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珈琲  作者: 魔物。
2/2

後編「響野誠」

私には昔から好意を寄せている相手がいる。


名前は響野誠(ひびの まこと)くん。

誠実で真面目で、でもちょっとおっちょこちょいで。

そんな彼が好き。


でも、彼は私のことなどあまり覚えていないだろう。

あの時の私とは全くの別人だから。


あれは数年ほど前、私達がまだ中学生だった頃の話。


彼は今とあまり変わらず、教室内で少し浮いているような存在で、ガラの悪い人達が多いこの場所ではイジメの()()にされていた。


トイレに行けば水を掛けられ、本を読めば破られて、口答えをすれば拳が飛んでくる。


そんなのが日常茶飯事、彼に休める場所はない。


そして、かく言う私も彼と同類だった。


トイレに行けば噂が立ち、本を読めば陰口を言われ、口答えをすれば髪を切られる。


彼も私も生き地獄を這いずり回っていた。

なぜ生きているのだろう、なぜこんなに辛いのだろう。


理由もなくただただおとなしいというだけでイジメられ、虐げられ、汚される。


平穏な日常なんて何処にもない。


誰もこの気持ちを理解してくれる人は居ない。

でも、唯一理解してくれる人が居た、そう、彼、響野(ひびの)くん。

まだ1度も話したことはない、でも、彼は私と同類で。


そう考えるだけで唯一生きていられた。


ある時、私は決心した。

一度話しかけようと。

仲良くなって話せるようになればこの今の気持ちももっと軽くなるんじゃないかって。

そう思った。


「あ、あの…!ひ、響野(ひびの)…くん…響野(ひびの)(まこと)…くん」


私は今世紀最大の勇気を振り絞った。

のに、邪魔が入った。


「お〜い!樫原(かしわら)響野(ひびの)に告白してるぞ〜!!」

「え、マジ!?樫原(かしえあら)、顔だけはいいからなぁ」

「おい、やめとけって、身体はアザだらけって聞くぜ」


彼に話しかけるタイミングをシクジッた。

どうして私は周りが見れないのか。

こんな状況になっても「あ…ぅあ…の」という怪物のような声しか出なかった。


すると、「ち、違うよ、ぼぼ、僕がこの本を貸せって、えっ…と、きょ、そう、脅迫したんだ!」


急に素っ頓狂なことを言う彼に驚いて声も出なかった。


そして、彼の思惑なのか、たまたまなのか、たちまちヘイトは彼へ向けられる。


「へぇ…なんだよ響野(ひびの)、面白そうな本だなぁ」

「お、よこせよそれ!」


ガラの悪い男子が彼から本を取り上げる。


「なになに…?珈琲の全て…?」

「何だよそれ!バリスタにでもなるのかな?」

「そんなのばっかり読んでたらクリスマスも近いのに苦い思い出しか残らなくなるぞ〜!珈琲だけにな!」


別に面白くもない冗談を吐きつつ彼を罵倒していく。


キーンコーンカーンコーン


休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴り先生が教室へ入ってくる。


「おーい、お前ら席につけー」


なんとなく命拾いした気がしていた。


それから放課後。


「ありがとう」を伝えるために彼を探していた。

でも何処にも見当たらなかった。

その日はそのまま家に帰ってしまった。


次も重い鞄と重い足を引きずって学校まで登校した。


今日こそは彼に思いを伝たかったから。


でも、彼はその日登校してこなかった。

いつまでも待った、でも彼が顔を見せることは無かった。


最後の希望にかけようと思った、先生がいつも彼に持っていくプリントの中に手紙を紛れ込ませた。


「クリスマスの日、学校に来て。」


こんなので来るわけがない、そんなのわかっていた、でも信じたかった、伝えたかった。


彼に。


好きだと。


そしてクリスマス当日、皆は休みで先生も居ない学校に忍び込んだ。

いつもの教室に行き、少し探索した。


すると、あまり使われていない空き教室から声が聞こえてきた。

聞くだけで何をしているのかは解った。


この時期に誰も居ない場所でこんな声…。

1つしかない。


私は興味本位だけで近づいてしまった。


バレないようにゆっくり近づきガラスを覗く。

見た光景は案の定だった、いつもの不良生徒男女が()()()()()()だった。


