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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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立つ鳥跡を濁さずep3

 話が終わると来栖さん達はまた動画を見始める。

 僕と酸塊さんは仕事の話。夏休みが終わったということは変な依頼が良く来るのだ。

 夏休みに軽い気持ちで心霊スポットへ行き肝試しを行った結果体調不良になったなどと言う依頼が来たりする。これは除霊師の人が面倒くさくなって此方に投げてくるパターンだ。

 他にも都市伝説のある場所を調査してほしいとか魔術を必要としていない依頼も多く、そういうのは必然的に見送ることになる。

 その辺の分別を僕と酸塊さんでやっているのだ。

 呪い関係のものは酸塊さんの分別で、それ以外は僕が行っている。調査関係なら調さんに任せるのも手なのだが危ない依頼かそうではないかを見極めるのが難しい。調さんは魔術師ではないため対抗手段がない。魔術師の誰かが付いていければ良いのだがあいにく手隙の人は誰もいない。


「酸塊さん、なんかめぼしい依頼ある?」


「特にありませんわ。こっくりさんや百物語をやって呪われたと言われましても、私は呪物専門ですので困ります」


「そっか。こっちもないね。面白そうなのはあるけどゲティの力が要りそうなヤツだから受けられない」


「そうなりますと」


「暇だねぇ」


 一通り整理をしてソファで燥いでいる空穂ちゃんたちを見る。一つのスマホ画面を2人と一匹で見ているのだが収まりがとてもいい。しっかりとフーちゃんにも見せているのが面倒見の良さの表れだろう。


『なんというか、怖い物知らずというのは居るのだな』


「ねー。都市伝説なんてあくまで噂なのにね」


「でも社長さん達はてけてけと出会っている訳だし、噂が本当になることもあるからね」


『そうだな。儂が言うのもおかしいが世の中には不思議なことが多いからな』


「あ、次の動画でこの人のやつ最後だー」


「2ヶ月前?この人毎日のように動画上げてるのに。お休みかな?」


『最後まで見れば分かるだろう。早く見よう』


 なんだかんだフーちゃんも馴染んでいるみたいで良かった。今のフーちゃんはゲティの使い魔のようなものになっているが空穂ちゃんとも繋がっている。基本的には自立して動くがいざとなればストラスの力も使えるぬいぐるみと思っていいだろう。

 定期的に洗っているのか、いつも毛並みはふさふさで抱き心地が良いため来栖さんは事務所ではフーちゃんを抱えている姿をよく見るのだ。フーちゃんも来栖さんのことを認めているらしく良好な関係と言えよう。


 そんな姿を微笑ましく見ている僕と酸塊さんは再び書類の整理に取り掛かろうとする。


「え、なにこれ」


 それを遮ったのは呟くように溢れ落ちた来栖さんの震えるような声だった。目は動画に釘付けになっているようで、流れている中で何かしらの出来事があったことは想像に難くない。


「演出ー?でも今までこんなことなかったし」


『必死な形相から演技とも思えん。何かまずいことに巻き込まれたのか?』


「そんなのは見えなかったけどー」


「まって、概要欄に何か書いてある。場所はS県O地域の山の中の村。何もないのに出られなくなってしまったから助けてほしいって。コメント欄では皆演技だと思ってるけど……」


 騒ぎ始める2人。その姿を見つめる僕と酸塊さん。酸塊さんなど書類を両手で持ちながらじっと2人の方を見ている。ただ動画を観ているだけならば特に気にもしなかっただろうけど、ただならぬ様子を見せる為、気になって注視してしまう。

 そんな僕らのことに気付かないほど焦った様子で画面を見つめている。片目しか見えていないはずなのに、黒目には画面が反射していた。


『愛美。少し上のコメントを見せてくれ』


「どれ?」


 フーちゃんの言葉に応えるように画面をスクロールする指の動き。


『それだ。「その場所は絶対に行くなと言われていたはず。どうして行ったんだ。死ぬぞ」と書かれているな』


 動画のコメントならその動画を盛り上げるためにもそういうことを書く輩はいるだろう。ただ、フーちゃんはなにかが気になったみたいだ。動物ではないが動物的感覚なのかも知れない。

 

「ねえ、空穂ちゃん」


「なにー?」


 流石に見ているだけでは気になってしまった為、空穂ちゃんに聞くことにする。声は答えてくれたけど顔は動画に貼り付けになって此方を向いてはくれない。


「それ、なんの動画見てるの?」


「んーと。『コトリバコ見に行ってみた』って動画。鳥籠とかそういうのだと思うけどー」


 空穂ちゃんの答えと同時に酸塊さんは持っていた書類を落としてしまった。複数枚持っていたためか、ひらひらと舞う書類。クーラーの風に吹かれて少しだけ宙を舞った後床に音を立てずに舞い落ちた。

