物探しというよりも遺品探しの依頼は受けたことがある。あの時は遺産の意味を持つ『ᛟ(オサラ)』のルーンを使っただけで何も分からない状態から何かを見つけたわけではない。

 僕たちはあるかどうかも分からない物を見つけようとしている。僕の魔術では無を掴むような事は出来ないし、イメージも出来ない。イメージをすることでルーン魔術を使い運命を引き寄せることが出来るのだ。


「見つけられるイメージも賢者の石のイメージも想像できない。ルーン魔術は文字自体に意味を持つ文字を使った魔術だ。明確なものに対して効果を発揮させる魔術だから霧をつかむようなことには使えないんだ」


「本当にどうやって見つけようとしてたんだ……」


 興味を持って調査したいという感情だけが動いてしまい、方法などを考えるのが後になってしまった。最悪の場合は人海戦術を使えば見つけることができるだろう。知り合いの魔術師に聞いて回れば情報のひとつやふたつはすぐに手に入るくらいには狭い世界なのだ。

 だが人海戦術には明確なデメリットが存在する。それは恩を売られてしまうということだ。魔術師に恩を売られてしまえば最後、どんな下働きをさせられるか想像もできない。良くてタダ働き、最悪の場合は魔術の実験台にされる可能性もある。

 極力外部の魔術師には頼りたくなかった。


「酸塊さんはこの件だと力になれそうにないしね」


「そうか?相良は元々呪術師と言っていたから酸塊が分かることもありそうだが」


「分野が違うんだ。酸塊さんは分かりやすく呪術師と言っているけど本質的には呪物師だ。自分から誰かに呪いをかけたりはしない。それに反して相良さんは依頼を受けて他者を不幸にするグレーゾーンの依頼を行っていた」


「日本の法律的には証拠が立証できないから相良自体は罪に問うことは出来ないな。魔術管理局の方は呪術をかけることに対して罰則があったはずだが」


「あるよ。でも呪殺の場合のみ。貴重な魔術師を消すような真似は魔術管理局もしたくないみたいで、呪術を依頼してかけるのは報告があれば罰するけど態々調査をしないらしいよ」


「何とも言えないな」


 魔獣管理局は呪術師に限らず魔術が関わった事件や事故に対しては警察などから報告されてやっと動くのだ。魔術管理局が自ら表舞台に立って動くようなことはしない。

 報告があったら調査をして魔術管理局のルールに則り処罰をするだけなのだ。


「酸塊さんはこれまで自分の体のことで人に不幸――呪いを振りまいて来た。そんな彼女に態々呪いを他者に掛けていたような人と出会わせたくない」


「酸塊だって魔術師の端くれだ。そういう呪術師がいることくらいは知っているだろ。いや、私も酸塊がそういう奴と絡むのは反対だが」


「あくまで此方の考えって話。僕の過保護くらいにでも思ってくれればいいよ」


 酸塊さん自身は人に呪いをかける呪術師のことを気にしていないかもしれない。僕が勝手に酸塊さんにはそういう人と関わる機会を少なくしてあげたいだけだ。

 

「話が何も進展していない」


「やっぱり人海戦術しかないのかな」


「それは止めておけ。リスクに対してリターンが小さすぎる」


 ゲティも僕と同じ考えだった。


「ゲティは何かないの?そういうのを見つけられる悪魔とか」


 ゲティは召喚術師であり、ソロモン王が使役したとされるソロモン72柱の一部と悪魔と契約をしている。相良さん自身を見つけることは出来ずとも、賢者の石の研究をしていたとしたら痕跡を見つけられる悪魔は居そうなものだ。

 悪魔とは激しい気性と同時に人間に対して利益も与える。貴重なものを見つける悪魔などがいてもおかしくない。


「ちょっと待て」


 ゲティはソファから立ち上がると自分のバッグへと近付いていく。魔術管理局へ行くときにはヘビのぬいぐるみが入っていたバッグの中から一冊の手帳を取り出した。年季の入った手帳だが、丁寧に使われているのが分かる。

 さすがに僕の横に再び座ることはせず、向き合うよな形でゲティは腰を下ろした。


「なにそれ」


 ゆっくりとページをめくり何かを確認するゲティに声を掛ける。


「私の契約している悪魔の情報をまとめたものだ。正しい時に正しい悪魔を召喚しないと大変なことになる場合もある。適切な悪魔を召喚するために私が作ったものだ」


 素直な悪魔も居れば揚げ足取りが得意な悪魔も居る。悪魔それぞれで物事の解決方法が違うのだ。ある悪魔は弁論で相手を負かすがある悪魔はその相手を焼滅させることで負かす。同じ結果でも過程が違えば被害が変わる。悪魔は強大な力を持っているからこそ慎重に行動しないといけない。


「ひとつ聞いてもいいか?」

 

 ゲティは手帳から顔を上げて僕に質問をする。


「何?」


「賢者の石は貴重なものというのは間違いないな?」


「存在していればね」


「賢者の石という名称だが形は不定形。しかし概念として石が存在している。これも間違いではないな?」


「石のように見えるとかそういうものかもしれないけど人々のイメージする賢者の石の石は宝石のような何かかもしれない」


「貴重な石に関しての知識を持つ悪魔を私は使役することが出来るぞ」


 珍しく口角を上げ、ニヤリと笑うゲティ。

 都合の良い展開に僕は乾いた笑いしか出ないのだった。


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