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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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立つ鳥跡を濁さずep5

『結局、コトリバコとは何なのだ?この事務所にある本だったりを読んでもそのような記載は見たことがなかったと思うが』


 来栖さんに抱えられているフーちゃんが音を発する。この光景にもはや違和感など感じないため、この事務所のかわいいマスコット的な立ち位置になっている。


「今更なんだけどさ、僕も何となく思い出したというか聞いたことあったよ。前に都市伝説のことを調べた時に出てきた気がする。その時は目的のものじゃなかったからスルーしちゃったけど」


「では社長さんも知らないようなのでお教えしますわ。ただ先に言っておきたいのは呪いとしてのコトリバコは呪術師の界隈でも有名であると同時に殆ど情報が出回っていないのです」


「有名なのに出回ってないってどういうことですか?」


「所在地が一般人でも知っている事から一部の呪術師は間違いなく知っていました。それにも関わらず何もしていない、何かをしたという情報も入ってこないと言うのはおかしいと思いませんか?」


『確かにそうだな』


「呪術師も人間。圧倒的な存在からは目を逸らし、背中を向けるのです。コトリバコはそういう存在ですわ」


 神妙な面持ちで話し始めた酸塊さんの話を一同は質問を交えながら聞いていく。僕たちには分からないが、その身に呪いを宿す酸塊さんはある程度の呪いならば自身の身体に引き受けてしまう。その酸塊さんでもコトリバコの呪いは受け止めきれないで最悪の場合死ぬと断言していた。


「八重さんも自分の体で呪いを受け入れる事が出来ないって言ってましたしね」


「一人の体で受け入れる事は出来ません。そもそもコトリバコは1人の呪いではないのですから」


「1人の呪いではないー?どういうことですかー?」


「そうですね――」


 酸塊さんは立ち上がりホワイトボードの前に移動した。最近使用率が少し高くなってきたホワイトボードに水性のマジックを使って立方体の絵を書く。その下にはコトリバコと丁寧に名前を書いていた。


「まずコトリバコとは簡単に言うと子供の指を箱の中に詰めて相手の土地に埋めるとその土地に住む子孫を根絶やしに出来る呪いの道具なのです」


 想像しただけでもヤバそうなものなのは分かる。仮にコトリバコの中を開けたら子供の指が入っていたら絶句するだろう。


「それなら1人じゃないってどういうこと?その説明だとコトリバコには子供の指しか入れないみたいだけど」


「正確には中に入れるのは子供の指と動物の血ですわ。1人じゃないと言うのはコトリバコと言うのは中にいれる子供の指の数、つまり犠牲になった子供の数によって呪いの強さが変わるのです」


「うわー……。エグいね……」


「そんな物がこの世にあるなんて」


 子孫を根絶やしにするということは子供と、その子供を産む母親に対してかける呪いだろう。その呪いを作り出すために、子供を呪いの道具として使う呪物。

 

 言葉にするべきでは無いため黙っているが呪いに使われる子供というのはその土地では不要な子供だったりすることがあるらしい。昔の話らしいが魔術師も双子が生まれると本来の持つべきはずだった魔力を2人で分けてしまったため半端な魔術師しか生まれないと信じられており、片方を間引く風習があったとされている。

 きっと呪いの道具に使われた子供はその先の未来を見ること無くこの世から姿を消したものと思われる。


「沢山あるものじゃなくて良かったよ。1つだけなら居場所が分かれば封印なり何なり出来るかもしれないしね」


 S県O市にあるものが本物だったとして、そこにコトリバコがあることが分かれば魔術管理局にでも連絡すればいいだろう。彼処に連絡して対処してもらうにはそれなりの情報が必要になる。

 ネットで動画が上がっているから調べてほしいなどと言ったら「自分達で一度調べて危険性がありそうならば書類を出してください」とお役所仕事のように言われてしまうのだ。

 居場所が分かっているだけでも調査は少しだけ気楽というものだろう。


「申し訳ありませんが社長の言葉に1つだけ訂正を」


「え?どれ?」


 酸塊さんは小さく手を挙げて何かを訂正したいみたいだ。わざわざ手を挙げてから発言しなくても話の主導権は酸塊さんにあるため勝手に進めてもらいたい。

 それにしても訂正とは何なのだろうか。封印と言ったが、力が強すぎて封印出来ないという話ならば僕たちの手に負える問題では無くなってしまう。


「1つだけではないのです」


「は?」


「ですから見つかっていないコトリバコは1つだけではないのです。それも、見つかっていないのは7人の子供を使ったコトリバコが2つ。行方が分かっていないのです」


 そこに存在するだけで多大な影響を及ぼす呪物が見つかっていないだけでも大問題なのに、それが複数個存在していると言うこと。


「やばいじゃんそれ」


「滅茶苦茶やばいですわ」


「でもその1個はS県O市の村にあるんでしょー?それなら残り1個じゃーん」


「いえ、まだわかりませんわ。動画の投稿主がコトリバコの噂で行ったというだけで動画には何も映っていませんでしたし」


 確かに先ほど見た動画の中では投稿者は何も見つけられなくて動画を終わろうとしていた。その動画が上がったのが2ヶ月前らしいがその2ヶ月の間に何かを見つけているか、村から出られているか、それとも――。


『そういえばあの村の名前は何というのだ?存在しない村と言っていたが』


「この村の名前は羇村おもがいむらと言うらしいですわ。地図にも歴史にも存在しない村」


「この前テレビでやってたよねー。名前はあるのに存在してない村のやつ。そんな感じかなー?」


「なんだっけ?」


「犬鳴村だっけー?「これより先、日本国憲法は通用しません」って書いた看板があるところー」


 犬鳴村はよく知らない無いが福岡県にある旧犬鳴トンネルでは殺人事件が起こったこともあり、心霊スポットとしても有名である。霊が集まるということはそれだけ強い力がそこに留まっていることもあり、裏世界への入り口とも言われている。国の管轄で立ち入り禁止になっているため入ることは出来ないし、入ってしまえば犯罪になってしまう。


「そこは霊のたまり場として有名な場所ですね。私の管轄外なので詳しくは知りませんわ。知り合いの同業者にに霊媒師がいますが今回は関係なさそうなので話を元に戻します」


「あ、余計なこと言ってすみません」


「いえ、大丈夫ですよ」


「裏世界にある存在しない羇村、そこにあるコトリバコらしきものの調査」


「ついでに配信者の方も捜索したほうがいいでしょう」


『動画の投稿は2ヶ月前だが、死んでいるのでは無いか?』


「裏世界ですしなにがあるか分かりません。死んでいる可能性も生存している可能性もあります。その場に行ってみないことには分かりません」


「シュレディンガーの配信者だね」


 重くなった空気を少しでも軽くしようとジョークを交えてみたのだが、酸塊さんからは白い目で見られてしまった。

 

「取り敢えず私たちは明日、羇村へと調査に向かいます。留守番は任せてもよろしいですか?」


「分かりました。調べさんとかゲティさんが来たら説明したほうがいいですか?」


「お願いしますわ」


「守護霊として事務所も守るよー」


『空穂は愛美の守護霊であろう?』


 僕の発言はなかったことになったらしい。話が纏まりそうなので僕は特に言葉を発さないことにした。

 手元にある依頼書を見ても、依頼内容が書かれているだけで連絡先も報酬も書いていない。興味を持って自分から死地へと赴くための罠にも思えてきた。

 見ていると苛々が募るので、皆の影で依頼書を破りゴミ箱に捨てた。

 

 依頼書があろうとなかろうと結局問題を解決することになっていたのだ。来栖さんがその動画を事務所で見始めた時点で。

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