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魔術会社のオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
魔術師が依頼受け付けます

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あくまで占いep2

 ゲティには、空穂ちゃんが見えていなかった。幽霊が怖いって言う割には空穂ちゃんを見ても反応が無いなとは思っていたが見えていなかっただけだった。僕はソファから立ち上がり自分の机に行く。机の引き出しを開けて目的のルーンの刻まれた石を一つ取り出して袋に入れる。そしてそれをゲティに投げる。


「ゲティ。それ僕のルーン」

「うおっ、石なげんなよ、危ないな。……これ『ᛚ(ラグズ)』か?」


 僕がゲティに渡したのは『ᛚ(ラグズ)』の文字が彫られた石。これは僕が最初に空穂ちゃんを見つけられたように直感や、感性に効果のあるルーンだ。魔術師であるゲティにはこれでしっかり空穂ちゃんが見えるはずだ。流石に僕の使う魔術のことを少しは知ってもらえてるみたいで安心した。

 石を受け取ったゲティはその石を握りしめ、一旦目を瞑る。そして目を開き、先ほどからそこにいる空穂ちゃんの方を見る。


「まじでもう一人いるじゃねーか」

「最初からその女性はそこにいましたよ。我が主は気づかなかったのですか?」


 ゲティは空穂ちゃんを認識することが出来た。それまで見えていなかったことに対してウァサゴは謎の煽りをゲティにしていたがゲティは無視していた。高位の悪魔相手にそんな事が出来る人物は世界広しと言えど多くないだろう。


「さっきも自己紹介してたけど多分聞こえてないよね。彼女は鏑木空穂ちゃん。元浮遊霊の現守護霊だね」


 ゲティにそう伝えると『私守護霊だったんですか?』という空穂ちゃんの声と『見えなかったとは言えすまなかったな』というゲティの声が被った。


「鏑木、先にいいか?来栖も悪いな」


 二人の方を見ながらゲティはそう言うと勢いよく僕の方へ振り向いた。顔を見ただけでわかる。絶対に怒っていると。


「おい、クソガキ。お前、また何も言ってないだろ。大事な事はちゃんと言葉にするなり、書面にするなりで伝えろっていつも言ってるよな?私の件はまだいい。見えていないのは魔術師として私が未熟というので片がつく。ただ鏑木の件は違うだろ。多分こいつは何も分かってない。お前が教えなきゃいけないだろうが」


 言葉にするのが大事というのは勿論分かる。ただ僕は昔から意味のある文字を使って自分の運命をたぐり寄せる魔術を使っている関係で言葉を使って物事を伝えるということがうまく出来ない。苦手とかではなく、伝えるべきことが抜け落ちてしまう。昔から先生にも『魔術にはコミュニケーションを使うものもある。人とのコミュニケーションも大切だよ』と言われていた。苦手だからこそ、聞かれたことには答えるようにしている。相手が知りたいと思ったことを答える、余計なことを言ってもそれは相手が欲しい情報ではない場合冗長に成るだけなのだ。魔術師として『簡潔に、目的に対して術を使う』ことを大事にしてきた僕にとって長々と喋るのはできない事なのだ。


「分かった。今度から気をつけるよ」

「毎回毎回お前は分かったというが何も分かってないだろう。そもそも――――」


 ゲティからのお説教が始まった。社長なのに社員から滅茶苦茶に怒られているというのをアルバイトの子に見られているというのは気恥ずかしいものがある。社長だから何でも出来るというわけではないのは分かっているがせめて二人がいない時にしてもらいたい。最近では社員が部下を叱る時に態々別室に呼び出すらしい。皆の前で叱責するのが他の人のストレスになるということでやめているらしい。 


「あの」


 ゲティのお説教タイムがまだ続く中、遠慮がちに来栖さんが手を挙げる。よく、今この状況で声を出せるなと思ったが説教は飽き飽きしている。助け船だと思い、学校の先生のように『はい、来栖さん』と声をかけた。ゲティには睨まれた。


