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『ロマン』シリーズ

操縦者(パイロット)たちはロマンで生き抜きたい ~母艦を救ったのに軍法会議って本気ですか!?~

作者: ペケさん

挿絵(By みてみん)

 西暦××××年、突如宇宙から飛来した巨大な生命体は人類の敵だった。次々と滅ぼされる国や都市に人類は恐怖し、その生物をモンスターの語源でもある『モンストゥルム』と名付ける。モンストゥルムの脅威に人類はようやく団結し、人類初の統一国家『地球連邦』を設立、元号を統一暦に変更した。そして人類の総力を持って、地球上からモンストゥルムを撃退したのだった。


 統一暦二十三年、『攻撃的防衛』を掲げた人類は宇宙戦艦ジョーカー号を建造、最初の剣としてモンストゥルムの主星へと向かうのだった。


◇◇◆◇◇


 統一暦二十四年 宇宙戦艦 ジョーカー号のドッグ ──


 けたたましい警告音と共に赤い警告灯がクルクルと回っている。モンストゥルム襲撃を報せる警報だ。そんな中、作業着で赤毛の女性がモニターを通して、オペレーターと喧嘩をしていた。


「……だから、出せる機体がもうねぇんだよっ!」

「何とかしてくださいっ! 万全でなくても構わないので出してください。このままでは防衛ラインが崩壊しますっ!」

「無理だって言ってんだろ、この貧乳! そもそもパイロットが残ってねぇんだよっ!」

「貧乳は関係ないでしょ!?」


 赤毛の女性がスパナをコンソールに投げつけると、コンソールは火花を散らせてプツリと切れた。そこに部下の整備士が声をかけてくる。


「アンナの姐御、もう限界ですぜ」

「やかましい! 口を動かす暇があるなら手を動かせっ!」


 現在宇宙戦艦ジョーカー号は非常事態に陥っていた。


 モンストゥルムたちの主星に近付けば近付くほど奴らの襲撃は激しくなり、対モンストゥルム人型兵器つまりロボットやパイロットの消耗が激しくなっているのだ。


 そんな中、エースチームであるデルタ隊が斥候任務中に消息を絶つ事件が発生した。ジョーカー号の艦長は貴重な戦力であるデルタ隊を捜索するために、小回りの利くビーアールスリーの各部隊で大規模な捜索隊を出すことに決定した。


 しかし、彼らが母艦を離れていた時、折り悪くモンストゥルムの群れがジョーカー号を襲撃。主力であるビーアールスリー隊を欠いた状態のジョーカー号は、戦艦の砲撃と大型機で防衛ラインを構築したが、多勢に無勢であり現在防衛ラインが崩壊寸前になっていた。


「おい、バタートーストの状況はっ!?」

「現在、装甲の換装中です。チェックも含めて一時間は掛かります」

「それじゃ沈んじまうだろ。チェックは最小限にして三十分で済ませろっ!」


 整備士の中では、バタートーストの愛称で呼ばれているジョーカー号の最終兵器スーパービームマシンが昨夜の出撃で壊れており、修理や換装が済んでいないのもジョーカー号の危機に拍車をかけていた。


◇◇◆◇◇


 そんな混乱極まるドッグの中で、パイロットスーツを着た私は怒鳴り散らしている整備長のアンナさんに声を掛けた。


「アンナさん、私が出ますっ! 乗れる機体はありませんか?」

「だから、ねぇって……っとバルト准尉か、残念だが訓練生のお嬢ちゃんに構ってる暇はないんだよ」


 完全に子供扱いされているのは癇に障るけど、今はそんなことを怒っている状況じゃない。


 アンナさんは腕が取れているビーアールスリーに向かって軽く飛ぶ。私も慌てて彼女を追いかけつつ話を続けた。


「お願いします、アンナさん! このままじゃパパが帰ってくる場所がなくなっちゃう」

「邪魔だよ、お嬢ちゃん。アンタを出撃なんかさせたら、バルト大尉にあたしが怒られるじゃないか。それに乗れる機体がねぇんだよっ!」


 バルト大尉、私の大好きなパパ。デルタ隊の隊長で昨日から行方が分からなくなっているけど、絶対帰ってくると信じてるっ! だからこそ、私が母艦(ここ)を護らないといけないんだ。


