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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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立つ鳥跡を濁さずep7

 眼前に広がるのはもう使われていないことが一目でわかるほどに廃れた村があった。

 家屋の屋根は木の腐食により崩れており、建物としての用途は満たすことは出来なさそうだ。辛うじて屋根に残っている建物があっても壁に穴が空いていたりして住むことは出来ない。

 配信者のように一度入ってしまえば出られなくなるかも知れない。それを踏まえた上で僕の作った入り口から村に入る必要があるのだ。


「酸塊さん」


「はい。何でしょう?」


 2人とも一歩も踏み出すこと無く、入り口の奥に広がる景色を眺めている。動くものの気配もなく、当然ながら中からは音もしない。

 僕たちは現世界と裏世界の境界線に立っている。


「一歩踏み出したら恐らく羇村に入ることになる」


「そうですわね」


「そうしたら配信者と同じように戻ってこられなくなる可能性もあるけど」


「その時はもう一度入り口を作ればいいのでは無いのですか?その場合は出口になりますが」


「今、入り口を作ることが出来たのも偶然だと思う。裏世界と現世界を意識的に繋げることなんてしたことない。だから出口を作ろうと思って作れるかは分からないよ」


「なら、ここで踵を返しますか?」


 わざわざルーン魔術を使って入り口を作ったのに眼前に広がる村を確認しただけで帰るわけにはいかない。それに本来の目的はコトリバコの調査だ。それを行わなければここに来た意味もないだろう。


「その言い方は卑怯だね」


「そうでしょうか?行くことは決まっているのに私に選択させようとする社長さんこそ卑怯ではなくて?」


「言うようになったね。昔とは大違いだ」


「私も成長してますの」


「じゃあその成長を見せてもらおうかな」


 酸塊さんの返答をまたずに僕は一歩踏み出す。この一歩が現世界から裏世界の境界線を跨ぐのだ。

 後ろを振り返ることはしない。酸塊さんは必ず付いてくると分かっているから、僕はただ真っすぐに進むのだ。



「本当に何もありませんわね」


「そうだね」


 雑草が疎らに生え、家屋の残骸が残る村。家屋の中は分からないが外から見ても人の気配もない。

 当然ながら配信者の姿も見えない。一応大声を出して反応を見てみたが物音1つ立つことはなく、配信者の反応もなかったため既にここにはいないと仮定して話を進めることにした。

 死んでいるとか行きているとかは関係なく、もうここにはいない。


「取り敢えず村の中心に行ってみる?」


「中心って何処にあるんでしょうか」


「動画を見た限りでは家も建っていない開けた場所だったはず。配信者の人が移動していないのに戻ってきたと錯覚した場所」


「その前に入れそうな家を調べながら行きませんか?ここまで戻って来るのも大変かもしれませんし」


 一旦立ち止まって作戦会議を始める。行動の指針を決めるのは必要不可欠なこと。

 僕の案は村の中心に行くこと。配信者に起こった現象は村の中心という場所が関わっているような気がするのだ。それに対して酸塊さんの提案は村の中心に行くことには賛成だが、行きがてら家屋を調べようというものだった。

 酸塊さんを必要以上に歩かせるのも大変だと思うのでその提案を受け入れることにする。


「そうだね。そうは言っても入れるような家は早々無さそうだ。この空間で雨が降るのかは分からないけど雨風が凌げそうな建物を見つけたら入ってみようか」


「ありがとうございます」


「これしきの事でお礼言わなくてもいいよ。それよりも足、大丈夫?」


 酸塊さんの履いている靴は底が厚く、歩くのには適していないように見える。それに疲労を感じていたとしても彼女はそれを見せようとしない。


「大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます。では行きましょうか」


 僕の心配を受け流し、立ち止まる僕を置いて先に進もうとする酸塊さん。やはり、彼女は心配をされることを苦手としているみたいだ。


「ちょっと待って」


「はい?」


 立ち止まり、振り返る。


「この村の呪いの気配ってどんな感じ?因みに僕は結構感じてるけど」


 この村に入った時から感じている濃密な魔力の気配。空間に漂うように濃密な魔力がこの村には漂っている。空気が重いと表現をする事もできるが、入った所から数は進んだだけでも身体が重くなるような感覚に陥っている。

 守護のルーン魔術によって僕の身体に受ける呪いは無効化されているが魔力事態の影響は多少なりとも受けてしまう。

 

