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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
魔術師が依頼受け付けます

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あくまで占いep5

「それで今回の事の顛末を話してくださいよー」

「私も気になります」


 本日、この事務所に来ているのは二人。ゲティは昨日の一件で疲れたのか占い業務も休みにして休息を取っている。さすがに一日に二体も悪魔を召喚するのは大層疲れたらしい。昨日も事務所に二人になった瞬間『頭いてえ。帰るわ。あとよろしく』と言って帰っていった。僕もそんな状態のゲティは初めて見たので引き止めることはなかった。その場に残った車椅子は事務所の外に適当に置いてある。そのうち然るべき業者に渡すかどうにかしようと考えている。


「『てけてけ』のこと?ちゃんと解決したよ」





「顕現せよ、29軍団を率いる侯爵よ。我が名に於いて命じる――」


 ゲティのその詠唱のあと、その悪魔はウァサゴと同じようにワニのぬいぐるみから出てきた。ワニのぬいぐるみから出てきたたのは大きなサメの悪魔。サメの形をしている、ゲティの使う悪魔は一体しかいない。


「よお、『フォルネウス』」


 29軍団を率いる序列30番の侯爵フォルネウス。サメの姿をとる悪魔として、弁論や知識を授けると言われている。ただ敵を倒す悪魔というよりは相手に友好的な感情を抱かせるという悪魔だったはずだ。


「我が主よ。久しいな。なに、呼ばれるという事が久しぶりでな。そう、久しぶりなのだ。我を使役しているのはお前だけではないがそれでも淋しいではないか。そのような感情は持ち合わせては居らぬが。それよりも息災か?小さき我が主よ。召喚されるとき、別の悪魔の魔力を感じたが同じものを媒体にして呼び出すのをやめろと何度も言っているだろう。初めて言ったが。そしてそこのお前、男の方だ。我が主の友だろう?世話になっているな。世話をしているのか?我が主のこと、どちらにせよ今後ともよろしく頼むぞ」

「相変わらずよくしゃべるな、お前」


 流石は弁論の悪魔、とでもいうようによくしゃべる。サメが喋っているというのは違和感を感じるかもしれないが、口が開いて喋っているわけではなく空気を震わせて音で言いたいことが伝わってくる感覚といえば分かりやすいだろうか。こちらに友好的な態度で近づいてくる存在に対して、なぜだか友好的に感じてしまう。もしかしたらこれがフォルネウスの力なのかもしれない。


「『フォルネウス』、あいつを食えるか」


 ゲティは『てけてけ』を指さす。この間も『てけてけ』は何も言わずにじっとしていた。流石に指を刺された時には少し反応が見えたが、それもすぐになくなり動かなくなる。


「食えるか、と言われれば食えるが。儂はサメのような姿をしているがサメではない。ただの人は食わん。しかもあいつはお前に敵対しているわけでもない。敵対していれば儂の力であいつを友好的にしてみせたのだがな」


 『フォルネウス』は口を開け豪快に笑った。サメ特有の歯並びをしていた。


「『フォルネウス』、頼む。今回はあいつを食ってくれ」

「我が主よ。悪魔に頼み事をすることの意味分かっておるのか?」


 頼み事をする、それは自分が相手より下手に出るということ。悪魔は絶対の力を持つ存在、召喚と契約をしているゲティに取ってそのパワーバランスが崩れるというのは避けたいはずだ。悪魔よりも下の存在になってしまった契約者、それすなわち契約者としてのパワーバランスが崩れ、下手をしたら死んでしまうかもしれない。

 ゲティは昔言っていた。『最初に召喚するのは強い悪魔にしようとしたが止められた。今では『ウァサゴ』を最初に召喚して良かったと思っている。最初に召喚したのが強い悪魔なら私は殺されていた』。自分の力で召喚できるギリギリの召喚をし、どちらにもメリットがあるように契約をするのだ。


「分かってる」

「それならば良い。今回だけだ、命令を受け入れよう。我が主ゲティ、いや、我が主『ゲーティア・プランシー』よ。」

「……命令だ『フォルネウス』。あの者の存在ごと食ってしまえ」


 『フォルネウス』がゲティの真名を言う。名は力。僕の口からはおそらく呼ぶことのないゲティの名前。

 ゲティが『フォルネウスに』そう命令すると『フォルネウス』は大きな口を開け、『てけてけ』のを食べた。『てけてけ』は最後まで何も言うことはなかった。その場に残るは車椅子。


