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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
神と少女と魔術師と

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通り入るep1

2章始まりです。伏線バリバリに張ってますのでよろしくお願いします。

 僕は『何でも屋サークル』、裏世界では『魔術師会社サークル』と呼ばれる会社を運営している社長だ。うちの会社には、複数の魔術師が所属しており、依頼を受けて仕事をしている。依頼と言っても現世界、一般の人から受けるものではなく裏世界の住人からのものだけだ。受ける仕事の内容は裏世界のものだけだから事務所を作るにあたって建物を借りなければならない。そのため、表向きには『何でも屋』を銘打って仕事をしている。

 

 今回の僕の仕事は、僕の魔術の先生の昔馴染みから名指しの依頼。依頼内容は『後継ぎを見てほしい』と一言書かれているだけだった。本来ならそのような仕事は受けないだろうが、僕は仕事柄一言しかない依頼は沢山受けている。依頼書として形に残るもので仕事を受けている為、どこから情報が漏れるか分からない。そのため依頼者は依頼書に事細かな情報を書くことが少ない。全容が見えないので依頼の判断に困ることも多々ある。それでも依頼者の名前を見れば大体分かる。案外狭い世界なのだ。


 僕は今、新潟県T市に来ている。依頼人から指定された場所へ向かうためだ。新幹線を使ってここまで来た。新潟県というのは日本で一番神社が多い県として知られている。神社合祀政策を受けなかった為、多いままと言われている。明治時代、複数の祭神を一つの神社にまとめるなどして、神社の数を減らす政策が取られた。その結果、全国から神社自体の数は減ったが新潟県ではその政策の影響をあまり受けなかったという。

 

 それに新潟県はお米が有名である。米農家が多いのは新田開発が行われたからで、作物を作る時に五穀豊穣を願い集落ごとに神社が作られた。

 

 そのことから新潟県には今なお、神社が多いとされている。

 祀られている神が、自分のテリトリーを確りと持ち、他の神と被るようなことが少ないため、それぞれの場所が不純なものが無く守られている土地であった。


「この家かな」


 新幹線で来たとは言え、二時間程度座りっぱなしなのも疲れる。普段の仕事でも座りっぱなしのことはあるが手持ち無沙汰な二時間は何時もより長く感じられた。

 

 それに駅から降り立ったあと、バスに乗ってここまで来た。バスを降りた場所は賑わっていた。しかし目的の場所へ向かうにつれ、人通りは少なくなることと比例するように自然が多くなっていった。分かれ道もあるが、直線でそのまま歩いていくと、日本風の家が一軒出てきた。目的地はここだろう。表札を確認すると、今回の依頼人と同じ名字が掲げられていた。


 家の外見に似つかわしくない電子チャイムを鳴らす。数秒待った後、『はい』と若い女性の声がチャイムから響いた。


「すみません、華上さんのお宅で間違いありせんか?」


『そうですが』


「私は『何でも屋サークル』から来ました。華上散(はなかみちらし)さんに呼ばれて来たのですが」


『はぁ…。確認しますね』


 華上と書かれた表札。電気を通す電柱など生活に必要な最低限のもの以外は殆どない。現代人が暮らすには不便そうだなと感じる。スマホを確認すれば一応電波は入っているが、電波がいいとは言えない。スマホには誰からの通知も入っておらず、そのまま電源ボタンを押してポケットに入れておく。

 

 玄関の置くから誰かが歩いてくる足音がした。足音の主は、玄関に近付くと鍵を開け引き戸を開けた。


「おう、よく来たな坊主。まあ、上がれや」


 中から出てきたのは白髪を綺麗に整えた老人。老人とは言うものの、六十歳前後だろうか。背筋は伸びており、身長は僕よりも高い。顔には皺があるがまだまだ現役と言えるような風体だった。

 僕は言われるがまま『お邪魔します』と言い、家の中に入っていった。


 外観からは想像できない程、中は綺麗で昔の古民家の趣を残したままリノベーションしたと言われても信じてしまいそうだった。長い廊下を歩いていると、花瓶が置かれていてその中には花が刺さっている。


「花だけは毎日変えるようにしてんだ」


「そうなんですね」


「坊主には分かると思うが、ルーティーンというのか。そういう物は私たちにとって大切なものだろ?」


「安易に分かりますとは言えないですが、言いたいことは伝わります」


 話をしながら廊下の突き当たりにある部屋の前へ行く。

 

