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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
神と少女と魔術師と

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親しき中にも呪いありep3

side.空穂


 ゲティさんから由美と香織の住所を知りたいと言われた。同じ名前の人はこの学校にいるとは思うが、その2人がセットとなると人物は限られる。

 恐らく、『新田由美』と『渕本香織』だ。違うクラスのため、私には接点がないが学校内を彷徨っているとよく2人でいるところを見かける。


 私が学校内を彷徨っている龍は単純に暇だから。授業中は愛美に話しかけるわけにもいかない。それに私は授業を受けても意味がない。

 私はもう死んでいる。つまり未来はない。死んだあともこの世に残っているが、この先はないのだ。それでも愛美の、誰かの日常を守りたい。その思いから学校内を彷徨いながら裏世界との繋がりがないかを見ている。


 ゲティさんがいつもよりも真剣な声色で電話をかけてきた時には驚いた。この学校の生徒に関すること、というのが一番の理由だろう。本当だったら私もこの件に首を突っ込みたい。

 

 しかし、何となく嫌な予感がするのだ。この件に関わったら愛美が危ないと。



「職員会議をやってる最中に職員室の中で探ってみるー。多分隣のクラスの先生の机の中とか漁れば名簿入ってるでしょ」


「じゃあ、一応私は職員室の外で待ってるね」


「よろしく」


 職員室に付いた私たちは軽く打ち合わせをする。部活をする生徒以外はもう帰り、学校内が静けさに包まれた頃、先生たちは別室で職員会議をしている。そのため職員室は蛻の殻。調べるならこのタイミングしかないのだ。


「えっと隣のクラスの先生の机は……。」


 職員室に来るのに慣れている訳もなく、隣のクラスの先生の机が分からない。机を一つ一つ確認していくと、机の上に家族写真を見つける。そこに写っていたのは隣のクラスの先生と奥さん、それに小さな女の子だった。


「多分、この机だと思うけど」


 家族写真を見た時、自分の家族のことを思い出した。今でこそ、両親は自宅に戻って生活しているが一度は私のせいで家から離れてしまった。偶に顔を見る為に戻るが両親の顔は、私が生前見たことのないような窶れた表情をしていた。

 家族を壊してしまうのも、壊してしまったのも私。


 一度社長に『お母さんとお父さんに幽霊になってるって教えてあげたい。愛美を通せばできるし』と相談したことがある。

 手紙の代筆でも、目の前で会話するでもなんでもいい。ただ私が死んだあとも幸せだと伝えられればそれでよかった。

 

『いや、止めたほうがいい。まず君は死んでるんだよ?死んでる人が目の前にいる、元気でやってるって言われてもどうしようも無いでしょ。今まで育てた我が子が死んで、もう未来もない。更には幽霊になっている。それを態々伝えるってことは両親にとって救いじゃない、もはやそれは呪いだよ』


 社長はそんなことを言った。確かに厳しい言葉だった。でも、私は自分自身の甘さも感じたのだ。私は死んでいる、だからこそ生前関わっていた現世界の人と関わるべきではないのだ。


 変な考えに思考を割いていたことに気付き、今やるべきことを思い出す。職員会議が終わる前にやり終えないといけない。


「あれ、名簿ってどこだろう」


 引き出しにも、机の上にある棚にも名簿らしき物は無かった。学校にあるものには何故か触れられるので、先生の机を漁った。今、人が見たら一人でに資料やファイルが浮いているように見えるだろう。


 必死になり、私は探した。


「んー、新田由美さんの家ってどこだろう?早く、ゲティさんに伝えなきゃいけないのにー」


 必死になりすぎて、職員室に一人の先生が戻ってきていることに気が付かなかった。実際、気が付いた所で私の姿は見えていないはずなので大丈夫だが、ファイルや資料を探しているためポルターガイストのように見えてしまうかもしれなかった。


 入ってきた先生は私に背を向けている。今のうちに机の中に資料等を片付ける。


「新田由美さんの家に電話掛けなきゃいけませんねぇ……、住所と電話番号の入ったファイルは……。ありました」


 確か、この先生は保健室で養護教諭をやってる……。名前は忘れちゃったけど保健室の先生。何度かお世話になっている。

 