「えっと、魔術師ってなんですか?」

「あ、それ私も気になってたー」


 今、このタイミングで一番よくない質問が学生たちから出てきた。やっぱり僕は伝え忘れていたみたいだ。というか、伝えたとして信じてもらえるとも思ってなかったから言ってなかった。こういう大事な事を伝えていないことが今のゲティにバレるとどうなるか想像に難くない。


「お前っ。そんな事も言ってなかったのか」


 ゲティの怒りが爆発した。拳を握り、ついにはソファから立ち上がり僕の方へ詰め寄る。先ほどまでは小さくて威圧感が無かったのだが、今は謎の威圧感に包まれている。ちらりと学生たちの方を見るとウァサゴと会話をしていた。


「ゲティさん怒ってるねー」

「火に油を注いじゃったかな」

「お二方、我が主の怒りが静まるまで私とお話でもしながら待ちましょう」


僕への助け舟は沈没してしまったようだ。






 一通り僕へのお説教を終えたのか、はたまた他の人がいるため遠慮したのかゲティはソファに戻っていった。後者の場合、このあと説教がまた始まるのだが。


「おい、クソガキ。お前自分のことちゃんと説明しろ。魔術師と言うことも含めてだ」


 ゲティに促されるまま僕は語る。


「実は僕、魔術師なんだよね。お守りにあげてる石とか、来栖さんの眼帯に書いた文字とかそういう文字を使って色々な現象、僕の望んだ現象を起こす術を使う魔術師。魔術についての詳しい内容はちょっと言えないけど、そういう事ができるってこと」

「それで私も魔術師ってわけ。あいつが使うのはルーン文字っていうのを使う魔術。で、私が使うのは召喚術。畑が違うが、こっちの世界の人からしたらどっちも超常の力を使う存在ってわけ」


 簡単に説明するとそういうことになる。二人とも訳がわからなさそうな顔をしている。いきなり魔術だなんだと言われてもすぐに理解することは出来ないだろう。魔術師である僕や、ゲティですら全ては分かっていないのだから。


「でも社長に魔法使いか聞いたら違うって」

「いや、違うよ?僕は魔法使いじゃなくて魔術師だし」


 空穂ちゃんに魔法使いか聞かれたことがあったが僕は正直に答えた。これに関しては聞かれたことに、正確に正しく答えているわけだから責められる謂れは無いだろう。魔術師と魔法使いは違うわけだし。


「普通の奴らにその違いはわかんねーよ」

「まあ似たようなものだから気にしないで」


 それでもこっちの世界の人にはどちらも理の外の事情を起こす存在であるため、違いは分からないようだ。態々、そこを説明するのも大変なので適当に流しておくことにする。


「それで、お前らの事も詳しく教えてくれ」

「多分、社長さんのほうが詳しいかと」


 僕らのことを簡単に説明したので、次は空穂ちゃんたちのことをゲティに言う番である。彼女たちは自分のことをどう説明すんのだろうかと考えていたらいきなり僕に投げてきた。『自分たちでもよく分からないので』らしい。確かに、彼女らの問題を解決したのも僕だしややこしくしたのも僕だ。でも詳しい事はわからない。こういう事なら、今、出張に出てる人の話をよく聞いておくんだったと後悔をする。確か、今はフィールドワークとか言って、北海道の方へ行ったのだったか。あちらの方には独自の文化があるから楽しんでるだろう。

 それよりも空穂ちゃんたちのことをどう説明するべきだろうか、彼女たちのことだが彼女たちに伝えていないこともある。ただ隠していると言うわけではなく、彼女たちがそれを知ったことによって良い方にも悪い方にも転んでしまうことを危惧したのだ。例えば来栖さんの持つウアジャトの眼は癒しの力があるが、そのことを細かく理解した時に、乱用してしまう危険性など。実際どうなるかは分からないが、イメージができてしまう。魔術に大切なものもイメージなのだ。そして僕は悩んだあげく、二人の表面的なことだけを伝えることにする。ゲティならその後気になったら僕に聞いてくるだろう。


