表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/127

夢見る人と現を見る霊ep1

第2節スタートです

空穂が死んだ理由

「やっぱり私、気になります!」


 各々が何をすることもなく、くつろいで過ごしていた日、いきなり来栖さんが立ち上がり大きな声で皆に声を掛ける。

 今この場にいるのは社長である僕と酸塊さん、それに来栖さんと空穂ちゃん。ゲティは一階で仕事をしており、調さんは部屋で休息中。暑い夏に外を歩いてきて熱中症になりかけた為部屋で休んでいるのだ。


「どうしたのいきなり」


「スカートでいきなり立ち上がってはいけませんわ」


 今日の来栖さんは制服を着ている。夏真っ盛りの中、学生は夏休みというものらしい。社会人には夏休みというのはお盆休みしかなく、学生みたいな長期休暇はない。むしろ一ヶ月も休んだらその次の月の給料がなくなり生活できなくなる。

 夏休みのはずだが、成績に難があるのか来栖さんは夏季補講のため学校に行っていたらしい。勿論空穂ちゃんも一緒に。テストとかで空穂ちゃんは皆から見えないので一緒に考えればいいと言ったことはあったが「空穂ちゃんも私と同じくらいなので」と悲しい事を言っていた。空穂ちゃんは死んでいるのでもう勉強する必要も無いのだが。


「あ、すみません」


 来栖さんはもう一度ソファに座った。


「それでどうしたのさ」


「前に酸塊さんの言っていた空穂ちゃんにかかっていた呪いの事が気になって気になって夜も眠れないんです」


「えー?愛美夜はぐっすり寝てるじゃーん」


「空穂ちゃん。今はそういうのはいいから」


「気になるって、空穂さんはもう死んでいますので呪いの残滓があるだけですわ。今更気にしても……」


 今の空穂ちゃんは特に呪いの影響を受けていないように見える。出会った時から今の今迄、空穂ちゃんから悪い物を感じ取ったことはない。死ぬ前に呪われていたからと言って死んだ後にも呪いが残るという話は殆ど聞いたことがなかった。

 来栖さんは空穂ちゃんの何が気になっているのか、僕には分からない。


「そうなんですけど……。絶対にここで止めちゃ駄目な気がするんです。なんとなくなんですけど……」


 酸塊さんは来栖さんの必死の訴えに動きを止め考える。考えながら空穂ちゃんの方を見たり、来栖さんを見たりと目線を彷徨わせる。僕からすれば何が起こっているのか分からないので口を出さないことにする。


「愛美さん」


「……はい」


「何か視えましたか?」


「そういうわけじゃ……」


 来栖さんの目は特殊なものだ。空穂ちゃんの呪いの正体を知ることが何かしらの導きによるものならば、今後のことを考えると調査したほうがいいだろう。恐らく酸塊さんも同じようなことを考えている。


「呪いの正体を知るというのは必ずしもいいことだけではありません。それは分かってもらえますわね?」


「私は大丈夫です。あ、空穂ちゃんのことなのに空穂ちゃん放っておいて喋っちゃった」


 来栖さんは今迄1人で突っ走っていたことに気がついたようだ。空穂ちゃんの事を知りたすぎて空穂ちゃんを放って話を進めていた。横に座っていた空穂ちゃんの方を向き手を重ねる。空穂ちゃんはその手を握り返し、何度も握っては開いてを繰り返していた。まるで生きている人と死んでいる人の境界線を感じさせないように。


「ありがとー。でも私も知りたいし、私のために愛美が必死になってくれるのもうれしー」


「なら、調べてみましょうか」


 一瞬流れていた険悪な雰囲気は霧散し、三人は話し始める。酸塊さんは徐ろに部屋から出ていき、大きなバッグを持って戻ってきた。あまり重そうには見えないバッグをゆっくりと机の上に置き、チャックを開け中身を出す。


「あれ?酸塊さん、パソコンなんて持ってたんだ」


「持ち歩いていないだけで持ってますわ。最近の情報を仕入れたり、仕事でもパソコン無いと不便ですもの」


 ならば何故スマホだけ持っていなかったのか甚だ疑問である。酸塊さんがパソコンを持ってきたことに驚いていない2人は以前部屋に入った時にでも見たのだろう。

 3人の話を聞きながらも自分の仕事をやっていた僕は一区切りがついていた。このまま事務所に居ても良いのだが、空穂ちゃんの呪いについては僕よりも酸塊さんのほうが役に立つ。この場で一番役に立たないのは僕だ。


「さて、僕はちょっと外に出てくるよ」


「どちらへ?」


「明日空さんにお礼とか色々」


「明日空先生にですか?」


 僕が出張に行っている間にうちの社員がお世話になった件の挨拶がまだできていなかった。あの人は急に行っても出迎えてくれるだろうし適当に連絡して落ち合うことにする。学生が夏休みのため養護教諭がどのような仕事をしているか分からないが呼び掛ければ応えてくれるだろう。

