私は冒険者ギルドの受付嬢ですが、依頼者を討伐します
冒険者ギルドに似つかわしくない男が入ってきた。
小太りで無精ひげを生やしており髪はボサボサである。
ジャージにサンダル履きのその男は、どこから見ても隙だらけであった。
「いらっしゃい、冒険者の方ですか?ギルドカードの提示をお願いします」
私は思いっきり不愛想に対応する。
「いや、冒険者じゃなくて。依頼者なんですけど」
男はポケットからの紙を取り出し、カウンターに投げるように置いた。
「依頼の掲示をお願いします。条件はこの紙にまとめておきました」
「えーと、内容を確認させていただきます」
私は声を出して依頼書を読み上げる。
「急募 オレのお嫁さん。
人数: 2~ 3人。
美人でスタイルがよくて、優しくて若くて
働き者で体が丈夫で、贅沢しなくてセンスがよくて
頭が良くて食い物の好き嫌いがなく
料理はうまくて、オレの両親に親切で
あそこの締まりが、よく――」
ここまで来て私は、読み上げるの止めた。
口に出すのことさえ、はばかれるような卑猥な内容がその後に延々と続いていたからである。
常日頃「冷徹」と言われた私だが、珍しく口調が感情的になってしまった。
「失礼ですが、あなたのご職業は?
王族の方ですか。それとも貴族ですか」
「いや、ただの引きこもりのニートです」
(最近、この世界と異世界が繋がって、妙なやつが紛れ込んでくるんだよな)
「冒険者パーティには該当者はないと思いますよ」
「だめなら、パーティではなくソロでもかまいません。
なんなら、お姉さんでも、OKですよ」
男が私を指差してニヤついた瞬間、短剣の柄に手を置いてしまった。
「こ、ここは、結婚相手の紹介所ではありません。冒険者ギルドです。
大体、花嫁の人数が 1人じゃなくて 2~ 3人ってどういう意味ですか!!」
「異世界では、ハーレムが当たり前でしょ。
あまり人数が多いと管理しきれないと思って人数は控えめにしときました。
あ、依頼はギルドで受付けてくれるんでしょ」
「花嫁募集の依頼は受け付けてません!」
「じゃ、嫁さんの捜索依頼に変更すれば、受付けてくれますよね」
「依頼を出すのは構いませんが、報酬を書いてください!」
「じゃ、Fランク依頼で、報酬は銅貨 1枚、っと」
*****
数日後
「探索依頼の該当者が見つかりました。
依頼者は、結果を確認の上、パーティに報酬を払ってください」
私は、感情を押し殺した声で淡々と告げた。私は、連れてこられた少女を見て絶句した。
パーティに連れて来られた女の子は、15、6歳くらいの黒髪の美しい少女。見るからに健気そうであった。
(まさか、条件に合う相手が見つかるとは思わなかった……)
「あくまでもお嫁さん候補ということで、決定ではありませんので勘違いしないでください。
二人で話し合って結婚するか決めてください」
私は、女の子に小声で言った。
「(嫌なら嫌って、言った方がいいわよ)」
だが、先にあのブ男が答えた。
「この子黒髪じゃん、オレ金髪が好みなんだわ。チェンジで」
女の子の瞳が涙で一杯になる。
私が腰に隠した短剣をつかんだとき、誰かが肩をポンと叩いた。振り返る。
「あっ、ギルマス!」
いつの間にかギルドマスターが私の背後に立っていた。彼は私の顔を見て言った。
「気持ちはよ~く分かるが、中で事件を起こされるとまずいんだわ。やるなら奴がギルドを出てからにしてくれ」
ギルドマスターの冷静な声が響く中、私はどの場所なら最も痛みを与えて、確実に殺れるか、静かに計算していた。
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