 老人がその扉を開けると中には一人の少女がいた。緊張した面持ちで僕の方を見て軽く会釈をする。僕も、声は出さず軽く会釈をして返した。外見から空穂ちゃんや来栖さんと同い年くらいに見えるから高校生かもしれない。こんなところから高校に通うのは大変だろう。

 

 老人に促されるまま、その部屋にあった椅子に着席。僕が着席したことを確認した老人も着席をした。長テーブルに対面して座る僕と老人。老人の横には少女がいる。特殊な面接のようだ。


「まずは自己紹介からだ。遠路はるばるご苦労だった。私は華上散(はなかみちらし)。こっちが」


華上舞(はなかみまい)


 ぶっきらぼうに答える少女、舞さん。


「お呼びいただきありがとうございます。僕は『何でも屋サークル』社長をしている、」


 僕も二人にならって自己紹介をする。すると、自己紹介の途中にも関わらず散さんは僕の言葉を止めた。


「ちょっと待った。坊主の名前はいい。名前、大事なんだろ」


 僕は普通に名前を言おうとしたが、名前を伝えることに対して忌避感がないわけではない。それは今までそうしてきたからというだけのことだが、名前を伝えることが少なくなっている今、名前を伝えることのほうが違和感があるのだ。

 散さんは先生の友人、僕のことも知っているようだ。どこで聞いたのだろうか。


「お言葉に甘えまして。では好きなようにお呼びください。社長でも坊主でも何でもいいですよ」


 名前の紹介はしなくていいと言われたので甘えることにした。それでも、二人からの呼び方が定まらないと会話をしていくのが大変だろう。先程から散さんが僕のことを呼ぶ『坊主』という呼び名と、何時も呼ばれている呼び名を例に出して選択肢を提示した。舞さんはまだ緊張で硬くなっている。このあと会話をするにもユーモアを交えて仲良くなろう。


「名前の文字をとって『あっくん』と呼んでくれても」


「は?キモ」


 キモって。僕は自分の名字の最初の文字から渾名を適当に付けて呼んでもいいと言っただけなのに。空穂ちゃんや来栖さんなら『何ですかあっくんって』と笑って流してくれるだろう。

 もしかして二人が特別優しいのか、はたまた心のなかでは舞さんと同じように気持ち悪がっているのか。考えるとショックを受けそうだから、その思考はここでやめた。二度と考えないようにしたい。


「それでご依頼の件なのですが」


 自己紹介から軽く話がそれてしまったので依頼のすり合わせを行う。僕のところに来た『後継ぎをみてほしい』という依頼がどのようなものなのか全容がつかめないからだ。まず、間違いなくこの場に同席しているということは舞さんが跡取りだろう。


「そうかしこまらなくていい。もっとフランクに行こうや」


 先生の友人とは言えこちらは仕事としてきているため、礼節を持って対応していたが堅苦しく感じられてしまったようだ。散さんはこう言っているが、最低限の礼儀は無くしてはならない。ここで急にタメ口で話したりしたら依頼相手として判断されなくなるだろう。


「適度にそうさせてもらいますね。後継ぎを見てほしいとのことですがもしかしてそちらの」


「ああ、舞を少し見てやってほしい。此方で話は通してある。私も長くはない、というよりも舞のほうがこの先が長い。早いうちにこの仕事ができるかどうかを判断したい。出来ないのならば、出来ないなりに普通の人生も歩めるからな」


 後継ぎを見るというのは言葉通りの視認するということではなく、後継ぎとしての裁量を図るという意味だった。魔術師にとって魔術の継承は技術の伝承であるが華上家は伝統の継承。その伝統を継承するに値するかを見極めてほしいと散さんは言っている。


「おじいちゃん!私、ちゃんと継ぐって言ってるじゃん」


 僕らの会話に入り込んでくる舞さん。散さんの言葉に口を出さずには居られなかったのだろう。散さんは舞さんに裏世界へは来て欲しくないような言い振りをしている。舞さんは、祖父の後を継ごうと決めているようだ。二人はその折り合いがまだついていないらしい。正直なところ、そのような身内の話は済ませてから呼んでほしかった。


「分かりました。では数日の間、お世話になります」


 このまま会話をさせてしまっては、僕を置いて二人で話してしまうのを察した僕は会話を切る。ここにいる数日の間は華上家に泊まっていいらしい。思ったより街から離れた辺鄙な場所だったため、その申し出はうれしかった。街でホテルに泊まってここまで来るのも大変だ。