 奇遇にもその先生が新田さんの家に電話をかけるらしく名簿を開いていた。先生の机から見つからないのは、単純に名簿等は鍵のかけられた棚の中に保管されているからだった。

 プライバシー保護は大切なのであった。


「失礼しまーす」


 聞こえないだろうが、一応一言かけてから先生の近くに寄り新田さんの住所を覚える。うちの家からほど近い住所だったため覚えやすく、恐らくその場所も分かった。


「よし、コレでミッションコンプリート。先生が外に出るタイミングで一緒に出ればオッケーだね」


 その発言から程なくして、先生は職員室から出ていった。職員室の前に愛美が居るため、職員室の扉を開けっ放しにて会話をしていたので私が職員室の扉を開け閉めするところを見られずに済んだ。


 先生が立ち去り、やっと愛美と話せる。


「住所分かったよ。ミッションコンプリートだねー」


「先生、大丈夫だった?」


「大丈夫だよー。私のこと見えないだろうし」


 私が中にいる最中に先生が入ったことに気付いていた愛美は私のことを心配してくれている。多分、ポルターガイスト的な物を驚かれなかったか心配しているのだろうが偶然に偶然が重なりバレることはなかった。


 愛美は何とも言えない顔で私の方を見て微笑むのだった。


「そう言えばどうやって住所見つけたの?」



side愛美


 空穂ちゃんが職員室に入ってすぐ、先生の一人が職員室にやってきました。


「貴方は、来栖さんですねぇ。今日は一人で何を?」


「えっと、私は友達を待ってて……」


 この人は保健室の明日空あすく先生。今は職員会議の最中のはずですが何故ここにいるのでしょうか。それに、今中には空穂ちゃんがいます。人に入られるのはまずいです。


「そうですかぁ。そう言えば来栖さん」


「な、なんですか?」


「その目、大丈夫ですかぁ?」


 私の目はには、一ヶ月程度眼帯がつけられている。周囲の人には光を見るとまずい病気にかかってしまい治るまで眼帯を付けなければならないと説明してあります。お母さんにはバイトの説明の時に社長が何かを伝えてくれたみたいです。

 関係のない人間を納得させるのに、一体何を言ったのか気になるが触れないでくれるお母さんのことを考えるとそこを追求することはできません。


 何故かこの目のことを心配する明日空先生。


「いや、保健医としてですよぉ。大丈夫かなって」


「大丈夫です。ありがとうございます」


 明日空先生は保健医として心配している、風を装っているが私には分かります。一度、目が裏世界と繋がってしまった私にはそれに関することが見えてしまうことがあるのです。

 それこそ空穂ちゃんが近くにいない時などは、霊のようなものも見えてしまいます。


 裏世界のものに導かれるように私には裏世界のものが見えてしまうのです。


 そして今、空穂ちゃんが私から離れています。この先生は独特の雰囲気を纏っています。社長やゲティさんのような雰囲気。恐らく、お二方が言っていた魔力というものでしょう。

 今まで、この先生を空穂ちゃんがいない時に見かけることはありませんでした。なので気付かなかったのです。


 恐らく、この先生は魔術師。空穂ちゃんが、中にいるこの状況で職員室に入れてはならないのでは無いでしょうか。


「それはよかった。その目、見えるようになるといいですねぇ。それでは失礼」


「あ、あの」


「なんですか?」


 入れてはいけないという一心で内容も無いまま引き留めてしまった。必死に何かないか絞り出します。


「えっと、死んだ人ってどうなると思いますか?」


 よりにもよってとんでもない質問をしてしまいました。変な宗教にハマっていると思われてもおかしくはありません。科学的なことでもスピリチュアル的なことでもなんでもいいので早く答えて欲しいです。


