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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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その願いは徒花のようにep3

 一人かくれんぼについて明らかに何かを知っている調さんはソファーから立ち上がり、事務所の壁に近づいた。その先には、今は誰も使っていないホワイトボードがある。

 昔は何か連絡事があったり、皆で会議したりする時に使うだろうと思って購入したのだが使われることはなかった。タブレットで説明することが増えたし、そもそも皆が集まることは早々無かった。1人2人と顔を合わせる事はあるが全員がこの場に集まったことなど数えるほどしかない。


 ホワイトボードに「1つ目」と書いてから調さんは説明を始める。それに合わせて僕たちの目線もホワイトボードへと向かった。


「まず一人かくれんぼはぬいぐるみを使う。それは良いな?」


「だから今回の件で可能性を感じたのです」


「大事な要素が抜けているけどな」


「大事な要素?」


「使うぬいぐるみは《《手足》》の付いたものを使う。フクロウのぬいぐるみには足はあっても手はないだろ?」


 調さんの言葉にハッとした顔をする酸塊さん。そもそも一人かくれんぼについて僕も酸塊さんも詳しくはなく、ぬいぐるみが動いて人を殺すという要素で可能性を感じていただけだった。

 調べる間もなく調さんに頼りに行った為、知識が何も無い。


「確かにあるのは足だけですわね。羽は手と言えないでしょう」


「お前が言うと面白いな」


「調さん、デリカシーって言葉覚えようね」


「お前が言うな」


 この男は誰が相手でもデリカシーを欠く発言をすることがある。それにも対して僕は誰が相手でも敬意を忘れず、距離感を間違えないように気をつけているためノンデリ発言というものはしていないだろう。

 お前が言うなと売り言葉に買い言葉を使われても心には何も響かない。何故なら思い当たる節がないから。


「話を戻しますよ。確かに手足がないというのは一つ要素が足りないということに繋がりますわ。それが1つ目ということは2つ目もあるのでしょう?」


「2つ目までしかないが、こっちの方が一人かくれんぼではないと確信する要素となる。それじゃ2つ目だ」


 ホワイトボードを背に向け、指を2本立てて此方へと向ける。1つ目と書かれてだけのホワイトボードは可哀想なことに2つ目の文字が書かれることはなかった。それなら最初からホワイトボードを使う必要は無かったと思うが気分や演出の問題だろう。


「一人かくれんぼっていうのは準備が色々必要だ。道具だったり環境だったり。そもそもの話、鏑木はぬいぐるみはクローゼットにしまったまま放置して取り出していない。その事からも鏑木がやった可能性は低い」


「仮にですが前の持ち主が行った呪いが残っている可能性もあるのでは無いですか?空穂さんもいつからあるか分からないと仰られてましたし、どこかで拾った可能性もあります」


「お前はかくれんぼをしたことはあるか?」


「ありませんわ」


 調さんは僕の方を向く。僕は小さいころから1人だったし、物心ついた時には海外にいて先生のところで修行をしていた。かくれんぼという子どもの遊びはしたことがないため「僕もないよ」と答える他無かった。


「今の酸塊の質問の答えだが前の持ち主が居たとしても鏑木に被害が及ぶ可能性はゼロだ」


「それはなんで?」


「かくれんぼっていうのは参加者がいる遊びだ。酸塊の言ったことは関係ない赤の他人を《《みつけた》》と言うってことになる。最初から参加すらしていない鏑木に一人かくれんぼの影響を受ける可能性は無いんだよ」


 その説明を聞くと納得してしまう。当然、調さんも間違えることはあるが可能性や選択肢の増減をしてくれるだけありがたい。調べて突っつけば調さんの説明に対して反論できるかも知れないが今はそういう時ではない。

