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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
神と少女と魔術師と

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親しき中にも呪いありep5

 カイムは問う。


「それで、私は一体何をすればいいのですか?あの悪魔と戦え、と仰るならばそれは私の仕事ではないと思いますが」


「分かってて聞いてるだろ。あそこにいる女に呪いをやめるように説得してくれ」


「呪いですか?辞めろと言って辞めるようならば最初からやっていないでしょう。それに説得は私の真に得意とすることではありません」


「それでもやれ」


「参りました。悪魔使いが荒いお方だ。悪魔使いなのにおかしなものですね」


 悪魔ジョークは分からん。


 カイムを喚起した理由はただ一つ。由美の説得だ。アンドラスと戦うというのは端から想定していない。


 悪魔というものはこの世のものではなく、ここに存在しているものですら呼び出されたもの。実態は存在しているが概念としてそこに存在しているわけではない。仮にアンドラスを消滅させたとして、悪魔としてのアンドラスが消滅するわけではないため、誰かが呼び出したり自ら出てきたりすることは出来てしまうのだ。

 

 それに悪魔の考え方を変えるというのは無理だ。アンドラスは人の不和を楽しむ悪魔であり、それに善も悪も感じずただそれが自分の楽しみだと、それだけの理由でやっているのだ。

 人間のギャンブル中毒が治らないということの酷い物だと言えば分かりやすいだろうか。


 兎に角、アンドラスは一度頭の中から外してもいいだろう。奇遇にも戦闘が得意な悪魔ではない。


『楽しそうなことになってきたね。見物だ』


 アンドラス自身もこの場で何かをする気がないらしい。


「なんなのよ……あんたたち……」


 それまで黙っていた由美が徐ろに声を出す。他の誰かがいたならばかき消されてしまうような小さな声だが、この場にいる人間は由美とゲティのみ。後は悪魔が二体。


「呪いをやるのをやめろ。お前、死ぬぞ」


「やめない。それに死なない。そこの悪魔だって死ぬなんて一言も言ってないもの!そうでしょ?」


 由美はアンドラスに問いかける。


『いや、死ぬよ?』


「え、だってみんな幸せにって」


 想定外の答えであったのだろう。目を大きく開き口を開け閉めしている。

 単純にアンドラスは『死』というものを事業としては知っているがそれが人にとってどういうものなのか分からないのだ。死ぬことは思考の放棄、思考をするから苦しむ。つまり死ぬことは幸せだと本気で思っている。


『みんな死んでみんな幸せ、それでいいじゃないか。そのために僕は君とその友達に不和を齎したんだから。誰しもそれぞれの感じる幸せは違うけど、僕の思う幸せを皆に押し付ける。その為に色々して、その結果どうなるかを見るのが楽しみなんだ』


「なに、それ」


『人間は言うだろう?"終わり良ければ全て良し"ってさ』


 言葉も発さず地面にへたり込む由美。事実、自分のやっていることは相手を不幸にする程度で"死"というものが近くに居るとは思っていなかったのだろう。殺したい、死んで欲しいと心で思っていても死というものは気が付くまでそばにいることに気付かないものだ。


「ね、ねぇ。この呪いって途中でやめられないの?死ぬのはやだ!死にたくない!」


 夜の学校に女の叫び声が響く。

 どこまでいっても自己中心的な考えのこの女には自分が死にたくないという感情だけで呪っている人物の生死などは考えてもいないだろう。

 

「始めた物を途中で終わらせられる訳無いだろ。お前が始めたんだ。お前が責任を取るしかない。呪いというものを舐めすぎた罰だ」


「でも一つだけいい方法がありますよ」


 カイムはここから相手の説得をする。私は敢えて由美に対して逃げ場がないということを提示した。呪いは始めてしまった場合、最後までやり遂げて呪いとして完成するか、失敗するかのどちらかしかない。やり遂げた場合は相手が呪われ、失敗した場合は自分が呪われる。


