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6.板挟み

「ラン、一緒に、お昼寝、しよ?」

「ぇ、っと……そ、その……」


 意外な形で、ではあるが、リッタとも合流することができたランたちは、引き続き庭園内を散歩する。


 ちなみにこのリッタという少女のような彼女もまた継承印の持ち主である。左太もも、長め丈のソックスから、『武』の字がちらりと覗いている。


「やめさないリッタ! こんなところでお昼寝なんて!」

「気持ちいい、よ?」

「そういう問題ではないのですっ」

「アイリーン、ちょっと、コワイ……」


 叱られたリッタはぷくりと頬を膨らませる。

 その様は手を頬に添え良い意味であざとさを含んだ愛らしさを振り撒くラッコのようであった。


「リッタさん、今はお昼寝は……ええと、わたくし、眠くありませんので……ですのでもう少し歩きませんか?」


 ランが提案すれば、リッタはこくりと頷く。


 その様子を目にしたアイリーンは「そこは従う!?」とショックを受けたかのような顔を作っていた。


「じゃあ、リッタ、ランに、プレゼント」

「プレゼント? 何でしょうか?」


 リッタが「これ、あげる」と言ってタイトなショート丈ワンピースのポケットから取り出してきたのは――赤くて細いものが複数伸びているのが特徴的なキノコであった。


「ちょ、ちょっとリッタ、それは……」


 おかしな物を贈り物にするのを制止しようとするアイリーン、だったが。


「アカタケですね……!」


 ランは胸の前で両手のひらを合わせて喜んでいた。


「ありがとうございますリッタさん! わたくし、アカタケとても好きなのです!」

「そのまま、かじっても、美味しい」

「ええ! ええ! まさにその通りです……! アカタケは使い勝手のいい食材ですよね……!」


 この一件により、ランとリッタは急速に仲良くなる。


「リッタ、狩り、好き」

「それはすごいですね……!」


 二人は手を繋ぎながら歩き出した。


「陸、海、どっちも」

「へええ……!」


 大人しく清らかなランと自由奔放でさりげなく活動的なリッタ。二人のタイプは真逆。ただ、そのことが二人の絆を壊すことには繋がらなかった。二人の仲良し度はどんどん高まってゆくばかり。


「海、たくさん、美味しいもの、ある」

「それは素敵ですね。わたくし、海の幸にはあまり詳しくないのです。あまり海に馴染みのない地域で育ちましたので。いつか色々教えてください」


 話に入るタイミングを逃したアイリーンは二人の様子を見守りながら後ろを歩く。


「ウン。リッタ、ランに、海の幸、あげる」

「食べ慣れていませんがきちんと食べられるでしょうか……」

「ダイジョウブ、美味しい、きっと、好き」

「ふふ、ありがとうございますとても嬉しいです。それに、興味が湧いてまいりました。その時が来るのを楽しみにしております」


 アイリーンは二人が仲良くなれたことに安心し、束の間、彼女らから目を離す。というのも蝶が飛んできたのである。美しい、やや紫がかった青の羽根を持つ蝶だった。一匹だけで飛んできたそれは宝石のよう。アイリーンの意識はそちらへと向いた。アイリーンは片腕を伸ばすが、蝶はそこにとまることなく気ままな羽ばたきで飛んでいってしまう。拒まれたような形になってしまった彼女は切なげな目をして、アクセサリーにしてしまえればいいのに、なんて小さく呟いた。けれどもその声は小さいものであったから誰の耳にも届きはしなかった。



 ◆



 それは夜のことだった。


「サルキア殿、少しよろしいですかな?」

「はい」

「陛下に関することで」

「何でしょう」


 男に呼び止められたサルキアは心の中でだけ溜め息をつく。


 ――何を言われるかはもう分かっている。


「陛下はご夫人やご夫人候補などの女性のところへほぼ一度も行かれていないそうですな」

「そのようですね」

「このままでは世継ぎなど生まれませんぞ」

「……その件に関しましてはもう何度も話を聞きました」

「それだけ重要なことだということですぞ!」

「ですがそればかりは陛下のお心次第ですので。私に言われましてもどうしようもないことです」


 そう、最近の悩みの種といえばそれなのだ。


 まったくもって進展がない――!


 複数の女性を揃えているというのにオイラーは夜いつも自室から出てこない。

 女性と関わることが苦手、しかも、女性への興味も薄め。そんなことはサルキアとて知ってはいたが、まさかここまでだとは思ってはいなかった。


 なるようになる、なんて、生温いものではなかった……。


「ここは妹である貴女からばしっと言ってやってくだされ」

「口出しすべきことではないと考えます」

「いやいや! 困りますぞ! なんせ、この国の未来がかかっているのですからな」


 男はやたらと圧をかけてくる。


 だがそれは珍しいことではないのだ。

 ここのところ城内においてこういった会話は頻繁に発生している。


 皆この国の未来について気にしているのだろう――その気持ちはサルキアとて理解できないわけではないのだが、それでも、そのすべてをなすりつけられているような気がして疲れてしまう。


 偉大な兄に口煩くあれこれ言うようなことはしたくない……。


 けれども放っておいたらずっとこのままだろう。


 そうなれば結局周囲から嫌みを言われたり圧をかけられたりするのは自分ということになる……。


 兄の意思を尊重したい。

 本心はそうだ。

 だが周囲からの圧があるためそういうわけにもいかず、板挟み。


「……はぁ」


 サルキアはオイラーのもとへ行ってみることにした。

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