「ふふ、ご友人に聞いてみたら早いんじゃないですかぁ?それでは」


 明日空先生はそう言って職員室の中に入っていきます。明日空先生からの返答に私は固まりました。死んだ人はどうなるかなど友達に聞けない、そんな事をしたら変な人に見られるか悩んでいると思われてしまいます。

 では何故、明日空先生はそう言ったのかを考えると自ずと答えは出てきます。纏っている雰囲気も加味して。


 恐らく、明日空先生は空穂ちゃんが見えています。それが分かったところで今の私には何もできません。まだ見えている、という確証があるわけでは無いのです。

 そのため、職員室に飛び入る事もできません。何の理由があって、一生徒が無人の職員室に用事があるのでしょう。下手をすれば、泥棒やテストの答案を見るなど指導を受けるようなことに発展する可能性があります。

 学生と言う立場が私の枷になり、その場から動くことができませんでした。





 数分後、明日空先生は職員室から出てきました。


「明日空先生、中に誰か人居ましたか?物音が結構してましたけど」


 私は先生にカマをかけます。空穂ちゃんは自分が見えないからと、外に少し聞こえる声量で『新田由美の家どこー?』と叫んでいました。普通は聞こえないので問題ないですが、明日空先生は空穂ちゃんが見えている疑惑があります。


 因みに物音はしませんでした。閉じられた部屋の外まで聞こえる物音は相当なもの。流石に探し物をするだけではそのような音は鳴りません。


「人、ですかぁ?今は職員会議中ですよぉ。"人"はいませんでしたよ」


 この喋り方、社長さんにとても似ています。あえて直接的な言い方を避け、回りくどい回答をする。社長曰く、『嘘は言わない。でも全部も言わない』喋り方だそうです。


 それに"人"という言葉を強調したようにも聞こえました。今の空穂ちゃんは人じゃない。


 開いたままだった扉から空穂ちゃんが出てきた。


「それでは私は失礼します。お二人とも気をつけて帰ってください」


 私が気づいたことに気づいているようです。態々、お二人といいました。私は友達を待っているとしか言っていないため、その数が何人かは先生には分からないはずです。それでも二人といいました。恐らく分かった上で言ったのでしょう。


 先生が去っていき、姿が見えなくなると空穂ちゃんは話しかけてきます。


「住所分かったよ。ミッションコンプリートだねー」


「先生、大丈夫だった?」


「大丈夫だよー。私のこと見えないだろうし」


 一応、入っていった明日空先生に何かアクションを起こされていないか確認しますが、空穂ちゃんは見えていないと返してきました。本人がそう思うということは直接のアクションは取られていないということでしょう。


「そう言えばどうやって住所見つけたの?」


「入ってきた先生が偶々、新田由美の家に電話かけるところだったらしくてさー。名簿開いたまま電話かけてたから住所盗み見たー」


 そんな偶然が起こる可能性は限りなく低いだろう。恐らく、外に聞こえるような声で探していた新田由美さんの住所を敢えて明日空先生が空穂ちゃんに教えたということになります。

 何故そんなことをするのか、何故ここに来たのか、疑問は絶えません。


 その事は一先ず置いておくことにします。この学校の養護教諭をしているのです。何か気になることがあれば直接行けばいいし、今のところ危害を加えてくる様子もありません。

 先にやらなければならないことをしましょう。


 スマホを取り出しアドレス帳を開きます。ゲティさんはメッセージアプリ等を使わないそうなので、アドレス帳から電話を掛けるのは初めてだったりします。

 ゲティさんに電話を掛け、住所が分かったことを伝えます。隣の空穂ちゃんが言う通りに説明をします。電話越しでは空穂ちゃんの声が聞こえていないようですし。


 伝えることだけ伝えて私は電話を切りました。空穂ちゃんが自分から首を突っ込もうとしないと言うことはそういうことをしないほうが私のためなのでしょう。


「それじゃ帰ろうか」


「帰ろー」


 非常に癪ですが、明日空先生の言う通りに2人で気をつけて帰ることにしました。



――――――――――――――――――――――

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 作者です。読んでいただきありがとうございました。

 次の話もお楽しみに!

 

Xやってます(@penguins0detour)

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