 私は腕が取れているビーアールスリーの装甲を、バンバンと叩いてアピールする。


「これで構いません、お願いしますっ!」

「こいつぁダメだ、腕だけじゃなく推進系もやられてるっ! まともに飛べるわけがない」


 アンナさんは私のほうを向かずに怒鳴りつけると、部下の整備士たちに指示を出していた。


 悔しい……こんな時に何もできないなんて、パパの反対を押し切ってパイロットを目指したのにっ!


 私は諦めきれずキョロキョロと周りを見回した。まだどこかに動かせる機体があるかもしれない。そんな私の想いに応えたのか、ある機体が瞳に飛び込んできた。


 白く美しく女性的フォルムに翼を広げたようなバックパック、その姿はどこか騎士のような印象を受けた。私はこの機体を知っている。訓練中に指導教官が話していたはずだ。


「確か……ワルキューレ・ゼロ?」


 ワルキューレ・ゼロ ── 世紀の天才ブリュンヒルデ・ハルトヴィヒ博士が、一から設計した機体で現存する全てを人型兵器を凌駕すると言われている。しかし、その高スペックに乗りこなせるパイロットがいないため、ジョーカー号の守り神としてドックに鎮座しているという機体だ。


「あれはダメだぞ。名前の通りパイロットを死の世界に連れて行く機体だからね」


 私がワルキューレ・ゼロに向けている視線に気が付くと、アンナさんは釘を刺してきた。しかし、私にはあの機体こそ希望の光に見えた。そう感じた瞬間、私はビーアールスリーの装甲を蹴って、ワルキューレ・ゼロに向かって跳んだ。


「あっ、待ちなっ!」


 後ろからアンナさんの声が聞こえてきたが、私は開いているハッチからコックピットに滑りこんだ。シートに座ると自動的にハッチが閉じていき、どこか可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。


「貴官の名前と所属を答えよ」

「ケイト・バルト准尉、所属は未定、訓練生ですっ!」

「声紋及び網膜パターン解析 ── データベースと照合、貴官は当機に搭乗する資格がない」

「ジョーカー号のピンチなの! もうこの機体しかないのよっ!」


 わからず屋の声に拒絶されたので、私が叫びながらレバーを叩くと何かが起動する音が聞こえ、コックピットの先に小人の女の子が現れた。その可愛らしい女の子は白衣を着ており、浪漫主義という変なTシャツを着ていた。


「私のワルキューレ・ゼロを乱暴に扱うな、馬鹿者めっ!」

「あ……あなた、何?」

「私はこの機体の設計者であるヒルデだ。ワルキューレ・ゼロの戦術サポートAIでもある」


 小さな女の子は腰に手を当ててふんぞり返っている。この小っちゃいのがハルトヴィヒ博士!? 嘘でしょ、十歳ぐらいの子供じゃない!


「誰が子供か、貴様っ! 口の利き方には気をつけろ。しかし貴様の思考から状況は把握した。確かに危機的状況のようだな、特別に貴様の搭乗を許可してやってもいいぞ。……母艦のピンチに、訓練生が試作機に搭乗するとかロマンがあるからな」

「えっ!?」


 口には出してなかったはずだけど、心を読まれた? いえ、そんなことより搭乗許可が下りたなら……。


「じゃ、今すぐ起動してっ!」

「起動シークエンス──チェック……オールクリア、ワルキューレシステム起動」


 ワルキューレ・ゼロのカメラアイが光ると、取り付いていたアンナさんが必死に叫んでいる。


「おい、やめろっ! こいつはお前には無理だっ!」


 しかし、私は構わずワルキューレ・ゼロはカタパルトデッキに向かって歩かせる。操作系統は、訓練でも使用しているビーアールスリーと同系統のようだ。コックピットから出てこない私に舌打ちをしたアンナさんは、インカムで艦橋に連絡を入れていた。


