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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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夢見る人と現を見る霊ep4

「少し1人にしてもらえるかしら。空穂の部屋は――」


「私が案内するから大丈夫ー」


「空穂ちゃんが案内してくれるみたいです」


 立ち上がり空穂さんの部屋の場所を伝えようとする穂波さんの言葉に被せるように言葉を発した愛美さん。年上の人に対して無礼だが、気にする素振りもなくもう一度椅子に座りました。

 空穂さんの声が聞こえている私はまだいいのですが聞こえていない人に対しておかしな行動を取ることはこれまでもあったのでしょう。その都度誤魔化して居たのかもしれません。


「そ、そうなのね。そういえば家に入ってすぐにお手洗い言ったときも、場所を説明していないのに行けたのは空穂が案内したのね」


 思い返せば愛美さんはこの家に足を踏み入れるのは初めてだと言っていました。それなのにも関わらずお手洗いの場所を聞くこと無く、分かっているかのように向かっていきました。

 空穂さんが案内していましたが見えていない人からすれば自分の家に来たこともない人が自分の家のことを知っているという奇妙な状況に戸惑うのも無理ないでしょう。


 それにしてはあの場を流していたのは不自然な気もしますが。


「その時は伝えるつもりも特に無くて……。すみません」


「いいのよ。こんなこと信じられないもの。それにあの時は私も気が付かなかったし」


 ただ気が付いて居なかっただけみたいです。危機感と言うよりもなんというかふわふわした人だという評価に落ち着きました。


「それでは空穂さんの部屋に行かせてもらいますね」


 愛美さんがリビングから出ていきます。勿論、先頭は空穂さんが案内しています。私も立ち上がり、穂波さんに頭を軽く下げてから愛美さんの後を追いました。

 リビングに1人取り残された穂波さんが一体どんな感情で、何をするのか私には考えようもありませんが苦しむことが無いように祈るばかりです。


 呪術師だって人の幸せを願ってもいいのです。




 鏑木家にある階段を1段1段登っていきます。その足音は私のものと愛美さんのものしか聞こえません。空穂さんは歩いているようにも見えますが、もしかしたら浮いているのかもしれません。

 触れる物が限定されている空穂さんは当然地面にも触れないと思います。それなのに同じ目線にいるということは浮いていると考えるのが妥当でしょう。

 それ以外にも空穂さんに関しては理解できないことも多いため私は考えるのを無駄だと判断し思考を切り替えました。


 階段を登ると一番手前に平仮名で『うつほ』と書かれた板がぶら下がっている部屋がありました。遠目で見ても特に違和感は感じませんが、穂波さんの言っていたことを信じるのなら何かあることは間違いないでしょう。

 空穂さんが見えない程度の霊感の人でも身体に影響が出るほど感じる物がそこにあるのかもしれません。


 私達は部屋の入り口を観察してから近づき、部屋の前に立ちました。


 その時です。


「待って愛美!」


 いつもの間延びしたような声ではなく、焦った声で愛美さんを呼ぶ空穂さんの声が響きました。


「どうしたの空穂ちゃん。入ったらまずい?先入って片付ける」


「違うの!このまま中に入ったら愛美が危ないかも!」


「どういうことですの?」


 空穂さんの剣幕は明らかにいつものものとは違い、異常事態を告げるようなものでした。危ないのは愛美さんであって私ではないのでしょう。

 社長にも言われましたが、空穂さんには愛美さんに降りかかる危険を察知するセンサーみたいなものがあるらしいです。今回はそれに引っかかったのでしょう。


「八重さんには信じてもらえないかもしれないんですけど、空穂ちゃん、私が危険な事に巻き込まれそうになると何時もこんな感じなんです。空穂ちゃんが守ってくれるので危険な目に遭ったことはないんですけどね」 


「でも今回は愛美さんにも入って頂きたいです。何かを見つけても愛美さんが見なければ空穂さんが触れないですしね」


 私が触ることの出来ないものを愛美さんに触ってもらう可能性があります。それこそ、空穂さんの部屋のため私に見られたくないものもあるでしょう。調査のためだからといって個人のプライバシーを無視するようなことは出来ません。

 空穂さんが物を触るのには愛美さんが見る必要があるため空穂さんも部屋に入ってもらいたいのです。


「多分、この目で見るのがまずいんだと想います。眼帯絶対に外さないけどそれでも駄目かな?」


 空穂さんは目を瞑り、唸り声を上げながら考えています。

 古典的な手のひらに拳を打ち付けて音を出すと何かを閃いたように愛美さんの目を手で覆い隠しました。


「こうやって私の手で目を隠してたら愛美の目に対しての悪いものは私が守れると思う!それでも絶対に眼帯外さないで。凄くヤバそうな気がするー」


「うん。分かった」


 空穂さんは何かを感じ取っているみたいですが、私には何も感じ取れません。扉の前に愛美さんと空穂さんを挟んで立っているのですが魔力もほとんど感じないのです。穂波さんの話を聞く限りでは不気味な程に。


 愛美さんがこの部屋に入るのを危険と判断した空穂さんを信じ、私が扉を開けることにします。空穂さんと愛美さんを後ろに下げ、扉を開けるためにドアノブに手をかけようとしました。