純粋無垢な私は思わず顔を赤くしその場を離れようとした、それが間違えだった。


急いでUターンを行ったがために、ドアを蹴ってしまった。

そこからはご想像の通り。


「おい!そこに誰かいんのか!?」

「あれ、樫原(かしわら)じゃね?」

「なんで人がいるのよ」

「ねぇ〜あんなのいいから続きしようよ〜」


全員が私を白い目で見る。


「いや、ここで帰すわけには行かねぇしなぁ、いいこと思いついたぜ。」


私は嫌な予感がし、すぐに逃げようとしたが逃れることは出来なかった。


服を強引に脱がされ、身体を上から下、下から上えと(まさぐ)られる。


恐怖で声は出せなかった、痛い、気持ち悪い。


「へへ、樫原(かしわら)ぁ…気持ちいいよなぁ?俺も気持ちいいぜ。」

「お前がっつき過ぎ、にしてもこんな綺麗な身体してるたぁなぁ…噂は噂に留まったわけだ。」

「ねぇ、私もかまってよぉ」


苦しい、助けて…誰か…、


「助けて…」


振り絞った声は虚しくも不良の声にかき消された。


すると突然不良の動きが止まりなにか言っている、誰かが来た様だった。


「や、やめろ!!」


聞き覚えのある声がした。


「おいおい、響野(ひびの)かよ、ビビらせんなよ」

「お!丁度いいやお前も加わるか??」


歪んだ視界の中、彼の視線が私に向けられたことに気付いた。


あぁ、こんな情けない姿を見られてしまった。

何もかも終わりだ……そう考えていた。


「か、樫原(かしわら)さんは嫌がってるだろ!やめろ!!」


そう言って彼は不良にタックルをした。


ただただ見ていた、彼が私のために戦っている姿を。

殴られ蹴られ、返り討ちにされても立ちあがる姿を。


不良は彼の気迫に押されたのか「も、もういい、冷めたし帰るわ」と言って不良達は解散していった。


ここに残ったのはボロボロな私と、ボロボロな響野(ひびの)くん、彼のみだった。


暫くはお互い気まずくなり黙っていた。


「あ、あの、大丈夫です…か…?えと、その…服…」


彼から手渡された服を慌てて着た。


「え、と、じ、じゃぁ、僕はこれで…。」


気まずくなったのか帰ろうとする彼の袖を掴み引き止めた。

このまま後悔したくない、彼に伝えたかった言葉も言えずに、このままなんて。


「ごめんなさい。」


震える声を振り絞り彼に伝える。


「私、こんなことになるなんて…本当は君と話をしたかっただけなのに…」


本当に申し訳ないと思っていた、私がここへ呼ばなければお互いこんな事にはならなかった。


でも、彼は優しかった。


「だだ、大丈夫だよ…、あ、と…えっと…こ、これ飲む?ど、道中で買ってきたんだけど…。」


彼は私に珈琲缶をくれた。

少し時間が経っているのだろうか、生温い。


けど……。

すごく温かかった、嬉しかった。


「ありがとう。」


自然と涙が頬を伝っていた。


それから私達は少し公園へ寄り道してそのまま帰宅した。


話した内容は他愛ない事ばかりだった。

趣味な話に珈琲の話、彼の話を聞いていると心が安らいだ。


そして、休日が明けた、彼と合うのが楽しみで仕方なかった、休日の間も特に何をするわけでもなく家でゴロゴロしていただけだった。


教室に誰よりも早く来て自分の席に座り彼を待つ、人が入ってくるたびに目を合わせないように確認して行く。


だが、どれだけ人が来ようとも彼の姿は確認出来なかった。


毎日毎日、教室に来ては彼を探した。

だが、彼が姿を表すことはなかった。


最初は何かあったのかとも思ったけど、あとから聞いた話では、休日を境に引っ越しをしてしまったらしい。


裏切られたという感情と、彼が地獄から抜け出せて嬉しいという気持ちが入り交ざっていた。


そして私は決めた、次彼似合う時には変わっていようと。


努力した、メイクも覚えたし、勉強もした、人から舐められないようにコミュニケーションも身に着けた。


あれから数年後。


彼が何処に行ったのかも調べていた。

もちろんすぐにわかった、SNSで珈琲と検索して似たような雰囲気の人を探せば一瞬だった。


そこからは順当に、彼の行き先、受ける大学、偏差値、全てを調べた。

あとは彼の入る大学に入るのみ。


最初に彼を見かけたときは感動した、すぐに話しかけようとも思ったが、それでは変人扱いされてしまうと思い周りから埋めていった、たまに近くの席に座りさり気なくアピールもした。

