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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
神と少女と魔術師と

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親しき中にも呪いありep2

 

 店を閉めに行ったら相談者の友達の手足に大きな釘が刺さっていた。

 客である由美と呼ばれた女子高生は呪いをしている、ウァサゴはそう言っていた。釘で連想される一番分かりやすい呪いが日本にはある。


 丑の刻参り。白装束で頭に蝋燭を括り付け、呪いたい対象に見立てた藁人形を釘で打つ。それを夜の1時から3時、つまりは丑の刻に行うことから名がつけられた呪い。

 1時の方角が丑、2時の方角が寅であり鬼門と呼ばれている。日本の鬼が角が生え虎柄のパンツをはいているイメージ図があるのはこのためだ。


 藁人形に釘を打つというのは陰陽師が行っていた祈祷の行為であり、元々は呪いのものではなかった。丑の刻参りのもとの話とされる宇治の橋姫でも、格好こそ今の伝承通りであれど藁人形も釘も出ては来ない。


 しかし、人の噂やイメージによって呪いや怪異というものは変化していくのだ。藁人形と釘が呪いの代名詞になっている今、その2つの存在が呪いを示していると言っても過言ではないだろう。


「でも、釘が見えたのと呪いを掛けているっていうだけの情報で決めつけんのもな。そこんとこ、私は詳しくないし」


 店の施錠を終えた私はウァサゴを送還する。ウァサゴは『お気をつけて』喚起したたままでもいいのだが、何となく落ち着かないのだ。魔力を使い続けるということはない。私が魔力を使うのは喚起するために魔法陣に魔力を流すときだけで出てきてからは使わない。

 喚起すると、悪魔と肉体がリンクしてしまい変なものが見えてしまうから帰す側面もある。現にウァサゴを返せずに戸締まりをしたら人の手足に釘が刺さっている状況に出会ってしまった。


「放置もできないし、調に聞きに行くか」


 私もこういう事に積極的に関わりたくはないが、実際に見てしまったため何もしないというのは夢見が悪い。社長は『実害ないし、頼まれた訳でもない。それに知り合いでもないでしょ?放っておけば?』とか普通に言いそうだ。

 

 あの社長は掴めない。人を助けたと思えば、簡単に人を突き放したような言動や行動をする。良くも悪くも、執着心がないのだ。鏑木や来栖のことを面倒見ているのは知っているし、何かに巻き込まれたら助けるだろう。ただ自分の知らないところで被害に遭ったりしたら『残念だね』で終わりそうな、そんな雰囲気をしている。

 

 変な意味じゃなく、私は社長に執着を持たれたい。あいつだって人間なのだ。人の存在なくして自分という個は成り立たない。年長者として心配している。





 事務所に向かうも、そこに調は居なかった。勿論、その後調の部屋にも行ったが蛻の殻。無駄足を踏んでしまった事による精神的疲労もあり、事務所のソファで休むことにした。


 鏑木と来栖は、社長であるあいつが出張に行ってからあまり姿をみていない。最近は社長が鏑木に何かの魔術を施して魔力のある人間には姿が見えるようにしたお陰で、私にも認識ができるようになった。


 その二人は事務所に来ていないため、事務所は伽藍堂としていた。

 事務所の中をみても荷解きされていない段ボールの他には壁掛けのタロットカードや、鏑木が書いた文字、その他は事務的な物しかない。



プルルルルルル



 事務所の電話が鳴る。静まった事務所にいきなりの着信音でびっくりした。出るかどうか迷ったが何かあったら社長のせいにすればいいと思い、電話に出ることにした。


「もしもし、こちら何でも屋サークルです」


『社長っ。……じゃない?ゲティさんですか』


 電話口から溌剌とした元気な声が聞こえたかと思ったら、急にトーンダウンし感情のない声になる。声だけで私だと分かる人間かつ、この事務所の電話番号を知っている女は数少ない。その中でも喋り方、というか喋る相手によって態度が変わる人は一人しかいない。


「あ?お前、八重か?」


『はい。酸塊八重すぐりやえです』


 今この場にいない、残り一人の社員『酸塊八重すぐりやえ』である。

 

『社長がいないなら用はありませんわ。ありがとうございました』


 足早に電話を切ろうとする八重。この女は社長と話す時とその他の人と話すときで態度が丸っ切り違うのだ。調など、適当にあしらわれたり蔑まれたりしているため、八重のことを怖がっている節まである。


 八重は呪術を使う魔術師だ。正確には呪物と呼ばれる物を収集し、それを封印して自分で使えるように改造する呪物師と自分では言っている。


「ちょっとまってくれ、一つだけ相談いいか?」


『はい』


 態度が悪いとかではなく、単純に興味が少ないのは長く過ごしてきたから分かる。別にこちらの事を嫌いというわけではなく、無関心でもない。相談事があればしてくるし、こちらの相談事も聞いてくれる。かなりドライなビジネスライクという言葉が適しているだろう。


