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3.それぞれの胸中

 ジルゼッタとランの挨拶が済んでから一時間ほどが経ったタイミングでサルキアはオイラーのもとへ向かった。そして「お二人の印象はいかがでしたか」と問えば、オイラーはそこで起こったことをすべて正直に明かした。もちろんその上で「悪い印象であったというわけではない」と付け加えたのだが。上手くいきそうにない雰囲気を感じ取ったサルキアは内心溜め息をついたが、それでも表情は崩さない。しかしその後オイラーが「アンからも目つきが怖いと指摘されてしまったしな」と冗談めかして話すと、彼女の表情は直前までと変わった。


 その場であれこれ言うことはしなかったサルキアだが、その心にはアンダーへの不快感が膨らんでいて――。


「で、何だよ急に呼び出しやがって」


 サルキアはアンダーを呼びつけた。


「貴方、陛下に対し『目つきが怖い』などと言ったそうですね」

「ん? ああ、まぁな」

「何ということを。陛下に対しそのような否定的なことを言うというのはあまりにも無礼ですよ」


 その言葉を聞いてサルキアが怒っているのだと察したアンダーは敢えて小さく口角を持ち上げた。


「そう怒んなって」


 だが逆効果。

 お気楽なアンダーの表情にサルキアはなおさら苛立つ。


「貴方はご自分の立ち位置を理解しているのですか?」

「仲は悪くねーな」

「そういう話ではありません!」

「じゃあ何なんだよ」

「アンダー、貴方は、あくまで陛下より下の立ち位置なのですよ」


 サルキアは腕組みをして眉間にしわを寄せる。


「にもかかわらず、貴方は言いたいことをすぐに言う。これは大きな問題です。身勝手な行動をされては困ります」

「そんな難しい顔してちゃしわしわになっちまうんじゃねーか?」

「話を変えないでください!」

「ま、何でもいーけどよ。オレはこれからも言いたいことは言うし好きなよーにする」


 暫しの沈黙、その果てに。


「アンタはオイラーを独裁者にでもしたいのか?」


 口を開いたのはアンダーだった。


「誰も何も言わねーってことはそーいうことだ」

「……そういう話では、ありません」

「はっきり言い返せねーってことはそーいうことだってことだろ。素直に認めりゃいーのに、可愛くねーな」

「それは本当に関係ありませんッ!!」

「ほら、言い返せることはそーやって言い返すじゃねーかよ」


 とにかく、と、アンダーは続ける。


「オレはオレの好きなよーにする。アンタにあれこれ言われる筋合いはまったくねーから。そもそもアンタに雇われてるわけじゃねーし」


 サルキアの眉間のしわはますます深く濃くなる。


「じゃな」


 アンダーは右手をひらひらさせながら去っていく。


 一人その場に残されたサルキアは「無礼な男」と口の中だけで呟いて片拳をぎゅっと握った。



 ◆



 王城内に存在する豪華絢爛な一室。

 そこには一人の女性が佇んでいる。


 王家の者に相応しい深みあるゴールドの長い髪。前髪はすべて持ち上げられているために一切ない。高い位置で結われた髪は艶やかで、結び目の部分を囲むように髪の一部が巻き付けられているためにより一層華やかなヘアスタイルとなっている。


 そんな女性――五十代くらいに見えるが――彼女は曇り空の日のような顔をしていた。


「なぜあのような女の息子が王となり優秀な我が娘がそやつに従わねばならぬのか」


 女性は傍に控えている護衛の青年に対してそのような疑問を投げかける。


「疑問しか生まれぬ。……そうであろう?」


 彼女の名はエリカ・エイヴェルン。

 先代国王の第二夫人、そして、サルキアの母である。


 気に入っていて日頃からよく着用している青みがかったグレーのドレスは彼女の胸の内を映し出す鏡のよう。


「返事は」

「はっ!」

「この国はおかしい、そうは思わぬか?」

「思います!」


 エリカは自身の娘が王となれなかったことを根に持っている。


「真に知性ある者が王となるべきではないか?」

「はい」

「それでこそ民を導けるというもの。あのような軍人遊びしかしておらぬ男に何ができるというのか」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  アンダーは確かに無礼、ではあるのでしょうけど。  あの一言がなければオイラーは誤解されたままだっただろうことに、サルキアは気付いていないのですかね……。  素のオイラーを引き出すアンダー…
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