 その時、身体に異変が起こりました。猛烈な寒気に襲われ手が震えだしました。ドアノブまであと数センチもありません。この扉を開けようと意識して近くまで寄った瞬間何かが身体を襲いました。

 これは明らかな魔力の気配でした。なぜ近くに寄るまで気づかなかったのか不思議なくらいに濃密な魔力の気配。


 そして、呪いの気配でした。空穂さんに感じた呪いの気配と同じ物がこの部屋の中にあります。


「八重さん?どうかしました?」


 ドアノブに手をかけようとして動きが止まってしまった私を心配する愛美さんの声が耳に届き、平静さを取り戻しました。そして、ドアから少しだけ距離を取り2人を連れて階段まで戻りました。


「いえ、私は大丈夫ですわ。この部屋の中、相当強い呪いの気配がします。空穂さんから感じたものと同じ呪いの気配です。これを愛美さんが直接見たらまずいかもしれません。空穂さんお手軽ですよ」


「呪いって私の部屋からですかー?」


「恐らく。入ろうとドアノブに手をかけた瞬間、とてつもない魔力に襲われました」


「なんででしょう」


「それを今から調べるのです。とりあえず私が行きますわ。大丈夫そうなら呼びますので、万全の態勢でこちらに来てください。くれぐれも気を抜かないようにお願いします」


 2人は確りと返事をし、その場に待機してくれるようです。

ここから先は何があるかわからないため、呪いに対して強い私が先に行って確認する必要があります。

 階段から空穂さんの部屋の扉の前まで行きます。この間には先ほど感じたような気配は一切感じませんでしたが、ドアノブに手をかけようとすると同じような気配を感じます。先ほど感じていたため、今回はさほど驚きもせずドアノブに手をかけました。ドアノブは鉄で出来ているためひんやりしていますが、確りと握りそのドアを開けました。


 

 扉を開けた私が見たものは何の変哲もない女子高生の部屋。女子高生と言うには少し幼く感じるぬいぐるみがあっても空穂さんの部屋と言われれば納得してしまいます。空穂さんが何時も来ている制服と同じ物が壁にかかっており、着替える時のままなのかクローゼットは開けっ放しで、机の上にはやりかけの宿題がありました。

 その部屋に一歩足を踏み入れようとした時、頬を生ぬるい風が撫でます。視線を北方向へと向けると、カーテンが靡いていました。カーテンが靡くということはこの風は外からもたらされる物で、窓が空いていることに気づくのに時間は掛かりませんでした。


 空穂さんが家を出る時に窓を開けたまま出ていったのでしょう。防犯の意識が低すぎます。外からは見えにくい位置にあることからも不審者が侵入できてしまうでしょう。空穂さんが無くなった時から窓が空いているのだとしたら危険すぎます。


 そして、この部屋で最も不自然なものが私の目の前にありました。


 テーブルの上に立つように置かれた一体のフクロウのぬいぐるみです。そのフクロウのぬいぐるみは頭頂部が赤くなっており、先日見た熊のぬいぐるみに入っていた綿と同じ色をしていました。

 血に塗れたフクロウのぬいぐるみがそこにはあったのです。


 部屋に入る前に感じた呪いの魔力はこの部屋では感じませんが、目の前にあるフクロウはその魔力が濃縮されたような気配を感じます。元凶は恐らくこのフクロウでしょう。動く素振りもなく、何かをする気配もないため自立した意識を持つ呪いではない可能性があります。

 明らかに人を殺している呪いの人形の正体が分からないまま対峙して考え込みますが、この場で答えが出るはずもありません。


「八重さーん。どうですかー?」


 階段から空穂さんの声が聞こえてきます。

 この部屋は空穂さんの部屋のため直接空穂さんに聞けばいいのです。


「空穂さん」


 私が空穂さんの名前を呼んだ時でした。目の前のフクロウの人形は急に小刻みに動き出しました。それは電池で動く壊れかけの人形のように、不可思議で不気味な動きをしていました。

 そして。


『うつほ。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』


 呪詛のようにぬいぐるみから流れ出す音声。明らかに正常な様子ではありません。この部屋の雰囲気が徐々に禍々しい物へと変わっていきます。

 目の前のフクロウのぬいぐるみは再び小刻みに揺れ始め、次第に机の上に横倒しに倒れました。それでも尚、フクロウのぬいぐるみは動き続けています。


 フクロウのぬいぐるみは空穂さんの名前に反応して殺すと連呼していた。空穂さんを殺したのは人間の犯人だったはずですが、空穂さんを殺したいほどの呪いがこの人形には掛けられているということ。


「どうかしましたかー?」


 足音が無いため、背後に来た空穂さんの存在に気が付きませんでした。いつの間にかこの部屋までやってきており、空穂さんは私の肩越しに部屋の中を見てしまいます。

 このフクロウは明らかに裏世界に関わるもの。空穂さんのことが見えていて、認識できていてもおかしくないのです。空穂さんを殺すことを考えている物との邂逅は良くないことになると少し考えればわかります。


「待ってください!空穂さん!見てはいけません」


 その私の言葉は手遅れで、空穂さんは部屋の中を覗いてしまいました。


喋る人形が夜中に動き出す経験したことありますか?めてゃめてゃ怖いっす……

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