「やばい、バルト准尉がワルキューレ・ゼロで出撃するつもりだ。今すぐカタパルトデッキのハッチを閉じろ!」

「えっ!? 何をしてるんですか、今すぐハッチを……えっ? あ、はい。アンナ整備長、艦長が構わんから出撃させよと」

「馬鹿なっ!?」


 艦橋とどのようなやり取りがあったのかはわからないけど、アンナさんはワルキューレ・ゼロから離れた。私がカタパルトに足を乗せると、自動的にカタパルトデッキに運ばれる。そして、艦橋からオペレータの声が聞こえてくる。


「バルト准尉、発艦を許可します。発進後は当艦の直衛に当たってください」

「はい、ケイト・バルト准尉。ワルキューレ・ゼロ、いきますっ!」


 火花を散らせながらカタパルトで射出された。宇宙空間に放り出された私は緊張しながら周辺を探る。初めての実戦、初めての戦場の空気に過呼吸気味になり喉が渇く。


「もっと気楽にしろ。私のワルキューレ・ゼロがモンストゥルムごときに負けることはない。ほら、そろそろ飛んでくるはずだ」


 ビィーという警告音と共にモニターに『ブリュンヒルデ』というメッセージと『ドッキング』のボタンが表示されていた。


 突然の出来事にパニックに陥った私はボタンを押すかどうかを迷っていると、チビヒルデが怒鳴りつけるように叫ぶ。


「落ち着け、バイタル異常だぞ。ボタンを押すだけだ、後はワルキューレが勝手にやってくれる」

「ボ……ボタンを押すだけっ!」


 私は何も考えずモニターに表示されているボタンを押した。次の瞬間『ブリュンヒルデ・ドッキング』のメッセージと共にワルキューレ・ゼロは自動操縦に切り替わり、ジョーカー号から飛んできた何かと軌道を合わせて速度調整を始めた。


 そして衝撃と共に接続音が鳴り響き『コンプリート ワルキューレ・ブリュンヒルデ』とメッセージが表示される。どうやらブリュンヒルデというパーツを換装して、『ワルキューレ・ブリュンヒルデ』という機体になっているらしい。


 モニターの表示によると背中に巨大なバックパックが付き、右手には剣のようなライフル、そして左手には大きな盾の様なものが握られているようだ。


「よし、無事にドッキング出来たな。ブリュンヒルデは汎用型のパーツだ。高出力のビームライフルとビームソード、そして高出力のバーニアが搭載されている」

「……よくわからないけど、凄い強いってこと?」

「そうだ、この機体はどんなモンストゥルムにも負けない。行けるな、小娘?」

「も……もちろんっ!」


 私は意を決したようにレバーを握ると、思いっきりペダルを踏み込んだ。急速な加速で発生したGが全身を軋ませる。あまりの痛みに涙が出てくる。しかし、この痛みのおかげで気を失うことはなかった。


「グゥゥゥゥ……な、何なのこの殺人的な加速はっ!?」

「我慢しろ、これでも出力は半分も出てないぞ」


 なっ!? これで全開じゃないの!? 一体何を考えて、こんな機体作ったのよっ! そんな事を考えていると、目の前に中型のモンストゥルムが飛び込んできた。私が右手のレバーを引くと、ワルキューレは宙返りしながら突進を躱してモンストゥルムの後ろを取る。


「今だ、構えろっ!」

「う、うんっ!」


 私は言われた通りに、照準をそのモンストゥルムに合わせるとトリガーを引いた。剣のようなライフルの矛先から極太のレーザーが発射され、その閃光が中型のモンストゥルムを一撃で撃ち抜く。


