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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
深く混じって"愛"対して

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88/128

更新はお忘れなくep7

遅れました。

 僕の質問を聞いても相楽さんは表情を変えない。その内で何を考えているのか僕には分からないが否定も肯定もしないところを見ると僕に何かを答える気はないようだ。

 賢者の石が禁忌とされている理由は現代の倫理観によるものだ。クローン技術などで人間を作ることが倫理的に問題となっているように賢者の石を使って不老不死を得ることも問題視されている。研究をすることすら禁忌とされているが隠れて研究している魔術師は居るだろう。バレれば一発でアウトだがバレなければ問題ないのだ。本来の研究を隠れ蓑に賢者の石を生成することに成功すればそれだけで1代にして大魔術師だ。


「答える気はないみたいだね」


「否定をしても疑惑に変わり、肯定しても事実に変わります。何を答えても私に利がありませんからね」


「そりゃそうだ。否定すれば一層怪しく見えるというのはよくある話だし」


「それに私達って研究内容を喋るほどの関係性では無いはずですよ」


 以前は偶々会って会話をしただけの関係。依頼で一緒になったわけでも手助けをしたわけでもない。前回の魔術資格証を更新するときに同じタイミングで魔術管理局に居て、互いに暇な待ち時間を雑談をしながら時間つぶしをしただけ。

 それまでは顔を見たこともなく、深い話をする関係ではない。相楽さんが娘さんの話をしたのも、かわいさ自慢の親バカというだけだった。一期一会で済むだけの関係で何処に住んでいるかも知らない。当時だって二度と会うことはないと思っていた。


「袖触り合うも他生の縁っていうじゃん?」


「適切ではないですが鎧袖一触ともいいますよ」


「袖にしないでほしいな」


「ですからそれほど親密ではありませんよ」


 話しながら、少しでも相楽さんがボロを出さないか試してみたたが空振りに終わってしまった。もしも本当に研究しているのなら魔術管理局に伝えなければならない。知った上で隠してしまえば僕も共犯扱いになってしまう。

 僕としては相楽さんが研究をしていようがしていまいが興味はない。むしろ完成しているのなら見せて欲しいくらいだ。しかし世界はそれを良しとしない。自由というのはルールという枠組みがあって初めて成立するのだ


「最後にもう一度聞くよ」


「何をでしょう?」


「賢者の石を作ったりはしてないよね?」


 相楽さんも魔術師のひとり。嘘を付くということが魔術師の性に反していることは知っているはずだ。嘘をつくことが出来ないわけではなく、嘘をつくことをしないのが魔術師。嘘をついてしまえば自分の中のイメージが霧のようになり、魔術の履行が完全ではなくなってしまう。

 錬金術に傾倒するあまり、魔術師としての性を見失っていなければ嘘をつくことは避けるはずだ。


「さあ、どうでしょうか」


 本当のことも、虚偽のことも言わず、本質の表面を撫でるような言葉で返答してくる。


「そっか。研究は順調?」


「ええ。順調ですよ」


 なんの研究かは聞いても無駄だろう。答えは返ってくることはなく、はぐらかされてしまうだけだ。

 ここで答えられなかった以上、僕は何も知らなかったと言うことで突き通せるだろう。一応調査だけはしっかりしたので免罪符もできた。


「ふーん。それよりも相楽さんはどうしてここにいるの?」


「待ち合わせ、というか集合場所がここだからですね。ちょうど17時に落ち合う予定なのですが」


「僕と一緒だね」


 既に時計は16時58分を示しているがゲティの姿は見えない。相楽さんも同じようで待ち人の姿が見えないようだ。


「お互いに時間を守らない相手がいると苦労するね」


「そこも可愛らしいところなんですよ」


 相楽さんは張り付いた笑顔のまま答える。相手のことを頭に浮かべておらず、相槌のように答える空虚な言葉。先ほどから相楽さんの言葉には思いがひとつも乗っていない気がしている。

 質問に対する動揺も見せないため掴むことが出来ない。僕も会話をすることがあまり得意では無いが、会話の中で突破口を見つける手段は今までも数多く行ってきた。相楽さんとの会話は水の中を藻掻くようで、何も手には引っかからない。