「ふむ、やはり言葉を交わさずに食うものは不味い。それでは、我が主とその友よ」


 そう言って『フォルネウス』は消えていく。

 そこに残ったのはワニのぬいぐるみ。ワニからサメが出てきた。ゲティの召喚術は関連付けたものを使う。『ウァサゴ』はワニに乗った貴族らしいためワニを媒体にして召喚しているのだろう。

 『フォルネウス』はサメ。古来より日本ではサメのことをワニと言っていたそうだ。有名な因幡の白兎の伝説でもワニの身体を橋の代わりにして対岸に渡ったとされる。その時代、その地方にはワニが居なかったとされるためそれがサメのことではないか、と言われている。そのことからゲティはサメとワニを関連付けて召喚術を行ったのだろう。そうなると『サレオス』や『アガレス』なども呼べるのだろうか。一つのサメのぬいぐるみを媒体に四体もの悪魔の魔法陣を組み込むのは不可能なのかも知れないし、それはゲティにしかわからない。






「詳しいことは言えないけど。これはゲティの魔術に関して言えないってことね。『てけてけ』は死にたかったから殺してあげた。それが全てだよ」


 僕は二人にそう伝えることにした。あの『てけてけ』は自分自身で死ぬために動いていた。それを汲み取って殺してあげた。終わってみればただそれだけの話。


「なんで魔術効かないのに『てけてけ』を倒せたんですー?」

「いや、だから倒してないんだって。殺しただけ。魔術は効かないんだけど、えー。……ゲティのは魔術であって魔術でないっていうのが正しいかも?詳しくは言えない」


 おそらく魔術が効かない、というのは魔術を行使するために使う魔力の流れを切断するようなものではないかと仮定する。ゲティの魔術は、媒体とする道具に準備段階として魔力を込め、それに対して発動する時に魔力を発動する。そして相手に対して魔術を発動したとき、その魔術は相手に流れていく。その流れの先を『てけてけ』に指定した場合、魔術が効かないという性質上魔術がシャットアウトされるのだろう。

 

 ゲティの行使する魔術はあくまで召喚術。召喚術で召喚した対象は悪魔であり、魔術ではない。魔術によって悪魔、今回は『フォルネウス』を召喚したが、その召喚された悪魔は魔術ではないため『てけてけ』の魔術が効かないという性質を無視して殺すことができたのだ。




「そうなんですか」

「なんかちょっと悲しいねー」

「ん?何が悲しいの?」


 二人の反応が少し気になる。別に悲しくなることもないだろう。相手は都市伝説の存在。


「『てけてけ』っていう存在がなくなっちゃった気がして。別に思い入れがあるとかじゃないんです。会ったこともないし。それでも何かが無くなってしまうのは少し悲しい、っていうか寂しいなって」


 多分二人は思い違いをしている。確かに僕たちは、依頼に来た『てけてけ』を殺した。その存在ごと消した。しかし、消したのは僕のところへ依頼に来た『てけてけ』を消しただけなのだ。相手はネットの時代に普及した都市伝説。


「今の時代ネットで日本中どこでも繋がってるんだよ?それこそ都市伝説なんてどこにいても読める。だからどこでも都市伝説は生まれるんだ。例えば寒い地方の『てけてけ』を温かい地方で見たとかそういう話から温かい地方特有の『てけてけ』が生まれる。都市伝説ってそういうものなんじゃないかな」


 数日前まで僕は何も知らなかった。知らないことが恐怖だったため必死に調べた。そのことを感じさせないような声色で僕は二人に伝える。

 悲しがる必要はない。同じようなの妖怪はどうせすぐに生まれるわけだから。


「それよりもゲティさんの占いでも見つけられない物ってあるんだねー」

「『ウァサゴ』さんって悪魔にも手伝って貰ってても難しいんだよやっぱり」


 悪魔に占いを手伝わせるというのもどうかと思うが、占いというのは的中させるものではなくその人の指針になるような物事を伝える物だと僕は考えている。一週間後にいいことがあります、と占いで言われたとしてそれを信じていつも通り行動した人とそれを信じて一週間何もしなかった人、おそらく占い通りにいい結果が起こるのは行動を起こした人だろう。占いは起こる予定のことを伝えるのではなく、伝えなかったとしても起こる事柄を当てるものではないだろうか。その点、ゲティの占いは失せ物探しや恋愛成就など、すでに結果が決まっているものの背を押すようなもの。信じるか信じないかは相談者の判断に委ねられるのだ。

