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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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贈り物ep3

 電車に乗って数分、2つ隣の駅で降りる。それだけで僕たちは目的地に着くとても短い旅をした。


「そういえば土暮さんって、どんな魔術師なんですか?」


「どんなってどういうこと?」


「どういう魔術を使うのかなーってことー」


 魔術師に対して自分の魔術を相手に伝えることは知識のある相手の場合は弱点を晒すことになる。召喚術の場合、召喚の媒介にするものを破壊すれば魔術の行使が出来なくなるし、僕の場合も書き込めないようにしてしまえば魔術の行使が出来ない。自分の魔術の情報を人に話さないのは勿論のこと、人の魔術のことも話してはいけないと暗黙の了解になっている。


「やっぱり魔術師の秘密ってことで言えませんよね」


「ま、土暮さんは科学者名乗ってるしいいでしょ」


 土暮さんは魔術師と会っても自分のことを科学者だと言い張る。魔術師の事が嫌いなどではなく、単純に科学で解き明かしたいから科学者を名乗っているのだ。土暮さんの意にそうなら科学者の使う魔術のため他の人に言ってもいいだろう。 

 どうせこれから土暮さんの所へ向かうわけだから先に知るか後に知るかの違いでしかない。あの場所には無数のゴーレムがいるわけだし。


「土暮さんはね。使役術を使うんだ。使役術っていうのは」


「何かを自分の魔力で動かす術でしたっけ?」


 意外にも来栖さんは使役術の事を知っていた。事務所には様々な本があり、その中にも使役術に関しては載っているはずだがそれを読み覚えていた事が意外だった。最近、そういう話は僕にはしてこないため勉強等はしていないと思っていた。


「式神とかー?ゴーレムとかだっけー?」


 来栖さんに続き空穂ちゃんまでもが理解をしていた。空穂ちゃんに至っては来栖さんが居ないと本に触ることも出来ないため一体何処で勉強したのだろうか。

 生前から知っていた可能性は限りなくゼロに近い。事務所に来たときは幽霊と妖怪の違いも知らず、アニメや漫画などの知識しか無かった。

 それが今や、僕の言ったことをすぐに理解してくれるとは嬉しい限りである。


「合ってるけど、2人ともよく知ってたね」


「最近そういうの教えてもらってるんです」


「ゲティ?」


「違うよー。調さんに色々教えてもらってるのー」


 確かに実体験を伴わない単純な知識ならば調さんのほうが僕やゲティよりも深く知っている。いざとなれば自分の魔術で無理やり解決できる僕達よりも知識と知恵でどうにかし無ければならない調さんに教えてもらうほうが彼女たちのためになる。


「それで最近一緒にいたんだ」


「それだけじゃないよー」


「ちょっと空穂ちゃんっ。内緒だって」


「あ、そうだった。ごめんごめん」


 誕生日のサプライズ計画を立てているようなやりとりだが、僕の誕生日も他の人の誕生日も近くない。そもそも空穂ちゃんの誕生日も来栖さんの誕生日も知らないし聞いたこともない。ゲティや調さんの物も僕は知らない。僕の誕生日も知らせていないため、サプライズが起こるわけがない。


 内緒にされるということは秘密にしたい理由があるということなので深くは詮索しない。女の子にはそれなりに秘密がある。海よりも深い秘密があるみたいなことをタイタニックでも言っていた。そこに調さんというスパイスが加わっているのが気になるところだが。


「ま、程々にね」


 何を程々にするかは分からないが話を切り替える。


「それよりももうすぐ着くよ。土暮さんの研究所」


「もうすぐ着くって普通の住宅街ですよ?」


 今僕たちがいるのは普通の住宅街。2階建ての一軒家や平屋が立ち並んでいる。土曜日の昼間のため、ここに来るまでにも家族連れが目に入る。暑いのにも関わらず子どもは元気で少し草臥れている大人の姿が対比として完璧だった。今の僕と女子高生ズの関係性にそっくりだ。

 顔には出さないようにしているが滅茶苦茶に暑く、今すぐにでもクーラーの部屋に入り浸りたい。しかし、大人としても社長としても女子高生に情けない姿は見せたくないため意地を張って頑張っているのだ。

 

「あそこのボロアパート見える?」


「ボロアパート?見える見えるー」


 僕の指差す先にあるのは築何十年と立っていそうな2階建ての建物。今の建築基準法における耐震が成されているかどうかも疑問なほど古く見える。手すりや階段にはサビが見られ、建物の色は変色しているが建物としてはしっかりしている。見た目がボロく見えるアパートなのだ。


「あそこの2階が土暮さんの自宅兼研究所」


「ここで研究してるんですか?広くは無さそうですけど」


「本格的な事はちゃんとした機関でやってるらしいよ。ここはゴーレムを作る魔術の研究用だね」


 話しながらサビの見える階段を登る。登るたびにギシギシと音がなっているが壊れることはないと信じたい。

 2階まで上がると部屋は数室あるが奥の方は扉に広告がたくさん詰まっているため使われていないのだろう。一番手前とその隣の部屋だけは使われているように見えるため、どちらかが土暮さんの部屋だろう。