「今日、うちに来た客で呪いをやっている奴がいる。その近くに手足に釘の刺さった奴がいた。これなんだと思う?」


『断定はできませんが十中八九、丑の刻参りの真似事でしょう』


「真似事?どういうことだ?」


 私からすれば、丑の刻参りは呪いであってそれを真似ても相手を呪えるとは思わない。


『今の時代、神社でそんなことをやったらどうなると思いますか?まず営業時間外の神社に入ったら住居不法侵入。木に藁人形を打ち付けたら器物破損。呪った等を相手に言って、相手が心理的ダメージを負ったりしても傷害罪になります』


 呪いをやったからと言って罪になるわけではない。証拠不十分のため起訴もできないだろう。

 しかし、それは呪いをかけるという行動だけである。それ以外の部分ではしっかりと犯罪になる。


『そもそも街の神社は山の上にあるものだけです。態々、山を登ってやるとも考えにくい。それにあの山は神聖なもの。呪いなど発生すらできないでしょう』

 

 あの山には龍穴のようなものがあって神聖な力が溜まっており、そこから川のようにこの街に龍脈が流れている。神聖なものはそこに悪しきものが現れるだけで浄化してしまうのだ。

 呪いとは邪悪なもの。しっかりと手入れされ、信仰を集めている神社ならば悪しき物は立ち入れない。


「そうか、分かった。こっちでも色々やってみる」


『呪いには原因があります。その原因を取っ払うのが一番いいと思いますよ』


「ありがとな」


 原因を取っ払うと言っても、あの女子高生を殺すわけにもいかない。私は悪魔を使う魔術師だが記憶の中では人を殺したことなどない。

 悪魔が人を殺した事はあるかもしれないが、それは私の契約でも私の意思でもない。


 そうなると、先ほどの女子高生が実際に呪いを行っているところを止めるというのが一番いいだろう。

 占いの中で『数日前から色々やっている』と言っていた。その時は好きな人へのアプローチだと思っていたが、あれは恐らく呪いをかけることを数日前からやっているということだろう。


 呪いは思いだ。大きな負の感情。毎日相手を呪うことで徐々に大きくなっていく。

 一つ目の予測だが、あの女子高生は家ではない何処かで呪いを行っているはずだ。見た目は普通の女子高生で学校にも通っている、家には親もいるだろう。親のいるところで呪いなど普通の感覚ではできない。そもそも、普通の感覚では呪いなどは行わないのだが。

 二つ目の予測は、恐らく毎日やっているということ。いつ、想い人と親友が結ばれるか分からない。その焦りから毎日行っていると考えるのは容易い。


「そうなれば、まずは由美とかいう女子高生の家を張る必要があるな。どうやって家を探るか」


 社長がいれば頼めばいいが今はいない。


 



『もしもし』


「ゲティだ。今少しいいか?来栖」


 女子高生のことだ。分からない事は女子高生に聞けばいい。私は来栖に電話をかけることにした。以前、同じ事務所に所属していて何かあったら、困るからと電話番号を交換していた。メッセージアプリというものはよく分からないため電話番号だけ。

 その時、鏑木が『おばあちゃん?』って言っていたので締めたかった。認識できる今、触れることはできるが鏑木はもう死んでいるため何をしても意味がないと思い溜飲を下げた。

 

 この事務所で最年長とは言え、おばあちゃんはない。そんな年齢ではない。見た目で損をしているが女子高生のコイツらとは一回り程度違うのだ。尊敬の念を感じない。

 

 それが良いのか悪いのか、電話をすると友人のように会話をすることができる。


『大丈夫ですよ。ゲティさんから電話』


 電話口には鏑木もいるみたいだが、流石に声は聞こえない。電話でも声を聞かせてくる霊も居るらしいが鏑木はそこまでの強さを持った霊ではないみたいだ。


「お前、高校二年だったよな?」 


『そうですよ』


「同じ学年に由美って名前のやつと香織って名前のやついるか?」


『空穂ちゃん曰くいるらしいです。同じクラスじゃなくて隣のクラスですって』


 やはり同じ高校だったか。制服に見覚えがあると思った。あの女子高生は、自己紹介で高校二年と言っていた。


「由美ってやつの住所とか分かったりするか?ちょっと裏世界絡みの面倒事に巻き込まれそうでな」


 事実は伏せて目的だけを伝える。電話越しに『空穂ちゃんどう?できる?』など二人で相談している声が聞こえる。プライバシー保護の観点から、今の学校で住所を聞くというのは不可能に近いだろう。

 休みの生徒とかそういうことでもなければ態々家に行く必要もない。


『空穂ちゃんが職員室忍び込むって言ってます。職員会議の時間なら行けるかもって』


「悪いな。何か分かったら教えてくれ。無理でもこっちで何とかするから無茶はするなよ」


 私はそう言って電話を切った。とりあえず一歩進展したが、確実に住所が分かるわけではない。最悪の場合は悪魔を喚起して居場所を調べる他ない。悪魔は悪魔であり、人とは違う。私は悪魔を喚起できるが仲良くしたいとは思っていない。私は人間の思考のままでいたいのだ。

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