 

 僕が会話を切り、話をまとめたことに舞さんは怒ったのかこちらを睨みつけてくる。


「この胡散臭い人に頼むの?なんか魔術師って言ってたけど詐欺師でしょ。私は信用しないから」


 胡散くさい人と言われたのは初めてだった。僕が今まで関わってきた裏世界の人は皆胡散臭かった。それを反面教師にして、表向きでは人には真摯に対応していた。僕が胡散臭いと感じていた魔術師たちと同じように扱われてしまったことが若干ショックだった。

 

 ショックを受け呆けている僕の横を舞さんが足音を立てて移動していき、遂には部屋の外に出ていってしまった。玄関の戸が開く音がしたため、外に出ていってしまったのだろう


「すまんな、舞にはちゃんと説明したんだが……」


「いえ、魔術師と言われてもあの反応が正しいかと」


 もしかしたら彼女には僕が魔術師というのが正しく伝わっていないかもしれなかった。いきなり『魔術師の人がこれから来てお祖父ちゃんのお願いを聞いてくれるから』と言われたらどう思うだろうか。殆どの人が詐欺を疑うだろう。ただそれは一般人の話。今後、裏世界に関わろうとする人が、魔術師を知らないなどということは許されない。


「いや、仕事柄、魔の世界のものと触れ合う機会も多い。当然、舞も見えるし触れられる。一般の世界とは違うものが存在すると言う説明をして、自分たちのほかにもそういう人がいると、昔から言っているのだ。勿論、魔術師の存在もな」


 つまり、舞さんはわかった上でああいう物言いをしたということになる。そして、舞さんは分かっているのだ。魔のものと呼ばれている裏世界の存在と、それに関わる裏世界の人のことも。完全に裏世界に足を踏み入れていた。


「ドルの弟子よ。私の本当の依頼は舞を一人前にする一助になってほしいということだ。私が、いや私以外であっても、何があろうともあの子は私の後を継ごうとする。危険な世界に入ろうとする。その時に自分で対処できるようにしてあげたいのだ」


 ドルとは僕の先生の呼び名。僕は先生と呼んでいるので本名は知らない。僕が名前を言わないように、先生も名前を言うことはない。先生の場合は『この名前、僕の魔術の開祖とも言われる人の名前をそのままつけられてるんだ。でも、完全に名前負けしててね』という理由で言わないだけだった。


「その依頼、承りました。先生の名にかけまして、精一杯やらせていただきます」


 一旦、散さんからの依頼を了承する。舞さんを一人前にすることは僕にはできない。華上家の継承するものを知らないから。しかし、裏世界に携わるものとして少しだけ歩き方を教えることができる。散さんの依頼は、『舞さんを裏世界に確りと関わらせる』という物が本当の依頼だろう。


「よろしくな」


「とりあえず、舞さんと仲良くなるために追いかけますね」


 兎にも角にも、舞さんに関わらないことには始まらない。いつもの裏世界絡みの厄介事は解決をするという単純なゴールがある。しかし、人間関係にはゴールがない。良くなることもあれば悪くなることもあり、変化していくものなのだ。

 

 ここで舞さんを探しに行かないと溝ができたままになってしまう。僕は持ってきたカバンから一枚の紙をだす。そこに魔力ペンで『ᚨ(アンサズ)』の文字を書いていく。向かいにいた調さんは『ほぅ……』と興味深そうにこちらを見ているが、自分の魔術について語るつもりはない。

 

 『ᚨ(アンサズ)』の意味は言葉や伝達。分かりやすく言うならばコミュニケーションの意味を持っている。まず、舞さんと円滑にコミュニケーションを取る必要がある。言霊ではないが言葉に意味を乗せて相手に伝えることができるため、相手に自分の思いを伝えやすくなる。そうして相手と会話をする、コミュニケーションをとるという運命を手繰り寄せるのだ。


「苦労をかける。多分舞は近くの神社にいると思う」


 近くの神社。たしかここに来る途中に道があったような気がする。恐らくその先に神社はあるのだろう。

 僕は立ち上がり、散さんの元をあとにした。目指すは神社、舞さんのいる元へ。



――――――――――――――――――――――

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 作者です。読んでいただきありがとうございました。

 次の話もお楽しみに!

 

Xやってます(@penguins0detour)

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