「ここかその隣のどっちかが土暮さんの部屋のはずなんだけどね」


「来たこと無いんですか?」


「来たことはあるけど忘れちゃった」


 僕はここに来たことがあるが、土暮さんと玄関先で話しただけですぐに帰ったのだ。その時はもう二度とここで会うことは無いと思っていたのだが、自分から会いに来ることになるとは。


「どうしますかー?両方インターホン鳴らしてみますかー?」


「うーん。そうするしかないかもね」


 ここで時間を浪費しているのも無駄なので行動に移すことにした。間違えてしまったのならば謝れば良いので、まずは土暮さんに会うのが先だ。


「じゃあまずは手前の――」


「2人で何をやっているのだお前たちは」


 手前の部屋のインターホンをおそうとした時、隣の部屋の扉が開いた。中から出てきたのは白衣を纏った男性。調さんといい、研究職の人は白衣を着ていなければならない決まりでもあるのだろうか。

 扉の奥から現れた男性は土暮さんだった。


「久しぶり土塊さん」


「社長ではないか。思ったより早かったな」


「取り敢えず中に入っていい?暑いし」


「図々しい奴だなお前は。ん?階段を登ってきた音は2人分だった筈だが3人いるではないか」


「こんにちはー。私は鏑木空穂っていいますー。幽霊なので足音しないんですよー」


「こんにちは。来栖愛美です」


 空穂ちゃんの自己紹介を聞いて土塊さんの動きが止まる。空穂ちゃんは霊体であり、実体がないため歩く時も階段を登る時も足音はしない。階段の足音で僕たちが来たことに気付いていたらしい土暮さんも、見ないことには空穂ちゃんの存在を認知できなかったようだ。

 

「いや、幽霊って。また科学で証明できないものを持ってきおって……」


「魔術だってまだ解明できてないし今更でしょ」


「うるさいうるさい。兎に角3人とも入れ。ここじゃ暑くて話も出来ん」


 隣の部屋から土暮さんが出てきてくれたお陰で手前の部屋の住民に迷惑を掛けずに済んだ。通路で騒いでいては迷惑になるので早々に土暮さんの部屋に入ることにした。



 部屋の中は、リノベーションをしているらしく外観からは考えられない程度には広かった。部屋は広いだけで男の1人暮らしを表すかのように部屋の中はお世辞にも綺麗とはいえなかった。ただ、生ゴミや食品のゴミが多いのではなく研究に使う資料などが散らかっているという調さんの部屋と同じような惨状だった。


「それで依頼の話をしたいんだけど」


「話は早急にと言うやつだな。依頼の話をしようかね」


 部屋の中を少しだけ片付け、座るスペースを確保してから話を聞く体勢になる。僕と来栖さんは座布団に座り、空穂ちゃんは来栖さんの後ろからもたれ掛かるように座っている。普通の人がやったら重そうに見えるが、来栖さんは何も言わないため特に重くもないのだろう。


「よろしくお願いします」


「そうかしこまるでない。依頼の内容は――」


 土暮さんは立ち上がり、部屋の隅に置いてあった袋を持ってくる。その中身を取り出し、僕たちの目の前に置く。


「熊のぬいぐるみ……ですか?」


「汚れてるけど可愛いねー」


「これは……」


「流石に社長なら気付くか」


 この熊のぬいぐるみからは微弱だが魔力を感じる。何かの効力があるかどうか分からない程度だが。

 熊のぬいぐるみは黒いシミが付いていて綺麗とは言えず、ゴミ捨て場から持ってきたと言われても納得してしまう汚さをしていた。


「今回の依頼はな、このぬいぐるみを調べてほしいんだ」


「確かに、調べたほうがよさそうですね。微弱ながら魔力を感じますし」


 この魔力の感じはつい先日、酸塊さんからもらった段ボールの中身を整理している時に感じたものに似ている。もしかしたら熊のぬいぐるみは呪いの媒介にされている物かもしれない。


「私にも少しだけ見えます。湯気みたいに薄くですけど」


「私にも見えるー。この熊のぬいぐるみがねー」


 2人にも魔力の流れが見えているようだ。来栖さんが魔力の流れを認識できるのは神眼の影響だろう。空穂ちゃんが認識できるのは来栖さんが認識した事で繋がっている空穂ちゃんが

にも見えるようになっているというところだろうか。


 空穂ちゃんが来栖さんの側から離れ、ぬいぐるみに触ろうと手を伸ばす。


「「触らないほうがいい」」


 僕と土暮さんの声が重なり、それに驚いたのか空穂ちゃんは僕たちの方を交互に見てから来栖さんの方へ戻っていった。さっきよりもくっついており、肩から顔を出した空穂ちゃんは来栖さんに頭を撫でられていた。大型犬みたいだ。


