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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
深く混じって"愛"対して

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可可、可不可、不負ep3

 何時からそこに居たのだろうか。

 相良さんはゲティの隣に座っていた。いろはのように魔力を垂れ流していれば違和感を感じて存在に気付くことは出来る。だが、普段の魔術師から感じる魔術は一般人とさして変わらない。それこそ注視して見れば違いは分かるが、一般人を魔術師と仮定し、注視することなどあり得ない。


「居たんならもっと早く話しかけてくれればいいのに」


「何やら深刻な話をしているようでしたので喋りかけるのを戸惑ってしまいました」


「そんなに深刻な話をしてたかな?」


「さて、私はそう感じたと言うだけかもしれません」


「人の話を盗み聞きするのはよくないと思うけどね」


「勝手に人と耳に話を聞かせておいて盗み聞きとは、当たり屋や冤罪の類みたいです」


「ここで話してた僕たちにも問題があるってわけね」


「時と場所は選んだほうがいいと思いますよ」


「ご忠告感謝するよ」


 ゲティを間に挟みながら互いに顔を見ずに話づつける。誰もいなくなった校門をふたりで見ながら話していると耐え切られなくなったのかゲティが再び立ち上がる。


「おいお前ら」


「なに?」


「なんですか?」


「私を挟んで意味深な会話を広げるのはやめろ。それと言いたいことがあるなら回りくどく話さずちゃんと喋れ。聞いているこっちがイライラする」


 僕と相良さんを一度見てからため息混じりに話す。単刀直入に本題へと入るのが憚られるため、世間話から始めようとしていただけなのにイライラされてしまっては困る。

 相良さんに聞きたいことは錬金術の研究をしているか。はぐらかされること無く、本当のことを聞きたい。あわよくばその研究を見せてもらいたい。その後は確りと通報するつもりだ。

 ゲティはゲティでいろはの現在について聞きたいのだろう。目の前に当事者がいるのに表面をなぞるような会話を繰り広げられていたらイライラするのも頭の片隅で理解は出来る。


「別にゲティに話してるわけじゃないからイライラされても困るけど」


 だからといって昔の知り合いと話している時に遮られるのは訳が分からない。


「なんだ?」


 その一言は僕を睨みつけながら紡がれた。ゲティに対して恐怖を覚えることはないが、この場で言い争いをしても生産性は何もない。寧ろ相良さんと話す時間が減ってしまうため、時間を消費するほうが大きいだろう。


「なにも」


 ここは僕が大人になって折れるのが最善だと判断する。


 そのやり取り取りを見てクスクスと相良さんは笑っていた。表情は見えないが少しだけ肩を震わせていた。


「随分賑やかな方ですね」


「僕のこと?それともゲティのこと?」


 ゲティは僕の方を軽く叩きながら「私のことな訳がないだろう」と言ってくるが、僕のことのほうがあり得ない。

 相良さんは椅子の後ろ足に重心をかけ、背もたれが斜めになるほどのけぞって仕切りから顔を出す。

 清潔感のある格好に大淵なメガネを掛けた、窶れた顔が特徴的な人がそこに居た。


「おふたりの関係性がですよ」



 もはやカウンター席に座っている理由もないため、喫茶店のマスターに断りをいれてから4人がけのテーブル席へと移動した。僕とゲティが隣に座り、向かい合うように相良さんが座っている。