 落ちる書類から顔を上げ、酸塊さんの方を見ると口を半開きにしながら震えている。普段見ない酸塊さんの様相に既視感を覚える。僕と初めて出会った時に触れ合ってしまった時のような表情をしていた。

 その様子を見た2人は動画から顔を上げて酸塊さんの方を見る。僕も酸塊さんが何かを言い出すのを待っているのだが、震える口から出た言葉は事実を受け止められない細い叫びだった。


「い、いま何といいましたか?」


 震えるような声。一体何に対してその反応を示しているのか。


「え?どうしたんですか八重さん」


「今なんと言ったと聞いているんです!」


 僕でも初めて聞く酸塊さんの怒号。その怒号を合図に皆は息を呑み、呼吸すらも忘れてしまうほど空気が重くなる。外気の音や環境音だけが事務所に鳴り響き、ここだけ世界から隔離されたような感覚に陥る。


「酸塊さん。怒鳴ったらダメだよ」


 自分の中に余裕が無くなっているとは言え、誰かに怒鳴るのはいいこととは言えない。それも事務所にいるのは仲間だ。

 冷静にならないと何処かでミスをする職業だ。動揺することが珍しいとは言えきちんと叱責をする必要があった。


「あっ。申し訳、ありません」


「ビックリしただけですし大丈夫ですよ。それよりどうしたんですか?」


 素直に謝る酸塊さんに対して特に気にしていないように振る舞う来栖さん。実は突然の出来事によって僕の心臓は早鐘を打っていたりする。


「今、コトリバコと言いましたか?それにS県O地域とも。その動画を見せてもらってもいいですか?それとこの人の説明もお願いします」


「ちょっとまってね」

 

 僕の方を見て動きを止める皆。律儀にも動画の再生求めてくれたみたい。

 S県O市。何処かで見たような、聞いたことのあるような名前だ。つい最近何処かで見たような気がする。

 ふと思いついて整理していた書類をもう一度見返す。

 不要だと判断した為、内容は覚えていないが記憶に新しいということは何処かに情報があるかも知れない。

 一枚、また一枚と書類を確認していく。数枚確認したところで今日処理した書類の中でお目当てのものを見つけた。


「あ、さっきの依頼で合ったよその場所。S県O地域の都市伝説を調べてほしいって奴」


 僕らには関係できないと思っていた都市伝説の依頼。『S県O市に伝わる都市伝説を調べてほしい。その村に行けば調べられる』と書かれているがコトリバコという名前は一切出てこない。

 その書類を酸塊さんに手渡す。目線が左から右へと何度も流れて、書類を熟読している。読み終わったのか、僕に書類を返すと深く溜息を吐いて蹌踉めくようにソファへと腰を下ろした。


「これはやられましたね。私の身体に呪いを移す力を使って鎮めようとしているのでしょう」


 コトリバコは呪いのことなのだろうか。酸塊さんに任せる依頼だとするのならば他の人には出来ないことだと思うが。


「なんとかなるの?」


「噂通りの強さなら人1人の身体に受け入れられる呪いの強さではありません。間違いなく私は死にます」


「なんでそんな依頼がここに来たんだろう」


「他の人たちはその強さから投げ出してここの事務所に詳しいことは書かずに依頼を出したのでしょう。胸糞悪い話ですが……」


 他の人達が死を恐れ、投げ出した依頼。内容を伏せることで受けてもらってあわよくば解決させようとする汚いやり方だ。酸塊さんの口振りから相当強い呪いが発生していることが分かる。


「行くの?」


「兎に角近くまで行って調査するしかないでしょう」


 誰かに不幸を移さないために自分を犠牲にして生きてきた彼女にとって、呪い関係で苦しむ人がいる時には何とかしてあげたいと潜在的に思っているのかも知れない。

 自分の命が危険かも知れなくても、そこに呪いがあって困っている人がいるのなら足を運んで解決する。それが呪物師としての酸塊八重なのだ。


 ただそんな危険な場所、しかも遠出をしなければならないところに彼女一人で行かせるわけにはいかない。


「じゃあ準備しようか」


「え?社長さんも来てくださるんですの?」


「呪いと言ったら酸塊さんだけどね。僕は呪いには強いんだ」


 僕のルーン魔術は呪いと相性がいい。

 だからこそ、この依頼は僕と酸塊さんが共同で受けるべきだと判断する。依頼主は匿名だが、解決した暁には魔術師協会に報告してやる、と意気込んで来栖さんたちから詳細を聞くことにした。

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