「待たせたな」


 少し遠くから声が聞こえる。そちらの方を向くとゲティが歩いてきていた。ここに来た時よりも手荷物が増えているように見えるが一体何を引きずっているのだろう。


「ちょっとだけね?その手に持ってるものって――」


 此方に近づいてくると手に持っているのではなく、何かを引きずりながら向かってきていることがわかる。着ている服の襟をつかんで自分よりも大きな人を連れてきたのだ。

 顔は見えないが女性のように見える。


「ああこれは」


「ゲティ、流石に殺すのは不味いよ。出頭しよう。ここは魔術管理局だけど外に出たらちゃんと自首をしないと。ちゃんと面会には行くからさ」


「バカが。弄ることが出来ると思った瞬間饒舌になるんじゃない。何処からどう見ても生きてるしそのくらいはお前にも分かるだろ」


 半分冗談で半分本当だった。引きずっている相手が生きているのは唸り声から分かっていたがゲティが危害を加えてしまったと思っていたのだ。普段の気性から考えると喧嘩を売ってきた相手をボコボコに痛めつける程度のことをしていてもおかしくはない。


「少し待ったからそれで痛み分けにしてよ」


「まったく」


 引きずってきた相手を持ち上げようとしたものの、自分より体格の大きい人を持ち上げるのは大変だったようで椅子にもたれかかせるように置いた。ゲティより体格が大きいとは言え顔はまだ成熟していない。ちょうど来栖さんたちと同じくらいの年齢だろうか。中学生から高校生のように見える。

 唸り声を上げながら置かれた少女は意識を失いながらも苦しんでいるようだった。


「ゲティ、何やったの?」


「私からは何もしていない。用事を済ませて待っていたらこいつがいきなり勝負を挑んできてな。ボコボコにしたら気絶した。それだけだ」


 ボコボコにしてしまったという僕の考えは強ち間違っては居なかった。


「どうしてここに連れてきたのさ」


「一応若い女だからな。その辺に放置しておくのは外聞が悪いだろ。待ち合わせの時間もあったからここに連れてきただけだ」


 なんだかんだ面倒見のいいゲティだった。事務所の中でも酸塊さんだけではなく、空穂ちゃんと来栖さんも懐いているのはゲティの人柄が影響しているのだろう。

 待ち合わせ場所に連れてこられても僕に何かできるわけではないため困ってしまう。魔術管理局は社会人魔術師のため夜中までやっている筈だが、僕はもう帰りたいのだ。ゲティがやったことだから責任はゲティにあるはずなので置いて帰ってしまおうかと考えるが、そんな事をしたらあとから怖いのでやめておく。


「それは助かります」


 僕たちの会話に割り込んできたのは相楽さんだった。


「ん?どちら様?」


 ゲティと相楽さんに面識はないため、両者を知る僕が2人を繋げなければならない。


「こちら相楽さん。魔術師で僕の顔見知りの人」


 ゲティは相楽さんを見て軽く会釈をする。


「相楽さんはゲティの紹介いる?」


「その子をここまで運んできてくれましたし、話を聞く限り迷惑を掛けてしまったようですのでお礼も兼ねて紹介していただけると嬉しいです」


「紹介って言っても大したことは言わないけどね。こっちがゲティ。僕と一緒に仕事をしている人」


 簡単に説明をすると、互いに名刺を取り出して交換をしていた。それをするなら僕の紹介は要らなかったのではないだろうか。

 椅子にもたれかかっている少女を見ていると、いきなり目を開けて辺りを見回し始めた。


「あ、起きた」


「え?今何時?ヤバッ!約束の時間過ぎちゃう!」


 立ち上がっておろおろし始める少女。パニックになるあまり周りが見えていないようだ。相楽さんとこの子には何かしらの関係があり、恐らく相楽さんが待ち合わせをしていたのもこの子だろう。目の前に待ち合わせの約束をした相手がいるのにも関わらず反応もしないで慌てふためいている。


「いろはさん。もう待ち合わせ場所に着いていますよ。落ち着いてください」


 相楽さんは少女のことをいろはさんと呼び、優しく声を掛ける。その声に反応したのか、段々と冷静さを取り戻して相楽さんとその周りにいる僕とゲティの存在を認識したようだ。


「あ、パパ」


 娘が亡くなった筈なのに、年頃の女の子にパパと呼ばせている男が目の前にいた。僕の中の相楽さんの評価が何段階か下がった音がした。

パパと呼ばせる活動ではないです

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