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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
深く混じって"愛"対して

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遠き憧憬は災いを齎すep1

 目の前の少女――いろはは相楽さんの事をパパと呼んだ。それに対して特に反応を示さない相楽さんを見るに、普段からその呼び名をされているのだろう。

 相楽さんは娘さんが亡くなったと言っていた。一人娘だと聴いていたので、いろはが血の繋がった娘ではないことは確かだろう。


「えっと、待ち合わせできたようだから僕たちは帰ってもいい?」


 元よりゲティと合流したら帰宅するつもりだったのだ。いろはをひとりでここに残すような事をゲティはするはずが無いので起きるまで待っていたが、相楽さんの待ち人かつ起きたのを確認したのでここにいる理由はない。


「私達も帰りますので」


 僕の言葉を皮切りに相楽さんたちも帰る気になったようだ。ゲティといろはの関係は分からないが今まで訪ねてきたことも無いため、僕と相楽さんと同じで顔見知り程度の関係しか無いだろう。


「そうだね。じゃあまたの機会があれば」


「ええ」


 僕たちは互いに挨拶をして帰ろうとする。そこに待ったをかける声。

 改めていろはをよく見ると何処にでもいそうな中学生のような服装をしている。平日にも関わらず学校帰りのようには見えないため、魔術管理局に来るために学校を休んだのだろう。髪を染めている様子も見えなければ化粧をしているようにも見えない。

 典型的な魔術師にありがちな自分の研究に没頭するあまり身嗜みを整えないタイプではなく、実生活もそれなりにちゃんとしている様子がうかがえる。

 

 先ほどまでは慌てていたため声に冷静さを感じなかったが、待ったをかける声は思っているよりも低くて見た目よりも大人びて聞こえた。


「え、パパ帰るの?」


「用事は済みましたし早く帰りましょう」


「あの女は?」


 失礼にもいろはがゲティを指差している。それに対してゲティは怒るでもなく目を瞑っている。一瞬蟀谷がピクッと動いたのを僕は見逃さなかった。ゲティが怒りを露わにするようならば止めなければいけないが流石に自分より半分くらい年下の子供に怒りをぶつけることはしないらしい。


「いろはさん人を指さしてはいけませんよ」


「やっと会えたんだよ」


 鼻息荒く相楽さんに詰め寄るいろは。相楽さんの身長は僕よりも高く、ゲティよりも大きいとは言え小柄ないろはは見上げる形になる。親子と言われれば親子にも見えてしまう。


 ちらりとゲティの方をみるが、一切反応を示していない。我関せずというわけではないがあまり関わりたい事象ではないようだ。流石にあの2人を無視して帰宅することは出来ないため、ゲティ耳元に口を近づけて質問をしてみる。


「ゲティの知り合い?」


「ああ。急に挑まれる程度にはな」


 ゲティの交友関係は知らないが広くはないだろう。海外なら露知らず、日本人の知り合いがいるようには思えない。いろはは見るからに日本人だし、ゲティと関わりが少しでもあることに驚く。

 ゲティがその筋で有名だから腕試しに挑まれたという理由ではなさそうだ。


 召喚魔術を使う人の中でも、悪魔を使役するには重い代償を支払わなければならない。ゲティの場合は成長が止まってしまったり、寿命が少しだけ縮んだり身体や生命に関わる代償を支払っている。ゲティ曰く、「代償が軽い悪魔としか契約をしていない。本当にヤバい奴は私の過去、現在、未来に置いて関わる人を全員殺すことを代償にしてくる。実際にその提案をされたこともある」らしい。

 いろはがゲティに挑んだということは同じく召喚術士の可能性が高い。魔術は個人を示すもののため、無闇に何が出来るのかを聞くのは憚られる。ただ興味が湧いてしまったので後でゲティにこっそり聞くことにしよう。


