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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
神と少女と魔術師と

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燃えて萌えて華開くep5

「知らないって、どういうことよ」


 振り返った舞さんは戸惑いを隠しきれないのか声が震えている。当たり前のように毎日行っていた神社。それも祖父から毎日行くようにと言われていた。そんな場所を知らないと言われたのだ。訳が分からないだろう。


「倉庫に行くのは少し待ってくれ。私も状況整理がしたい」


 部屋から出ようとしていた僕たちは先ほどと同じ席に座る。

 倉庫で離君神社について調べようと考えていたのだが散さんは離君神社のことを知らないと言う。舞さんよりもずっと昔からこの地に住んでいるというのにも関わらずだ。


「舞。まずはお前があの神社に付いて知ってることを教えてくれ」


 舞さんは真面目な雰囲気を感じだったのか背筋を伸ばし、まっすぐに散さんを見つめている。


「知ってることはそんなにないわよ。あそこが離君神社っていう名前で呼ばれてるってことと、縁切りの神社ってことぐらい?」


「中はどうなっている?」


「古くなってボロボロになった社があるくらいであとは森になってるだけ。奥に入るなっておじいちゃん言ってたでしょ」


「森の奥に入るなというのは普通だろう。あの神社だから言ったわけじゃない」


 神社の名前、そのご利益を説明したあとに中の状況も伝える。僕は舞さんが言っている事しか知らないため口を挟むことはしない。寧ろ、散さんが何も知らないことに驚いているのだ。


「舞の言っていることを私は何一つとして知らない。あの神社の名前もその御利益も聞いたことがない」


「じゃああそこはなんなの?」


 この土地にある神社を守る家系として何一つ知らないことなどありえない。それは神社に入れないからという理由だけではなく、神守として雑務は散さんがやっているため申請書類等で確認しているはずだからだ。


「私が知っているのはあの神社の名前は『はなかみ神社』。花に守ると書いて花守神社だ。それに御利益も縁切りとは別の縁結びと聞いている。花が2輪で子孫を残すように縁を結ぶと言われているそうだ」


 聞いていた話とは真逆であった。君と離れる縁切りの神社である離君神社と縁結びの花守神社。神社としての意味が反転している。もしかしたらそのせいで僕が襲われるような神になっているのかもしれない。


「華上家という名前も花守神社から取ったものだ。この地、あの神社を守る家系ということで神社の名前を先祖が名乗ったと聞いている」


「その、おばあさんはあの神社のことをなんと言っていたんです?名前とか御利益とか」


 散さんもあの神社には入れないと言っていた。しかし散さんはあの神社の真実を知っている。あの神が知っている事実と違っていることにも気づいているはずだ。

 奥さんが間違った神社の名前を言ったり、御利益を言ったりしたらそこで間違いに気づく。


「何一つ語らなかった。神との事は任せておけとそう言っておった。だから私は何も聞かなかった。あいつは昔の資料などではなく、目で見たものを信じるとそう言っていた。つまりは見えるものと見えないもので感じる神が違ったのだろう」


 実際に神社へ行くものからすれば時代を経て変化した離君神社であり、行かないものは前時代から何も変化をしていない花守神社だということだ。


 縁結びの神様を縁切りの神様とするのは神としての尊厳の否定となる行いである。神守の家系が自らそのようなことをするとは考えられない。


「舞さんは離君神社のこと誰に聞いたの?おばあさん?」


 出会った日に、離君神社の名前と縁切りの神様であることを僕は舞さんから聞いた。散さんでも知らなかったことを知っているということは誰かが舞さんに教えたのだ。それが舞さんの祖母だろうと僕は踏んだ。自分のあとを継ぐのは舞さんだと信じていたのだろう。


「おばあちゃんから聞いたわけじゃないと思う。誰に聞いたか思い出せないのよね。なんか、あの神社は縁切りの離君神社って決まっていたかのように私はそう思ってたのよ」


 その言葉に僕も散さんも絶句した。この場にいるものでも、死んでしまったおばあさんでもない、華上家以外の第三者から間違った神社の話を刷り込まれている可能性に行き着いてしまったからである。



「それでどっちが正しいの?離君神社?花守神社?」


「わからん。それも倉庫の資料を見て判断してくれ」


 想定外のことが起こっているため、考えを整理するためか舞さんからの質問に投げやりに答えている。散さんからすれば2代の神守が何者かに騙されていた事になる。または、家に伝わる書物が全て間違っているか。どちらにせよ、何が真実か分からない状態であった。


 舞さんも舞さんで結論を急ぎ過ぎである。情報が何もない状態で結論づけるのは危険だ。情報や知識を確り集めて自分の中で判断しなければならないことをもっと確り教えるべきだろう。

 ただ、それは今ではない。僕も情報が何もなく、寧ろ一から調べる必要性が産まれたのだ。今まで見てきたものや聞いてきたものがすべて違う可能性がある。


「正直僕も分からない。まずは倉庫に行って色々調べてみよう。何かヒントがあるかもしれない」


 僕のその言葉に反応するのは1人だけであった。散さんに邪険に扱われたことで若干拗ねているのか、舞さんはそそくさと部屋を出ていった。


「それでは散さん、僕も失礼しますね」


「なあ、坊主」


 唸り声のようなものを上げながら悩んでいる散さんに一言声をかけ舞さんの後を追おうとするが、制止の声を受け立ち止まる。


「なんですか?」


「あの神社いったい何だと思う?」


「さあ?僕にも分かりません。今から調べるんですから」


 分からないものを理解するために情報を集めるのだ。敢えて間違われた情報であれば意味がある。そこには歴史に残すのに不都合なことがあり改変しなければならなかったという事実があり、その背景もまた1つの情報になる。


 細かな情報1つ1つを繋ぎ合わせて結論を出すのだ。その結論が真実でなくとも、1つの結論を出すことが先に進むために必要なのだ。


「坊主が来てから色々なことが起こりすぎている。魔術師とは厄介者なのかもしれないな」


「違いますよ。僕の運命が舞さんと交じり合った、ただそれだけのことです。僕は運命を手繰り寄せる魔術師ですから」



この節、後1話

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