 もそもそと動いて再びソファに座った調さん。一仕事やり終えた雰囲気を出しているが物事は何も進んでおらず、勝手に進んだと思っていた僕たちからすれば戻ったまである。


「それではどうしましょうか」


「取り敢えず、そのぬいぐるみは鏑木家にあるのは危険だ明日にでも回収してきてよ」


「それが明日は来栖さんの用事があるらしくて。学校の補講らしいですわ。学校に行けなかった分を先生がどうにかしてくれると」


「学生だねぇ」


「なら酸塊一人で――って思ったが流石に一人だと心配か」


「僕らは流石に鏑木家の人に警戒されるだろうしね」


 酸塊さんが1度顔を合わせているから大丈夫な可能性もあるが一般人からしたら胡散臭い職業だという自覚もある。

 娘の名前を語る詐欺師に間違えられたら目も当てられない。

 鏑木穂波さんの警戒心の無さに付け入る隙があるとは思うが悪徳商売をしたいわけではないため現状打つ手無しで悩んでいるのだ。


 そこから数分たち、何かを思いついたように調さんがテーブルに手を付け立ち上がった。気を抜いていたため、声は出さないまでもびっくりして椅子から腰が上がってしまう。先ほどのモニターに映された画像を見た時と同じような反応をしてしまったが、今度は2人には気づかれなかったみたいで安心した。


「ぬいぐるみが相手ならぬいぐるみの専門家に頼めばいいじゃねぇか。この時間ならまだ連絡付くと思うぞ?」


 そう言って調さんはポケットからスマホを出し、何処かへと電話をかけるのだった。




「先に言っておくが私はぬいぐるみの専門家ではない。魔術の媒体にぬいぐるみを使っているだけだ」 


 仏頂面をしたまま酸塊さんの隣に座る少女。少女に見えるだけで僕よりも年上な悪魔を使う魔術師であるゲティがそこにはいた。

 調さんが電話を掛けた相手はゲティで、丁度1階にある占いの店仕舞いをしていたところだったようだ。ゲティも電子機器に弱いため電話に出るか怪しかったがしっかりと繋がって会話出来たみたいだ。

 

 それよりも僕が嬉しいのはこの事務所に社員全員が久しぶりに集まったことだ。それぞれ忙しいため、事務所に揃うことはない。今回の件によって皆が集まったのは来栖さんが依頼をしてくれたおかげ、全員がこの場に導かれたのかも知れない。


「それにしてもゲティはすぐには来ないと思ってたよ」


「事が事だからな。急いだほうが良いと思っただけだ」


「鏑木達の名前出したから「今から行く」って言ってすぐ来たじゃねぇか」


「一応、うちのアルバイトだからな」


「素直じゃありませんわね」


「歳上だぞ。敬え」


「見た目だけなら最年少だろ」


「殺すぞ」


 見てわかる通りこの三人は仲が良い。言葉は悪いが皆座ったまま動かないが口喧嘩のようなものをしている。気の置けない仲だからこそ出来るのだ。

 先程も調さんが電話をしてから5分程度でゲティは来た。なんだかんだ最近空穂ちゃんたちと一緒にいることも多いゲティは2人のことが心配で駆けつけたのだろう。本人に言ってもきっと認めはしないだろうけど。今だって2人の顔を見ずにそっぽを向いている。その姿は親に揶揄われてすねている中学生にしか見えない。


「それで要件は何だ?」


 ゲティも当然何が起こっているのか知らないため酸塊さんによる本日3回目の説明会が開かれた。一通り説明を行った後、何故ゲティを呼んだのかの本体に入った。


「それで、件のぬいぐるみを明日回収するのに付いてきてほしいのです」


「明日か。急だな」


「何か予定でも?」


「私の店を臨時休業にすれば何とかいけるだろう。ただ急だと思っただけだ。お前の目から見ても急ぐことなのか?」


「正直分かりませんわ。でも良いものではないことは確かです。どうかあの2人のためにもお願いします」


「それは構わない。今の話で少し気になるところもあるし早めに調べたほうがいいだろう。ただ、今回の件は私の悪魔を使うことは出来ない」


「呪いの影響ですわね?」


「そうだな。呪いという不確かな物に対してと言うよりも目に見えないものに対して対処できる悪魔を私は契約していない。一応調査はするが呪い自体をどうにかできるとは思わないでくれ。危険だと判断したら撤退もあり得る」


「それは大丈夫ですわ。私達の職業も命あっての物種ですからね」


 ゲティの悪魔はとてつもない力を持っているが故に、細かい何かを解決する事には向かない。そういう事に向いている悪魔は戦闘型ではないためなにか起こった時に対処ができないのだろう。それにゲティが魔術を発動させるためには媒体となるぬいぐるみが必要なため、事前に知識を仕入れたうえで依頼に臨み、適切なぬいぐるみ兼悪魔を使う必要がある。