 居座るのも悪いため、追加でコーヒーを頼むことにする。おかわりは最初に頼む料金より少しだけ安かった。


 マスターが渋い声で「おまたせしました」と持ってきたコーヒーは鼻腔を擽るいい香りをしていた。

 はしゃいでいたゲティはコーヒーを口に含んで一息つくとテーブルに肘をついて話し始める。


「本題に入っていいか?」


「本題ですか?どのことでしょうね」


 相良さんは柔和な笑みを浮かべているが眼鏡の向こうは笑っては居ない。僕たちの一挙手一投足を見逃さないよう、つぶさに観察しているようだ。


「相良さんにはそんなに思い当たる節があるの?」


「さあ?どうでしょう。私には何も思い浮かびませんがゲティさんの顔を見るにひとつでは無さそうだ」


「僕の顔からは何も分からないんだ」


「化野くんの顔を見てもよく分かりませんからね」


「それなら似たもの同士かな?」


「だから、お前らそれをやめろって言ってるだろ……」


 せっかく本題に入ろうとしていたところの話を追ってしまったためゲティに軽く謝罪する。その間も相良さんの表情は一切変わらない。


「単刀直入に聞く。なんでここにいる?」


 ゲティが相良さんに質問をする。僕はそこまで気になることではなかった。相良さんのお気に入りの店という可能性もあるし、いろはが心配で見に来ている親バカの可能性もあった。そこまで相良さんに対して猜疑心を向ける理由が分からない。


「ここにいる理由ですか。観察、ですかね」


「観察?」


「直感と推察からいろはさんを調べようとする輩が出てくきてもおかしくないと思いましてね」


 僕のほうをしっかりと見ながら相良さんは言った。やはり相良さんは頭の回転が早い。魔術管理局での会話や関わりから僕が相良さんに興味を持って調べることを察していたみたいだ。


「よくこの場所だってわかったね」


「そればかりは直感ですよ。私たちの居住地は知らないと思いますし、あの時のいろはさんは学校の制服を着ていました。そのくらいしか居場所を特定する要素はありませんでした。ならばそこを突いてくると思いまして。一応昨日も来たんですが一足早かったようです」


 その言葉が癇に障る。相良さんが想定していた動き出しよりも、僕たちの行動が1日遅れていたと言われた気がしたのだ。直接言わず、表面をなでるように会話をされるのがイライラするというのこういう事を言うのだろう。


「無駄足を踏ませて悪かったね」


「この年なのでウォーキングはいい運動になりました」


 相良さんはコーヒーを口に運ぶ。


「逆に聞かせてもらいます。化野くんたちはここで何をしていたんですか?いろはさんを観察していたのは知っていますが」


「何って言う理由はないよ。通っている学校が分かればそこから情報を得られるじゃん?あの感じなら帰り道でも何かに気づくことはなさそうだ」


「それは普通に犯罪では?」


「目的地が同じっていうだけだよ」


「分かっていますがあえて聞かせてもらいます。私たちの家に来たい目的は何ですか?」


 相良さんが賢者の石を研究していると仮定してここまで行動を起こしてきたが、この場でそれを伝えてしまってもいいのだろうか。

 何かを言ってハグラされてしまえば合法的に家にいけるタイミングを逃してしまう。


「賢者の石」


 僕が迷っているとゲティが一言で返答をした。

 相良さんはその答えを予想していたのか笑みを崩さない。


「賢者の石があるんだろう?」


 相手に選択を委ねず、確定したかのように質問をする。それに対して肯定か否定を取るしかできない。


「ありませんよ」


 相良さんが取ったのは否定の言葉。魔術師は自分の魔術のイメージを固めるためには嘘をつかない事が多い。僕もゲティも嘘を付くことで自分の魔術が使えなくなる可能性を考えて嘘をつかない。

 相良さんが呪術師だった時なら分からないが、今は錬金術師と言うなの魔道具修理士。個人の魔術を使っているとは言えず、嘘を付かないとは断定できなかった。


「本当か?」


「はい。化野くん、疑いの眼差しが隠しきれていないため予め言っておきますが私も魔術師の端くれです。嘘はつきません。今は自分の魔術を使っては居ませんが、嘘を付かない。っていうのは魔術師だからという理由だけではないんですよ」


 相良さんは初めて笑顔を崩し、真面目な顔になる。魔術師として話している時の相良さんとは違う、人間としての相良さんの顔を見た。


「それは何?」


「これでも私はいろはさんの父親なのです。子供に嘘を付くところを見られてしまっては親失格でしょう」


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