「いい方法って?」


「大丈夫です。貴方の先ほど言った死にたくないという望みは私が叶えましょう。その代わり、言うことを聞けますか?」


「また、何か変なことをするの……?」


「いえいえ、この呪いの完成は2日後。つまり明日はまだ大丈夫です。明日は呪いの続きをやり、最終日だけやらなければ大丈夫ですよ」


「でも途中では辞められないって」


「それは通常の場合です。私が終わらせて貴方が死ぬこともありませんよ」


「な、ならやる」


 悪魔っていうものは人のために何かをするということはない。契約者の望みを叶えることだけはするが今回の私の望みは『由美を説得してくれ』というもの。カイムはそれを成す。実際はカイムに頼む程のことではないのだが、悪魔のせいで死ぬかも知れないところに悪魔から蜘蛛の糸を垂らされたのだ。そこにしがみつくのもおかしな話ではない。


「おい、友達の女のことは良いのか?好きなやつとか」


 呪いを行う元となったのはそれが原因だったはず。それを解決しないままだとこの先も何か起こりそうだとは思うが。


「いい!もうどうでもいい!そんなことで死にたくないの」


 結局、色恋なんてものは生死には勝てないということだ。






 あの後アンドラスは興味が冷めたかのように消えていった。追ったところで意味もない為、深追いはしなかった。由美に関しては遅い時間でもあったため家まで送る。その間に交わした言葉は香織という女の住所を聞いただけであった。何か

があった時に守るためという理由で聞いたのだが、嘘はついていない。


 呪いというものはとても強い。憎悪の感情は他のどの感情にも勝る。それを一個人に向けて放つのだ。今回の場合は蓄積した呪いを相手に一気に送るものであり、その対象は無事では済まないだろう。


 私とアンドラスは、日がまだ昇る前の時間に由美から聞いた香織の家に向かうことにした。


「こういうのは苦手なんだが……。とりあえず家にバレないように貼っとくか」


 私が香織の家に貼ったのは鳥居の図を書いた紙である。鳥居は神の通り道である。この街にある神社は山上にある神社だけ。ここに鳥居があるとわかればここの神の通り道となり数日の間は神聖な場所として呪いも弾くだろう。


 呪いは完成していないとは言ったが、香織の身体には蓄積されていた。両手足についていた釘からもそれは分かる。明日、由美が香織を呪うことを行えばその呪いは跳ね返り由美の元へ向かうだろう。失敗としてこれまでの呪いの分を含めて。


「これで大丈夫か」


「無事、彼女の死にたくないという願いは叶えられそうです。死ぬ呪いの一日前でも結構強力ですが死ぬことは無いでしょう」


「まぁ、悪いことをしてるしな」


「人を呪わば穴2つと日本では言うらしいじゃないですか。釘で穴が空いた両手足と最後にお腹。穴は5つでしょうか」


 悪魔ジョークは最後まで分からなかった。





 その次の日、由美は学校の階段から落ちて両手足の骨折と内臓にダメージという大怪我で病院に運ばれたらしい。運ばれている最中『はなしとちがう』と何度も言っていたらしいが私の預かり知るところではない。


 命に別条はないと言うことなので因果応報ということで片付けようと思う。


 勿論、その話は鏑木と来栖に聞いた。住所を聞いたあとに起こったことであったため私が関わっている事は明白であり問い詰められた。

 二人は私が何らかの理由で由美に危害を加えたと思っていたようだが、それは誤解だったので誤解を解くためにも今回の事とその顛末話す。


「丑の刻参りって知ってるか?」


「呪いの藁人形のことですか?」


「由美がそれをやっててな。んで、その対象から呪い返しを食らって階段から落ちた」


「ゲティさんは何したのー?」


「本来だったら由美か、呪い相手が死んでいた。だからどっちも死なないように動いた。それだけだよ」


「それはお疲れ様でした」


「本当に参ったって感じだよ」


「丑の刻参りだけにねー」


 悪魔だけではなく幽霊ジョークもわからないらしい。いや、これは単に鏑木にジョークのセンスがないだけなのかも知れない。


 二人と話しながら社長の机を使い報告書を書く。依頼ではないが、裏世界に関わる問題に首を突っ込んだのだ。起こったことの共通理解としての報告書だ。


「それにしても社長出張中だから暇だねー」


「新潟だっけ?遠いよね」


 社長は新潟に行っているらしくお土産が楽しみだと二人は語る。社長のお土産といえばセンスが壊滅的にない。私の魔術の媒体になるからとぬいぐるみを買ってくる事があるのだが絶妙に媒体には使えないぬいぐるみを買ってくる。調のお土産も地元で酒に合うと言われている珍味だったりして毎回変な顔をして食べている。唯一、社長から何をもらっても喜ぶ呪術女だけは例外だが。