「やったっ!」


 中型のモンストゥルムを一撃なんて戦艦並みの高火力! そして頭がおかしい加速と運動性能、最強の機体というのも嘘じゃないみたい。


「馬鹿者め、気を抜くな」

「っ!? ……なに?」


 チビヒルデの怒声と同時に、私の脳裏にあるビジョンが映りこむ。私は思わずレバーを引き回避行動に移る。急激な加速に内臓がひっくり返りそうだ。


 そして先ほどまで私がいた場所に極大ビームが通りすぎた。その映像は、さっき私が見たビジョンそのものだった。


「……どういうこと?」

戦域予測(ミーミル)システムの応用だ」


 チビヒルデは、自慢げにふんぞり返りながら解説を始めた。戦域予測(ミーミル)システムは、レーダー情報や画像データを解析して導き出した予測を、パイロットの脳にダイレクトに送り込むシステムのことらしい。


 戦域予測(ミーミル)システムの演算には、天才ブリュンヒルデ・ハルトヴィヒ博士の頭脳を模写したAI、このチビヒルデが使用されている。彼女の頭脳は生物的制約を取り除くことで、あらゆるシステムを凌駕する演算を可能にし、その予測はすでに未来予知の領域に達しようとしていた。


「つまり敵の動きが先にわかるってこと?」

「そういうことだ。馬鹿だと余計なことを考えずに済むから、戦域予測(ミーミル)システムの相性がいいな」


 この戦域予測(ミーミル)システムがワルキューレ・ゼロの最強たる所以であり、パイロット選びの障害になっていたものである。熟練した兵士は自身の戦術や癖が染み込んでおり、脳内に直接データを送り込まれても混乱するだけだったのだ。


 また攻撃が飛んでくるビジョンが脳裏に浮かぶと、私はレバーを動かしその攻撃を回避しながら攻撃してきたモンストゥルムに照準を合わせてトリガーを引く。極大のレーザーが敵を貫き盛大に爆発した。


「これならいける! いけるよっ!」


 今まで恐怖の対象でしかなかったモンストゥルムと戦えることの喜びと、そのモンストゥルムを圧倒するほどの力に私は浮かれていた。


 そのままジョーカー号の直衛として、向かってくるモンストゥルムを次々と撃墜していると、味方の通信が飛び込んできた。


「こちらエスユーワン、両手が壊れちまった!」

「オゥマイガァ! 俺のドリルの回りが鈍いぜっ!?」


 この声は特殊機のエスユーワンとマグナムドリルのパイロットの声だ。ふざけたコンセプトのロボットでアンナさんがいつも愚痴っていた。さらに戦術オペレーターからの指示のアナウンスが入る。


「エスユーワン、マグナムドリルの両機は速やかに帰艦してください。バルト准尉、両機の帰艦を支援してください」

「バルト准尉、了解」


 オペレーターに言われたまま指定の位置へ向かうと、ボロボロになったエスユーワンとマグナムドリルがモンストゥルムの大群に追われて戻ってきていた。


「うわ、ど……どうしよう?」


 ブリュンヒルデの巨大ビームライフルでは味方機ごと巻き込んでしまう。出力を落として連射? 無理、私にそんな精密射撃なんてできるわけがない! 悩んでいる私の思考を読み取ったのか、チビヒルデが地団駄踏みながら怒鳴りつけてきた。


「モード:リッターに切り替えろ」

「モード:リッター?」

「そこのボタンだ、早くしろっ!」


 チビヒルデに言われるままコンソールを操作すると、画面の表示が変わってワルキューレ・ブリュンヒルデのライフルはビームソードに切り替わった。


「ちょっと、これ近接モードじゃ!? 近接戦闘なんて習ったことないよ!」


 私はモンストゥルムの地球襲撃後に生まれた世代であり、人類の敵=モンストゥルムとして対モンストゥルムの訓練しか行っていない。主力機であるビーアールスリーもヴァイブロナイフを装備しているが、緊急時に係留ロープを切ったりコックピットに取り残されたパイロットを救出するために利用する程度である。