「社長も土暮さんも何で今止めたんですか?もしかして危険なものだったり?」


「いいや。危険性は分からん。ただ、何があるか分からないから触るなと言う話だ」


「僕もそんな感じ。多分これ呪いだと思うから、空穂ちゃんが触ると良くない影響出る可能性があるからね」


 呪いは負のエネルギー。幽霊である空穂ちゃんが触ってしまって悪い方に向かってしまう可能性がある。経験がないため、空穂ちゃんには必要以上に気に掛ける必要があるのだ。

 来栖さんを守るという意思を持ち守護霊となっている空穂ちゃんだが、自分への危険性には杜撰だ。魔力が見えていて怪しいものに触ろうとするのは猪突猛進では済まされないため、後で確りと言い聞かせる必要があるだろう。


「そういうことですか。今後は気をつけようね空穂ちゃん」


「うんー……」


「話しは戻るがこの魔力は呪いなのか?」


「最近感じた魔力に近いものがあったから多分呪いだと思う。調べてみないことには分からないから一度持ち帰ってもいい?」


「私は構わんが……」


 この場では調べることが出来ないため、持ち帰って事務所で調べることにする。仮に呪いだった場合は酸塊さんに手伝ってもらう必要がある。


「じゃあ、これ持って帰るね」


 僕は守護のルーンを持っているため直接触っても問題ない。袋の中に熊のぬいぐるみを入れようとする。


「いや、最後に1つだけ説明させて貰ってもいいか?」


 仕舞おうとして伸ばした手を引っ込めて土暮さんの話を聞く態勢に戻る。「どうぞ」と土暮さんに話すことを促す。


「そのぬいぐるみが変な魔力を持っていたため調べたいのが科学者なのだ。だから、そのぬいぐるみの背中を開いて中に何か無いか調べようとしたのだ。そしたら中には赤黒い綿が詰まっていてな。その綿を調べた結果、人間の血液だった。その熊のぬいぐるみには人間の血が染み込んだ綿が詰められている」


 土暮さんの話を聞き、再度熊のぬいぐるみを見る。黒く汚れていて汚いぬいぐるみがそこには存在していた。よく見ると、黒く汚れていた部分の毛並みは悪く固まっていた。その部分を触るとパラパラと黒いものが落ちていく。

 恐らく黒く見えていた汚れは人間の血が時間経過とともに黒く見えるようになったものだろう。

 背中の方には下手くそな縫合の跡があり、土暮さんが背中を開いた後に縫合したのだ。すき間から綿が少し見えているが確かに黒ずんでおり、普通に詰められている綿とは違うことが分かった。


「何の血か分からないと気味が悪いですね」


「一応DNA検査してもらおうか考えたんだが費用がかかりすぎる。だからお前に頼もうとしたのだ」


「うちには呪物専門の人もいるから調べてみるよ」


「頼むぞ」





 土暮さんの所へ付いてから十数分で部屋から出ることになった。近いとは言え、暑い中ここまで来たのだから涼ませてもらってもいい気はするが研究の邪魔だという理由で追い出された。

 僕らが土暮さんの家を出るのと同時に土暮さんも一緒に部屋を出た。


「あれ?土暮さんも何処か行くの?」


「行くわけないだろう。こんな暑いのに。隣の部屋だ。二部屋借りて居住スペースと研究スペースに分けているのだ」


「だから魔術の道具無かったんですねー」


 隣の部屋の住民に迷惑がかかると思い大きな声を出さないようにしていた配慮は無駄だったみたいだ。確かに部屋の中には土暮さんの使う魔術の道具はほとんど見られなかった。隣の部屋にすべて置いているのだろう。


「……。お前話したのか?私の魔術のことを」


「少しだけね?ゴーレム作ってるってことくらいだけど」


「それならいいが。別にお前たちになら知られて困ることでもないしな」


 土暮さんから謎の信頼を勝ち取っている僕は昔一体何をしたのだろうか。いつも通り仕事をした程度の記憶しかない。


「土暮さんー。ゴーレム見たいですー」


「結果報告の時にでも見せてやろう」


「空穂ちゃんがすみません。ありがとうございます」


 すっかり空穂ちゃんの保護者が板についてきた来栖さんはさておき、ゴーレムというのを僕も間近で確り見たことはない。土暮さんからの依頼でゴーレムを破壊する事はあったが動いているゴーレムを見たことはないのだ。見られるならそれに越したことはなく楽しみが増える。


「それじゃこのぬいぐるみは借りてくね。調べ終わったら依頼達成ってことでよろしく」


「ああ。僅かで済まないが報酬は用意しておく。夏だし幽霊のお嬢さんは気を付けてな?」


「?どういうことですかー?」


「うん?夏と言えば幽霊だろう?」


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