 

 フクロウのぬいぐるみは正体不明の呪いを持っている。燃やし尽くしたりして存在を消滅させることが出来れば簡単だが、それをするとぬいぐるみの正体もわからない。

 火力が高すぎて調整できないのだ。


「それでも一緒に来てくれるだけでありがたいですわ」


 なんだかんだゲティは酸塊さんにも優しいのだ。

 いや、僕と調さん以外には優しいと言っていいだろう。僕たちが一体何をしたんだと思うこともあるが説教が始まるためその訴えは行ったことがない。

 流れが決まった2人は軽く談笑しており、先程までの真剣な雰囲気は薄れている。その場にいる調さんは僕の方をチラチラと見ているが僕もどうすることもない。話しかける内容があれば良いのだが特に話題もないため、調さんにはもう少しだけ気まずい思いをしてもらうことにする。


「どうする?明日はタクシーかなんかで行くのか?」


「いえ、そう遠くはありませんので歩いていきましょう」


「お前が良いならいいが」


 2人が行くのは恐らく日中のため、外は滅茶苦茶に暑い。気温を調べる限りでは35度を越える猛暑日になるみたい。コンクリートの地面から照り返す熱と予想では感じる暑さが変わってくる。酸塊さんは歩くのが早くないので時間がかかってしまうだろうし気をつけてほしいものだ。


「熱中症には気をつけてね」


「夏真っ盛りで暑いからな。水分補給はちゃんとしろよ」


 やっと話に参加できるタイミングをみつけた調べさんも、話を聞きながら2人の心配はしているみたいだ。死人が出るレベルの暑さだ。うちの従業員に幽霊があと2体増えたら溜まったものじゃない。


 ゲティと酸塊さんはこの後、空穂ちゃんたちも入れたメッセージグループで打ち合わせをするらしい。いきなり鏑木家に行くのも常識的におかしいため、来栖さんに連絡を取ってもらうらしい。

 本人が行くことが出来ないのに部外者2人で行くことは出来るのだろうか。

 酸塊さんは自己紹介をしているとは言え、新しく占い師を名乗る人間まで出てきたら不審がるだろう。通報されないことを祈るばかりである。

 

 それよりも僕が気になったのは女子達が連絡を取り合っていること。いつの間にやら女子達が仲良くなって嬉しい限りだが、やっぱり僕と調さんが置いてけぼりになっている。

 酸塊さん達が事務所から出ていったあと、部屋に残ったのは男二人だった。


「ゲティ、いつの間にメッセージグループなんてものを使えるようになったんだろう」


「最近鏑木たちとつるむ様になって色々教えられてるみたいだぞ」


「え、なにそれ僕知らないんだけど」


「言う必要もないだろ」


「報連相大事ってゲティが言ったのに」


「プライベートまで報告する義務はねーよ」


 電子機器弱い同盟を勝手に結んでいたはずの僕とゲティ。気が付けば僕よりも遥か先に行っており、気づけば僕は1人になっていた。


「そういえば調さんも空穂ちゃんたちと最近なにかやってるよね?」


「あー。色々研究してんだよ。本人の希望でな。一応彼奴等は魔術師じゃねぇから俺のほうが分からないことを色々話しやすいんだろ」


「幽霊だからってセクハラは駄目だよ?」


「上司からのパワハラで訴えてもいいんだぜ?」


「それよりも空穂ちゃんたちと何やってるのさ」


「だから内緒だよ。本人達にもどうせ言われただろ?」


 確かに来栖さんに聞いた時にも内緒と言われたことを思い出す。いや、うちの事務所僕に対しての秘密多すぎないだろうか。

 なんだかんだ皆プライベートで来栖さん達との付き合いがあるみたいだし僕だけが何の付き合いもない。


「そんじゃな」


 調さんは適当な挨拶をして事務所から出ていってしまった。


 社長なのに社員との仕事以外のコミュニケーションを殆ど取っていないからこんな事になってしまったのだ。

 調さんも部屋に戻ってしまったため事務所に残るのは僕一人。涼しくしていたはずの部屋も人口密度が減ったからなのか少し寒く感じてしまうのだった。

次の節から1話の文字数減らして1節の話数増やしてます。


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