 僕たちの会話を他所に相楽さん達の話はまだ終わっていないようだった。


「ねーパパー」


「いけませんよ」


 愚図る子供を窘める父親にしか見えない。実際に血縁関係は無いのだが、仲睦まじい2人を見ていると知り合い以上の関係があるように見える。


「あの女を殺すチャンスなのに。さっき挑んだ時も殺せなかったし……」


 いろはが小声で呟いた事が僕には聞こえてしまった。

 最近の子供は血気盛んである。殺すなんて強い言葉を使うような子には見えなかったのだが、人は見かけによらないらしい。

 ゲティにもいろはの言葉が聞こえたようで、深いため息を付いて呆れた表情をしていた。


「物騒な事を言ってはいけません。貴方の気持ちもわかりますが今日はもう負けたのでしょう?」


「でも」


「でもじゃありませんよ。人を殺すなんて口にしてはいけません。人は死んだら戻ってこないんです。それは貴方も知っていることでしょう?」


「それは……そう、だけど」


「2度と会えないことを知っているからこそ、相手を殺すなんて言ってはいけません」


 ゲティが無傷の状態でいろはを引きずってきた時点で勝敗の判断は聞くまでもない。ボコボコにしたと言っていた事からも勝負にもならなかった可能性すらあるのだ。

 グズっていたいろはは相楽さんの言葉に納得をしたのか、渋々といった表情で頷いた。横目でゲティの方を睨んでいるのは気になるが大事にならなそうで何よりだ。


「分かったなら今日は帰りましょう。そのうちまた機会がありますよ」


「はーい」


「気持ちは分かりますから元気だしてください」


「うぅ。お母さんとお父さんを殺した奴を殺せば2人も報われるのに……」


 大きな声で喋っていた訳では無いが、その言葉は鮮明に僕の鼓膜を震わせる。


 いろはの発言した内容からするとゲティがいろはの両親を殺したように聞こえる。いくらゲティでも人を殺すようなことはしない。僕の知っているゲティは人を殺さず、むしろ生かすような人間だ。言葉はきついが心根は優しい、そんな人間が殺人を犯すとは思えない。

 単純な話、人を殺していれば前科持ちだろう。悪魔を使って殺人を犯したとしても、魔術専門の調査機関というものは存在しているためすぐに足がついてお縄にかかるだろう。それこそ磐梯さんのような人達が所属している部署があるのだ。


 恐らく話の中心であろうゲティの方を見ると今度は僕の方を見返してきた。目が合うと首を小さく横に振る。表情から察するにこの場では何も言うなという合図だろう。

 こんな場所で話すような内容でもない。僕はゲティの事を信じているが、過去に何があったかを知っているわけではない。僕がゲティを誘ったのも、借りた事務所の下の階で魔術師が占いをやっていたからに過ぎない。創設メンバーだが昔からの知り合いという訳でないため、僕と出会ったあとのゲティのことしか知らない。


 相楽さんに引きずられるようにいろはは帰っていった。ゲティの方を向いて中指を立てながら舌を出していたのは子供らしかった。やっていることが相楽さんにバレたのか、軽く肩を叩かれていた。

 父母をゲティに殺されたと言っていたことからいろはには両親がいない。相楽さんが保護者の代わりとして保証人になっているのかもしれない。もしかしたら養子に迎え入れている可能性もある。そうだとすればパパと呼んでいる事にも合点がいく。


 いろはの事は短い間の出来事だったため観察等はしっかり出来ていないが、幼い言動や行動に対してゲティへの恨みだけは確固たるものを感じた。


「ゲティ」


 2人が帰っていったのを確認してからゲティに話しかける。


「分かってる。ちゃんと話すさ。取り敢えず事務所に戻ってからでいいか?そんなに長い話にはならないが外で話すようなことでもない」


「それもそうだね。こんな場所に長居するのはご免だし」


「奇遇だな。私もだよ」


 次の更新がある5年後までここに来ないことを祈るばかりだ。


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