 エスユーワンやマグナムドリルのような特殊機を除けば、現在のロボット戦で近接戦など考慮するわけがないのだ。


「大丈夫だ、戦域予測(ミーミル)でサポートする。お前はペダルを踏み込んで、トリガーを引くだけでいい」

「そんな簡単に……えぇい、こうなったらやるしかないっ!」


 叫びながら覚悟を決めた私は思いっきりペダルを踏み込んだ。ドッキングしたブリュンヒルデのバックパックが開き巨大なバーニアに火を噴いた。


 次の瞬間感じたのは、最初に経験したものと比べられないほどGと、私のあばら骨を軋ませ肺を押し潰すような感覚。そして脳内に流れる全てのモンストゥルムの動きと、ワルキューレ・ブリュンヒルデが動く軌道と攻撃のタイミングだった。


 私は意識が飛びそうになるような激痛に耐えながらトリガーを引いた。視ていた幻視(ビジョン)が消えた瞬間、その全てが終わっていた。


 エスユーワンたちを追いかけていたモンストゥルムは、ワルキューレ・ブリュンヒルデの超高速の突進連撃によって、バラバラに切り刻まれていたのだ。


「はぁはぁはぁ……」

「おい、そこのボタンを押せ!」

「ぼ……ボタン?」


 朦朧とした意識の中、私はチビヒルデに言われたままボタンを押した。すると自動的ワルキューレ・ブリュンヒルデが動き出し、剣を振って突き付けるポーズを取っていた。どこからともなくシャキーンという効果音も聞こえてくる。


「よぉし、いいぞっ!」

「この……ポーズに意味あるの?」

「当然だ、恰好良いだろう?」


 チビヒルデは自慢げに腰に手を当てて威張っているが、その思考はまるで理解できなかった。しばらく息を整えることに集中していると、オペレーターの声が聞こえてくる。


「エスユーワン、マグナムドリルの両機をジョーカー号に収容しました。バルト准尉は引き続きジョーカー号の直衛をお願いします」

「バルト准尉、了解」


 ワルキューレ・ブリュンヒルデをジョーカー号の近くに戻すと、私は再び周辺の警戒を強めた。その十分後、警告音と共にオペレーターから通信が入る。


「ジョーカー号直上に多数の敵反応あり!」

「バルト准尉、迎撃に向かいます!」


 ジョーカー号の直上にワルキューレを向かわせると、モンストゥルムの大群がレーダーに映し出され、モニターにも遠隔モードで敵の姿が映し出された。


「嘘でしょ……あの数は一機で対処できる量じゃないよ」

「ふむ、このままじゃ無理だな。だが安心しろ! その為のワルキューレシステムだ。フリストを呼ぶぞ!」


 チビヒルデは自慢げに腕を組んでふんぞり返っている。警告音と共にモニターに『フリスト』と『ドッキング』が表示される。


「これを押せばいいのね?」


 先程と同じ要領でボタンを押すとジョーカー号から何かが射出され、ワルキューレが自動操縦に切り替わりブリュンヒルデをパージした。


 そして後ろから巨大なパーツが接続され、モニターに『フリスト』の文字と『ドッキング』の文字が表示されていた。どうやらドッキングが成功し、ワルキューレ・フリストに切り替わったようだ。


 モニターに映し出されたスペックによると、大きなバックパックはホーミングミサイルポット、両手には大口径のレーザーガトリングを装備、肩からは大口径レーザーが撃てるようだ。


「フリストは火力を重視した殲滅に特化したモードだ。お前は機体を敵に向けでいい。ターゲットはこちらでやる」

「りょ……了解!」


 バーニアを微調整して機体を敵が向かってくる方へ向ける。私は機体の制御だけは上手いって教官にも言われた。望遠モードで映し出されたモニターの敵に次々とターゲット表示がマークされていく。