 七不思議の一件も明日空さんからしっかりと聞きたい。魔術師として見たことを、一般人ではない目線の話を聞きたかったのだ。


「そ、ちょっと用事があってね」


「外暑いので気を付けてくださいね」


「夜まで帰らないと思うから2人とも日が暮れる前には帰るんだよ」


「「はーい」」


 夏場の小学生のような返事を背に受けながら僕は事務所を後にする。最近は暑すぎるせいか、蝉も鳴いていないことが多い。蝉時雨の賑やかさが遠い昔のように感じ始めた暑さの中、僕は1人外へと向かうのだった。



Side来栖愛美


 先ほどは社長が居たので誤魔化しました。なんとなく、と。実際はなんとなくではなく、ちゃんと確信があって空穂ちゃんの呪いを調べるべきと考えています。その確信というのも、私ならではと言えるでしょう。


 七不思議の件で私が倒れた後ぐらいからでしょうか。私は夜に夢を見ることが増えました。未来予知と言うほどのことではありません。起こることの結果だけが見えることがあるのです。見えることは決まって悪い事。今迄は私の怪我などに関わることだったため、予め空穂ちゃんがそれを避けてくれました。

 でも、昨日見た夢は違ったのです。場所は恐らく何処かの一軒家でしょう。そこには以前会った空穂ちゃんのお母さんが倒れていました。その周囲には黒いモヤのようなものが漂っており、明らかに人の理を越えた何かがそこにはあったのです。

 

 お母さんが危ないと言うことを空穂ちゃんに直接伝えることはできません。空穂ちゃんはもう死んでいて二度とお母さんと会話できない。それでも助けたいでしょう。事前準備が大切だと私は思いました。


 空穂ちゃんの呪いを調べるという名目で八重さんに相談すれば何とか成るのではないかと浅はかな考えで動き出します。きっと空穂ちゃんの家には何かがある。それは空穂ちゃんにかかっている呪いの正体にも繋がるかもしれません。当てが外れたなら最悪、私が直接行けば良い。何が起こるか分からないし、空穂ちゃんに何かが起こらないように八重さんの助けを借ります。


「さて、社長さんも行きましたわ。空穂さんの呪いについて調べてみましょう」


「どうやって調べるんですか?」


「呪いによる死の場合、必ず魔力的な痕跡が残るはずですわ。又は不自然な死とか」


 見たことがあります。陸地で溺死したり、喉を掻き毟って死んでいたり、自分で自分の首を絞めたりと不可解な死には呪いや裏世界のものが関わっていることがあると。


「ネットで調べれば出てくるでしょう。空穂さんの名前とこの街の名前を検索して――」


 慣れた手つきでキーボードを打ち込む八重さん。検索結果を私たちも見るために席を移動します。2人掛けのソファのため、八重さんの隣に私が座り、後ろから私を抱きしめる形で空穂ちゃんがいます。空穂ちゃんから感じる温度は冷たく夏場は少しひんやりしていて気持ちよかったりします。


「これでしょうか。『20XX年2月不死川にて女子高生の死体を発見。死因は窒息死と見られる。被害者は鏑木空穂さん(17)』って書いてありますわ」


「これ私だー。川で死んでたんだ私」


「え、空穂ちゃん覚えてないの?」


 自分が死んだ時のことや霊体として意識を持った時のことなど何かしらは覚えていると思っていました。空穂ちゃんは首を横に振るだけで自分が死ぬ間際のことも死んだ後のことも何も覚えてはいませんでした。


「気が付いたら公園のベンチに座ってて社長に声をかけられたんだよねー。無意識にあそこまで行ったんだと思うんだけどー。当然死ぬ間際のことは覚えてなーい」


「その数日後の記事も出てきましたわ」


 八重さんは別のページを表示させる。そこには『不死川女子高生遺棄事件の犯人捕まる。〇〇〇〇は酒に酔ってポイ捨てを注意した女子高生に逆上し、首を絞め殺害。その後不死川に遺棄』と書かれていました。


「空穂ちゃんは呪いで死んだわけじゃない……?」


「この記事を見る限りではそうですわね。しかし、そう断言できるものでもありませんわ」


「どういうことー?」


「この男が空穂さんを死に至らしめるための舞台装置として呪いの影響を受けた可能性はまだあります」


 つまり、空穂ちゃんは犯人の意思ではなく空穂ちゃんを殺す呪いの影響に巻きこまれた犯人によって殺された可能性があるということでしょうか。どちらにせよ、空穂ちゃんは首を絞められ、苦しい思いをしながら殺されて川に遺棄されるという合ってはならないことに巻き込まれてしまったのです。悲しいという感情よりも苦しいと思ってしまうのは間違っているのでしょうか。


 背中から回されていた腕が少しだけ強く私を抱きしめました。振り返るとニコニコと笑っている空穂ちゃんの顔があります。自分が死んでいることを突きつけられている空穂ちゃんと、何処か夢なんじゃないかと思っていた私。なんで空穂ちゃんは笑っていられて、どうして私は泣くことしかできないんでしょうか。