「空穂ちゃんは多分守護霊、来栖さんは神様に少しだけ魅入られちゃった子」


 ゲティは腕を組みながら二人を交互に見る。そんなゲティの仕草を勘違いしたのか、証明するものを見せようと来栖さんは眼帯を外そうとする。


「あ、外したら駄目だよ。人前では絶対にね。何が起こるか分からないから」


 ゲティは天井を見上げ何かを考え込む。机の上ではウァサゴが『面白いですね』と言って来栖さんに話しかけてきた。悪魔の面白いという感性は人間とは当然違うので、その言葉を投げられた来栖さんは苦笑いを浮かべていた。考えがまとまったのかゲティは2人の方へ向き直り、両手を合わせて音を鳴らした。


「そりゃここに、バイトっていう名目で置いておくわけだ。とりあえず分かった。自己紹介はここで終わりだ。これからよろしくな二人ともとも」


「「よろしくお願いします」」


 僕としても、知ってしまった顔が困っているのをそのまま外放置するほど外道ではない。寧ろ、経過観察という名目で近くに置いておくほどの善人である。ゲティの方も、話が片付いたのか最初よりもスッキリとした顔つきになっている。

 ゲティは呼び出した『ウァサゴ』を送り返していた。また、明日からの占いの営業で呼び出すようだが、ウァサゴも立派な社畜である。現代日本に染まった悪魔というものも面白い。染まったといえば、ウァサゴは日本語で会話をしていたが悪魔の話す言葉が日本語というわけではない。ゲティ談だが日本語を話すゲティの魔力を通して召喚する時に、ゲティ本人に言語が通じるように悪魔の伝え方が変化するらしい。外国の方では召喚者の使用言語によって召喚対象の言語も変わるらしい。ゲティが言うには言語は変わるが『本質』は変わらないため悪魔にとっては何も影響がないらしい。召喚術というのも奥が深い。


 さて、話も終わったことだし、僕はコーヒーを飲みながらゲティの持ってきた下半身のない幽霊についての依頼を考えなければならない。長話になったため、沸かしていたお湯は冷め、もう一回沸かし直す必要が出てきた。僕はポットの前に行きスイッチを押して自分の机に移動する。


「社長は、まだこのあとお説教だから」


 ゲティのお説教はさっきのでは終わっていなかったらしい。


 せめてコーヒーを……。





「それよりも社長、あっちの世界とかこっちの世界とか分かりにくくなりませんか?」

「どういうこと?」


普段生きている普通の世界をこっちの世界。僕らのような、科学の世界にとっては超常の術を使う存在がいる世界をあっちの世界と呼んでいるのでわかりにくくなるということがわからない。わかりにくくなる、というのはやはりこっちの世界の人ならではの感性かもしれない。


「いや、名前つけましょうよ。話してるときに『こっちの世界が私たちであっちの世界が社長たちで』って一回頭の中で理解しなきゃいけないのが大変なんです!紙貸してしてください。」


空穂ちゃんにそういわれ、A4サイズのコピー用紙を渡す。何をするかと思えば、徐にデスクの上にあったマジックを使ってコピー用紙に文字を書き始めた。


『こっちの世界は現世界。あっちの世界は裏世界』


「こういう風に呼び分けてください!それなら理解しやすいと思います」


コピー用紙にマジックで書かれたその紙を僕もゲティもまじまじと見る。僕たちはあっちの世界で生きてきたから裏というわけではないが彼女からすれば今まで生きてきた世界の常識とは違う、裏側の世界になる。社員からの理解を深めることができるのならばいいだろう。先補で、ゲティにも報告、連絡、相談が大事といわれたばかりだし。


「おっけー。採用。それ、僕が忘れないように適当な額に入れて見える位置に置いておくから貸して」


 彼女から文字の書かれた紙。女子高生らしい丸みを帯びた字。もし事務所に飾るのなら筆とかで書かれたかっこいい格言とかのほうがいい気もする。事務所に飾られている額縁の中に飾られている文字が丸っこい字だと気持ちが緩んでくる。

 よくよく考えてみると今この空間にいるのは、僕、ゲティ、空穂ちゃん、来栖さんの四人。女性比率75%を占めていた。……格好いい格言よりもこういうほうがアットホームな雰囲気の会社になっていいかもしれない。しかし僕は心の中で思うのだった。


「(早くみんな帰ってきて)」


 この場にいない社員には届かない思いであった。

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