「射程距離に入ったらトリガーを引け」


 モニターに映る敵との距離表示を注視しながらトリガーを握り締めていると、オペレーターから緊急通信が入る。


「ジョーカー号の直下からもモンストゥルムの集団が急接近! スーパービームマシンを出撃させてくだ……きゃぁぁぁ!? 下部ハッチ付近に被弾、隔壁封鎖、消火急いで!」

「下からも急襲!? ジョーカー号がやられちゃう!?」


 今すぐ助けに行きたいけど、目の前の集団を近付かせたら確実にジョーカー号は耐えれない。


「下部ハッチが損傷、スーパービームマシンが出撃できません。下部全砲門、敵を近付かせないように弾幕を……きゃぁぁ!?」

「こちらバルド准尉、ジョーカー号、大丈夫ですか? ジョーカー号!?」


 ジョーカー号への通信を試みるがオペレーターからの返事はなく、思わずトリガーを握る手に力が入るがトリガーはロックされて引けなくなっていた。そして、チビヒルデに怒鳴られる。


「馬鹿、まだ射程外だ。ジョーカー号も私の設計だぞ、あの程度で落ちるか! いいから前だけ見ておけ」

「う……うん!」


 その時、雑音混じりだったが聞き覚えのある声が通信で入ってくる。


「ザザ……ちら、ビーアール……ザザ……タ小隊、ジョーカー号の直……に回る」

「い……今の声は!?」


 私の意識に反応したのか、モニター上の一部が切り替わってジョーカー号の映像が流れてくる。そこにはビーアールスリー各小隊が、ジョーカー号を護る姿が表示されていた。その中に肩に見慣れたマークが描かれた機体も映し出される。


「あ……あれはデルタ小隊のマークの隊長機! パパだっ!?」

「その声は、まさかケイトか? なぜ、お前まで戦場に……いや、話は後だ。状況はオペレーターから送って貰った。ケイトはそのまま敵に当たれ、こちらは我々が対処する。各機、母艦に近付かせるなっ!」

「おぉ!」


 パパが無事だった。ビーアールスリー小隊が戻ったならジョーカー号も守ることが出来そうだ。そう思ったら涙が溢れてきた。そこにピーという機械音が鳴り響く。


「よし、敵が射程内に入ったぞ。フリストの力を見せてやれ。小娘、ぶっぱなせ!」

「くらえ、全弾発射っ!」


 私が涙を振り払うようにトリガーを引くと、フリストに搭載されている大量の武装が全て発射され、巨大な閃光と爆発が眼前に広がる。その威力はスーパービームマシンのファイナルビームキャノンすら凌駕するかもしれない。


「綺麗……」

「あっはははは、どうだ! やっぱり火力こそが正義だ!」


 こうしてモンストゥルムを撃退した私たちは、ジョーカー号に守り抜くことができたのである。


 これからも厳しい戦いになるとは思うけど、このワルキューレ・ゼロがあればきっとモンストゥルムたちとの戦いにも勝利できるはずよ!


◇◇◆◇◇


「……と思っていた瞬間が私にもありました」


 その呟きが響き渡ったのは、ベッドとトイレしかないような凄く狭い個室。ジョーカー号に戻った私は、勝利を祝う間もなく逮捕され独房に入れられてしまったのだ。


 罪状はワルキューレ・ゼロの無断搭乗。発艦許可が出たので安心してたんだけど、機体を勝手に持ち出すことは軍法に引っかかるらしく最悪極刑とのことだった。


 面会に来てくれたパパやアンナさんの話では、ジョーカー号を護った功績で不問にするように働きかけてくれているらしいけど、覚悟は決めておかないといけないかもしれない。


「でも後悔はないわ。パイロットならロマン(試作機)で生き残るしかなかったもの」


 後日行われた簡易的な軍法会議では、情状酌量の余地ありで無断搭乗の罪は不問とされ、私はワルキューレ・ゼロの正式パイロットへ任命されることになったのだった。


 こうして、私たちは再びモンストゥルムの主星を目指して旅を続けるのである。

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