「大丈夫だよー愛美。私は死んじゃったけど、ここにいる。愛美に触れてる。だから私が死んだことに泣かなくてもいいんだよー」


「うん……うん……」


 空穂ちゃんは強い子です。私も空穂ちゃんと一緒にいるなら強くありたい。彼女の死は時と共に風化していく。彼女の事は忘れられていくのでしょう。覚えている人の記憶ではいい記憶もあり、痛みとなって残るのでしょう。

 何時まで一緒に居られるか分かりません。空穂ちゃんがここに居ることだって奇跡のようなものなのです。


 空穂ちゃんは泣かなくていいっていいます。それでも貴方が死んでしまったことに泣くのを許してはもらえませんか?貴方の体温を感じる事の出来ないことに苦しさを覚えて泣く我儘な私を許してください。

 やっぱり、私の後ろから回される腕はひんやりとしていて、それを感じて私はまた涙を流しました。




「ごめんなさい。泣いてしまって」


「いえ、此方こそ配慮が出来ず申し訳ありませんでした。空穂さんもごめんなさい」


「気にしないでくださいー。話続けていいですよー」


 私は一頻り泣いてしまい、10分程度経ってしまいました。気恥ずかしさから2人の方を向けず顔を下に向けてしまいます。


「空穂さんの死因に魔力的なものが関わっていないか、調べる方法がありますわ。調べるというよりも聞くという方が正しいですが」


「聞く?誰にですか?」


「知り合いの警察の方に魔術師に関わる人が居ます。その方に直接聞いてみましょう。何か分かるかもしれません」


 八重さんはスマホを取り出すと何処かに電話をかけ始めました。八重さんの格好とパソコンとスマホというアンバランスな風景を見ていると、八重さんは通話をスピーカーに切り替えて机の上に置きました。


「もしもし、酸塊ですわ」

『磐梯です。本日はどうなされましたか?』


 スピーカーから聞こえたのは低い声が渋く聞こえる男性の声だった。磐梯と名乗る男の人が八重さんの言っている警察の人なのでしょう。


「単刀直入に用件を伝えますわ」

『どうぞ』

「X月に起こった不死川女子高生遺棄事件のこと、ご存じですか?」

『勿論です。第一発見者が見回りをしていた私ですので』


 警察とは言っていたがお巡りさんなのでしょうか。この街は魔力的な力が強いと調さんも言っていました。そこを守るお巡りさんもなにか特殊な能力を持っていたりしてもおかしくはありません。


「なら話が早いです。その現場か死体に魔術的な痕跡はありましたか?」

『ふむ、少しお待ち下さい。独自に纏めた資料を取ってきます』


 通話が一時的に保留になり、警戒な音楽が流れ出す。私達は誰も口を開かず、磐梯さんが戻るのを待った。


『もしもし、資料を取ってきました』

「ありがとうございます」

『死体に直接魔力的な物は関わっては居ませんでした。恐らく死因はニュースでも取り上げられた通りだと思います。ただ、気になるのは本人だけではなく、着ていた制服や所持品にも魔力の気配が合ったということですね』

「それはどういった時に起こるのでしょうか」

『長い間、濃い魔力の籠もった空間にいると徐々に蓄積されていきます。ここだとあの山の神社くらいしか無いと思うので不思議でしたが……』

「それでその犯人はどうなりましたか?」

『死にました。何者かに殺されて』

「刑務所の中ですよね?」

『そうです。何かに殴り殺されるように殺されていたそうです。流石に私もそこまでは見れていないので聞いただけですが』

「……そうですか。お忙しい所ありがとうございました」

『いえ、そちらのお仕事も頑張ってください。また何かありましたら連絡頂けたら対応しますので』

「ありがとうございます。では、失礼しますわ」


 八重さんは電話を切り、スマホをポケットにしまいました。やっぱり空穂ちゃんは普通の人の逆上によって殺されてしまったことが分かりました。呪いとか魔術とか超常的なことならまだ許せました。許せませんが、この会社にいる以上何とか飲み込めたと思います。でも普通の人に殺されたなら恨みや怒りが溢れてきそうになります。

 私は深く深呼吸をして、心を落ち着かせます。後ろには空穂ちゃんがいるしこれからも空穂ちゃんが居るということを心に留めて話し始めます。


「今、空穂ちゃんにかかっている呪いっていうのは空穂ちゃん自体に掛けられたものじゃなくて空穂ちゃんが長くいた場所に掛けられていたものなんじゃないでしょうか」


 服や所持品に合った魔力の気配が、呪いだとしたら。それと同じ物を制服のまま幽霊になった空穂ちゃんが纏っているとしたら。


「だから行ってみませんか?空穂ちゃんの家に」


 きっとその手がかりは空穂ちゃんの家にある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