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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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立つ鳥跡を濁さずep4

 結構な大ごとになりそうな今回の件。

 

 酸塊さんの反応から見ても一筋縄ではいかないことは明らかだろう。情報は少しでも多く持っておきたい。

 気持ちを落ち着けて話すためにも、顔を合わせて会話をする必要がある。

 へたり込むようにしてソファに座った酸塊さんの横に僕は座ることにした。スマートホンの画面を観ることもあるかもしれないし。


「それじゃ、来栖さん。大まかな概要教えてもらってもいいかな?」


「概要と言っても、私もコトリバコ?というものに関しては知りませんし……」


「それは酸塊さんから聞くよ。僕が知りたいのはその動画の人とどういう動画だったのか、だよ」


「それならお話できます」


 スマホの画面を机の上に置き、それを覗き込むようにして観る僕。その画面には大きく『オカルトハンター』と書かれていた。


「えっと、この人はオカルトハンターっていうチャンネルで動画を投稿している人です。最近他の動画を見ていたらオススメに出てきて観るようになりました」


「何かしら役に立つかも知れないからねー」


「この人の動画は都市伝説だったりオカルト的なものだったりを調査しているみたいです。昔の動画では「ツチノコ探してみた」とか「肝試しに行ってみた」などの動画が人気のようです」


 話を聞く限りではただの一般人のように思える。怖い物知らずと言うか、関わっていいものとそうでないものの区別が付いていないとは言え動画クリエイターはそういう人もいるのだろう。


「実際にその動画で本物はでたことあるの?」


「本物ですか?」


「幽霊でも都市伝説でも何でもいいけど正体が暴けたものはあるのかな?」


「いえ、私が見た限りでは無いと思います」


「……。それ面白いの?」


「正体暴くことがメインと言うよりもオカルト紹介チャンネルとしての味方が正しいのかもしれません」


 そもそもの話、一般人が裏世界のものと関わることはかなり稀なケースだ。此方から裏世界のものが見えないのと同じで裏世界の方からも現世界の人間は見えていない。何かの拍子で繋がってしまうことで見えてしまうことがある。

 この動画投稿者は裏世界には全く触れずにやり続けていたのだ。裏世界を知らないからやり続けられたとも言えるだろう。一度触れてしまえば微量の毒のように身体を蝕み恐怖に陥ってしまうこともある。知らぬが仏と言うやつだ。


「それでコトリバコの動画の話。何が起こったの?」


 僕は本題に入る。

 その動画の途中で来栖さん達の様子がおかしくなったのだ。それには何らかの要因が存在しており、今回僕らが調査をすることにも繋がっているはずだ。


「この人はいつも通り一人で目的地に向かっていました」


「一人?カメラとかは?」


「自撮り棒っていうのがあってそれで撮影してるみたいー」


「なるほど」


「先にどんどん進んでいくと村の跡地みたいなものがありました。もう誰も住んでいないのか、家屋は廃れていて雑草なども生い茂っていました。そして軽くあたりを調査して何もないことを確認すると村の外に出ようと元来た道を歩いてもどろうとしていたみたいです。ですがどんなに移動しても風景は変わらず」


『気付くとこの男は何故か村の中心にいたと言っているというわけだ』


「でも不思議なんだよねー」


「不思議?何が?」


 来栖さんは「これを見てください」と言って動画を再生する。確かに男が1人で撮影をしている様子が映っており、話に聞く通り村の中を軽く歩き回ってから締めの言葉を言っていた。後ろには何やら看板が立っている。


「来栖さん少し動画を止めて」


「あ、はい」


「この後ろにある看板、多分村の名前だと思うんだけど……」


「ほんとですね」


「でも村って漢字は読めるけどー。その前の漢字見たこと無いー」


「なんだろう?僕も見たこと無いや」


「取り敢えず話を進めたほうがいいですわ。その村の名前に付いては私が調べておきましょう。今は漢字の形が分かれば調べることが出来ますし」


 酸塊さんは自分の懐からスマートホンを取り出し検索を始める。その間に来栖さんから話を聞いておいたほうがいいだろう。


「ごめんね。話遮っちゃって」


「大丈夫です。そのまま動画流しますね」


  再生を押され音声とともに流れていく映像。この男はこの村から出ていこうとしているみたいだが、動画が回っているのにも関わらず一向に動こうとしない。直立不動でスマートホンのついた自撮り棒を掲げている。


「これ何してるの?」


「あと数秒もすれば分かると思います」


 その言葉を信じて動画を見続ける。10秒程度経ったところで男は気絶から起き上がったかのように動き出した。男はあたりを見回すと不思議そうに首を傾げて喋りだす。


『今、確かに俺は村の外に向かって歩いていたのに何でここに戻ってるんだ?』


「ん?」


「おかしいですよね。この人は言葉を一歩も動いていないのにも関わらず村の外に行ったと確かに言いました。この後も何回も今のような事が起こって叫ぶところで動画が終わります。コメントとかではヤラセなどの意見もありますが、一部では本物じゃないかとも言われています」


「でもこの人が何処にいるのか分かるなら助けに行く人もいるんじゃないの?」


「それが……」


 動画の下のところにある概要欄を僕に見せてくる。そこに書かれているのはこの配信者の情報やSNSへの誘導。だが一番上のところに書かれているのは何処かのサイトへつながるURLと「電池がもう切れます。この場所にいますので助けてください」の文字だけだった。


「このURL押した?」


「いえ、まだ押していないです。変なサイトに繋がったら嫌なので……」


 URLを押すだけで詐欺の被害に遭ったり迷惑サイトに移動することもあるとニュースで聞いたこともあるので懸命な判断だろう。

 僕のスマホを取り出し、動画サイトで配信者の名前を入力し同じ動画を開く。そして概要欄にえるURLをタッチするとマップアプリが開き、恐らく配信者が行ったであろう場所が表示されていた。


「山の中だね」


「山の中ですね。それにあの村の名前みたいにも書かれていないですし」


「そりゃもう廃村になってるからね」


 マップアプリは新しい情報がどんどん更新されていく。有名な場所なら跡地として表示されているかも知れないが、廃村となり無くなってしまった村のことまでは表示しないだろう。


「そういうわけでは無いみたいですわ」


 村のことを調べていた酸塊さんは持っていたスマートホンを懐へとしまい込み話し始める。


「その村はありませんわ」


「いや知ってるって。廃村になってるんだから無いことくらい」


「違いますわ。その村は存在しない村なのです。あくまでネットで調べた限りですが、その村が存在していた痕跡は全くありません。この世に存在しない村と言ってもいいでしょう」


「もしかしてだけどさ」


「可能性が高いかと」


 さっき考えていたことが最後の最後になって現実味を帯びてくる。この配信者は活動をし続けていく中で本物に遭遇することは無かった。しかし最後の最後で本物に遭遇してしまったのだ。


「なにがもしかしてなのー?こっちにも説明してよー」


『うむ。2人だけで納得されても困るではないか』


 確かにちゃんと説明をする必要があるだろう。僕と酸塊さんが調査に向かうとは言え、この事務所で働く社員であり今回の件に関わっているのだ。

 ゲティや調さんが来た時に説明をしてもらう可能性もある。


「簡単に言うとね、この村。裏世界に存在する村かもしれない」


 つまり、今回の件は。

 コトリバコの噂が残る地にある存在しない村の調査。

 幾重にも重なる怪奇と触れ合うことなのだ。


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