「あいつ、ちゃんと仕事してるんだろうな?」


「なんだかんだ社長さんはやってると思いますよ」


「知らず知らずのうちに厄介事に巻き込まれたりして」


 報告書が書き終わった。目の前には"ゲティ用"書かれた箱。中には依頼書が入っているが報酬や内容で目ぼしいものはない。依頼書を見ていると鏑木が近寄ってくる。足音がしない状態で近づいてこられるのにも慣れてきた。


「あれ、この依頼って」


 鏑木が保留と書かれた箱の方を指差す。その声に釣られたのか座っていた来栖が立ち上がり、保留の箱の一番上にある紙を取り出した。


「第一高校の調査?」


「第一高校ってうちの学校じゃん」


「そう言えばそうだな。ちょっと見せてみろ」


 来栖から依頼書を渡された私は内容を確認する。


「第一高校の調査の依頼で間違いないな。内容は…七不思議?」


 今時の高校で七不思議の調査をするというのは俄には信じがたい。七不思議と言われても詳しくはないがトイレの花子さん?とかだろうか。


「七不思議って『てけてけ』調べてた時になんか聞いたよね?」


「誰か言ってた気がするー。でもなんで保留なんだろ」


 確かにこの依頼が入っていたのは保留箱である。社長の思考を読むと自ずと答えが出てくる。あの男は意外と馬鹿なのだ。


「多分、成人男性二人。高校生には見えない体形の女性一人。何をどうしても学校に忍び込む何でできないだろ。仮に出来たとしてもバレた時のリスクが高すぎる。現実的に無理と判断したのだろう」


「ふーん。そっかー。依頼主とかって書いてあるの?」


 依頼書を再び確認するがいつも通り依頼主の名前は書かれていないため首を横に振る。この事務所に投函する時点で現世界で普通に生きる人間でないことだけは確かなのだが一体誰が学校の調査を依頼してきたのか見当もつかない。


「それなら、私たちがそれ解決すればいいんじゃないですか?」


「私もそれ思ってたー」


 確かに二人、いや来栖は学生で鏑木は他の人には見えないため学校には入れる。しかし、社長が保留にしたのは本当に入れないからというのが理由なのか私にはわからない。危険だから保留にしている可能性もあるのだ。


「いや、駄目だ。勝手に動くな」


 鏑木は最悪どうにでもなるだろうが来栖の方が心配である。身体は生身の人間と同じなのだ。


「ゲティさん、お願いー。なんかあったらすぐ連絡するし、ヤバそうなら絶対近づかないから」


「いや、でもな……」


 仕事の依頼を学生に任せるわけにもいかない。しかし、第一高校に私や調が入るわけにもいかない。そもそも保留無わけだからやらなくても良いのだが二人が乗り気になっているため強く断ることも出来ない。


「第一高校……。ん?第一高校って」


「どうしました?」


 第一高校という名前に引っかかりを覚えた。それは今回の丑の刻参りや来栖鏑木が通っているからではなく、聞き馴染みのある単語だったからだ。その理由が分かる。

 第一高校には魔術師が勤めている。どこにも所属していない野良の魔術師。所属を言えば学校勤務なのだが。敵でも味方でもない存在のため頼りたくは無いのだが、背に腹は代えられない。


「いや、何でもない。分かった。それじゃ明日の夜から調査を頼む。くれぐれも危険なことはしないように」


「本当ですか。ありがとうございます」


「がんばるぞー」


 二人に仕事を任せるのはこの事務所で始めてのことなのだがゲティはそれを知らない。社長同伴で調査などはしたことがあることは知っている。ただ2人だけで初めての依頼ということは知らない。またしても、社長の報連相がしっかり出来ていないため、食い違いがおこるのであった。


親しき中にも呪いあり終了

続く

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