 決して超能力のように確定的な物事をを伝えるわけではない。お悩み相談に近いものである。


「どんなに超常的な力を使っても。あくま、で占いだからね」

「それ、ゲティさんの悪魔と掛けてます?つまんないですよ」






「この話はこれで終わり!今日も元気に依頼を整理するよ」

「社長ー、ちょっといい?」


 話に一区切りをつけ、業務に移ろうとした時、ウツボちゃんから声をかけられる。動こうとした瞬間に声をかけられるとなんだか力が抜ける。


「なに?」

「ここの事務所の隣、なんかガタガタ音なってたけど、なに?」


 ここの事務所の隣は、今は空き部屋だったはず。空き部屋というより住んでいる人はいるが出ていて今はいない。泥棒の可能性もあるが、態々あの部屋に入るような泥棒は居ないだろう。それに泥棒なら音を立てるようなことはしない。ここの事務所の入り口が見えないようになっているため、人がいると考えないで音を立てている可能性はあるが。

 

 それにあの部屋は色々な書類ばかりで、その他にあるものはベッドとパソコンだけ。他にもあるかもしれないがそれが分からないくらい汚い。本人は『私には場所が分かるんだからいいだろ、めんどくさいし』と言うが汚いものは汚い。それを片付けないまま仕事に行ってしまった。

 

 その部屋がガタガタ音が鳴る。

 もしかしなくても、住民が帰ってきたのかもしれない。


「気にしなくてもいいよ、あれうちの社員」







 俺は昨日の深夜自分の部屋に帰ってきた。部屋がクソ汚い。書類ばっかりで足の踏み場もない。こんな状態で出かけた過去の俺をぶん殴ってやりたい。


「あー疲れた」


 出張に使っていた道具をベッドの上に投げ捨て、コンビニで買ってきた缶チューハイを開ける。そして一口。疲れた体にアルコールが回る感覚が堪らなく気持ちいい。

 今回は北海道に行った。フィールドワークという名目で行ったが社長に余計な仕事を押し付けられた。『北海道からの依頼です。多分解決出来ると思うのでよろしくお願いします』だそうだ。フィールドワークにかこつけてのんびりする、俺の計画が台無しだ。しかも帰ってくるタイミングまで指定してきた。完全にサボるのがバレて居たのが腹立たしい。

 

 それに依頼内容も『いつもの畑で野菜が採れなくなった』とか『病気になりやすくなった』とかそういうものばかりだった。畑の場所を少し変えたり、川の流れをずらしたりしたらすぐ解決したからまだ良かった。ただ、問題なのが移動距離。『北海道はでっかいどう』なんて誰が言ったか、でっかいなんてモンじゃなかった。移動だけで一日潰れたこともあった。


「本当に厄介事任せてきやがって。とりあえず明日辺り顔出しとくか」


 酒も体に回ってきたのか、疲れも相まって猛烈な眠気が襲ってくる。一度寝るとしばらく起きないし、寝相も悪い。何度もベッドから落ちる。それなのにベットじゃないと寝た気がしない。厄介な体だ。


 そして俺が次に時計を見たら16時00だった。朝起きれなかったらしい。よっぽど疲れていたのだろうか。寝たのに疲れが取れていない気がする。


「今日はもういいや、明日行きゃいいだろ。どうせ暇なんだし」

 

 そう思い、俺は二度寝をすることにした。二度寝は最高だ。脳内麻薬のエンドルフィンが分泌されているのが分かる。しかも浅い眠りだから夢見心地がいい。今日は何もしないことに決めた。明日動く。明日のことは明日のオレに任せとけばいいだろ。




ピンポーン。ピンポーン。ピンピンピンピピピンポーン


「うるっせぇぞボケッ」


 俺の二度寝は、誰かのチャイムによって無くなった。誰か、ではない。こんなことをするのは一人に決まっている。飄々とした態度でのらりくらり適当そうに見えて案外生真面目な一応俺の上司。そしてルーン魔術師。

 そいつの顔を浮かべながら家のドアを開ける。


「帰ってたんだね、調さん。おかえり」


 俺の名前は伏草調(ふせくさしらべ)。何でも屋サークル。いや、あっちの世界では魔術会社サークルと呼ばれるこの会社に勤めている。この会社に所属しているのは魔術師でそれぞれがそれぞれの依頼を受けている。しかし俺は違う。俺だけが違う。



 俺は魔術師ではない。霊感のあるだけのただの人間だ。


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