 酸塊さんは呪いを吸収することは出来るが、それは呪いに対して有利に働くと同時に強い呪いを受け入れてしまうと自分の身体にダメージとなって返ってくる。

 直接触れることで呪いを吸い取るのだが、呪いの影響も受けてしまう。この空間では僕以上に呪いの魔力を感じているはずなのだ。


「正直、呪いが強すぎて気分が悪すぎますわ」


 僕はバッグの中から1つの石を取り出して酸塊さんに投げ渡す。

 小石程度のサイズだったため酸塊さんはしっかりと両手で受け取り、その石をまじまじと見つめる。


「『ᛉ《アルギス》』ですわね。守護のルーン」


「そうだよ。酸塊さんに効果あるかは分からないけどね」


 魔力を通した石を酸塊さんに渡す。酸塊さんの感じる呪いを軽減したいという思いと同時に、他の人にもルーン魔術の効果が発揮するのかをしっかりと調べる必要がある。空穂ちゃんに持たせた物が効果を発揮したのが幽霊だったからなのか、それとも《《魔力を持つもの》》に影響するのかを見極めるためだ。


 入り口を作った時に感じた魔力のあるところに僕の魔力が流れていく感覚が正しいのなら魔力を持つ酸塊さんに、僕の魔力が流れルーン魔術が作用する可能性もあった。


「いえ、明らかに効果がありそうですわ。先ほどまで感じていた呪いの魔力による影響が薄くなった気がしますもの」


「本当?それは良かった」


 まだまだ検証が必要だが、魔力があるものに対して僕のルーン魔術が効果を発揮すると仮定してもいいかもしれない。それを過信して何かをやるつもりはないが、選択肢の1つとして加えて行くことにする。


 村の中を観察しながら進んでいくと、一件の家屋が目に留まる。

 壁に穴は空いているが屋根は残っており、ギリギリ住居としての体裁は保っている家があった。

 

「何件か見てきたけどあの家くらいしかまともなものは無さそうだね」


「他にもあるかも知れませんが、取り敢えずあの家を調べてみましょうか」


 家の入口は木の引き戸になっており、経年劣化からか開けるのに一苦労した。ただ引くだけでは開かず、最終的には力ずくで無理やりこじ開けた。

 一旦酸塊さんには外で待っていてもらい、僕だけが中に入って見る。

 中は薄暗かったが窓のようなところや穴の開いた壁から入ってくる光によって全く見えないわけではない。

 

 生活感がある家ではないが、確かに誰かが生活していた跡がある。この村は随分と閉鎖的なところだったみたいでかなり昔の生活様式をしているように感じた。電化製品のようなものは見当たらず、ご飯を炊く竈門のような物もあり今を生きている僕からすれば珍しいものばかりだった。


 靴を脱ぐこともなく家に上がり、奥の方に引き戸があることに気付くとそこへ一直線に向かっていく。

 一歩踏み出す度に、家の床が軋む音が鳴り響く。その音に共鳴して家自体が音を鳴らしているような、そんな不快感が僕を包み込む。

 引き戸へとたどり着く頃にはたった数歩歩いただけとは思えぬほどの疲労感が僕を襲ってきた。


 目的の引き戸までたどり着いた僕が行うことは1つだけ。

 入り口と同様に風化して硬くなった引き戸を無理やり開ける。2度目のことなので、先ほどよりはスムーズに開けることが出来た。

 室内には明かりの届くところがなく、ただ暗闇が広がっているだけだった。

 このままでは見えないのでバッグの中から大きめの懐中電灯を出す。災害用に買ったため、明かりを発する部分が大きく広範囲を照らせるのだ。

 それが功を奏したのか、裏目に出たのか懐中電灯を照らした先に見えたのは予想通りの嫌な光景だった。


「酸塊さん」


 家の外に待機してる酸塊さんに声を掛ける。

 僕の合図で家の中に入ってこようとする酸塊さんを制す。


「はい。なんですか?」


「待った。入ってこないほうがいいかも知れない」


「分かりました。何か、見つけたんですか?」


 この部屋にあるのは死体だ。かなり年月が経っており、白骨化したものが見える。その白骨の下腹部には生まれることのなかったサイズの胎児の死体も見える。腐っているのか見るに堪えない。

 妊娠したままの死んでしまったのだろうか。骨になってしまった今、その真意を問うことも出来ない。

 白骨化した遺体は背中を預けるようにして座っていた。胎児を抱きかかえるように。


 そしてもう一つ。

 部屋の中心にはあるものがポツンと置かれていた。


「ねぇ酸塊さん。コトリバコについて聞きたいんだけど」


「なんですの?」


「仮に、仮の話ね」


「はい」


「コトリバコって開けたらどうなるの?」


「終わりですわ。皆、死んでしまいます。子孫だけでなく、親戚、その家族に関わるものまで。100年も続く呪いが始まってしまうのです」


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