けれど彼は気付いてくれなかった、かと言って「久しぶり!」と話しかけに行くのも気が引けた。


そこで、大学で出来た知り合いに彼の事を一度聞いてみた。


「え?あの子?ん〜なんか虐められてるらしいよ、ずっと本読んでて不気味だとか言って、男子は本当ああいうのからかうの好きだよね〜」


私はいじめている奴らへの怒りと気付けなかった自分への情けない気持ちでいっぱいだった。


「決めた、一気に距離を詰めよう」


もう遅いかもしれない、けれど私が関与することで助けられるなら、恩返しが出来るなら…。


決行するのは簡単だった、彼が好きそうなカフェを見つけて、そこに誘うだけ。


その後は彼といっぱい話した、趣味のことや他愛ない世間話。

何気ない、そんな数日間が楽しかった。


奴が来るまでは。


ある日、授業が早めに終わり、いつものカフェで彼を待っていた。


カランカラン


入ってきたのは彼ではなく、見覚えのある、いや、忘れたくても忘れられない顔だった。


「よぉ、樫原(かしわら)ぁ。だいぶ垢抜けちまってよぉ、いや、垢抜けさせたのは俺かぁ!」


あの日のクリスマスの記憶が蘇る、思い出しただけで吐き気がしてきた。


「なぁ、聞いたぜ、響野(ひびの)とまたつるんでるんだってな、いやぁ妬いちゃうなぁ。」


なんで今頃になってこいつが出てきたのか、何処から嗅ぎつけたのかわからない、わからないけど、なにか言わせるのはまずいような気がしていた。


「何よ!今更出てきて!もう関係ないでしょ!?出ていってよ!!」


早くここから離れたかった、けれど、彼も待ちたい。


「おっとっと、怖いなぁ〜。まぁ、そんなこと言ってられるのは今のうちだけどね。」


そう言って私にスマホの画面を見せる。


そう、写っていたのはいつかの()()()()()の私。


()()、ばら撒いちゃおうかなぁ。」


嫌な予感が的中した。


「やめて!!」


焦る私を見た相手はニヤリと笑い話し続ける。


「おーけー、おーけー。どうどうどう。

俺は別に樫原(かしわら)、お前を陥れたいんじゃあない。

俺が貶めたいのは奴、響野(ひびの)なんだよ。」


それを聞いて理由が解らなかった。

そこまで執着する理由が。


「どうしてって顔だな。

まぁ、良いだろう特別に教えてやるよ。」


相手は聞いてもいない()()()()を始めた。


「中学の頃、覚えてるか?俺は大半の女を抱いた、()()でだ!凄いだろう?モテてたんだよ。

でも、俺が持ててた理由はヤれるから。

そんな中で純粋にモテていたやつが居た、響野(ひびの)だよ。」


響野(ひびの)くんが…?」


「あぁ、顔が良ければ性格も良い、()()()ってこと以外はモテるのに十分な条件だ。

俺はそんなあいつが嫌いだった、俺は努力したのになんであんな陰キャがモテるんだよ、おかしいだろ!?」


そんなことで…。


「でも、響野(ひびの)くんがモテてたなんて聞いたこと無いし、貴方の勘違い何じゃ」


「俺が女を全員()()()()って言ったらどうする?周りの男子は全員俺の()()()()()って言ったらどうする?」


そんな…


「それが真実でそれが全てだ、そして樫原(かしわら)、お前は人に好かれるような人間じゃあ無かった、人を好きになる事ももっての外、でも、駄目だった、お前までもアイツの事を好きになった、許せねぇ…。」


その思想はなんとも独裁者で人を人とも思わない…私は一番嫌いなタイプだ。


「あいつが運良く引っ越してお前と引っ付くことは無いと思ってたのに、ここまで動くとはな、更には昔より綺麗になりやがって…。…許せねぇ許せねぇんだよ!!てめえ等の存在がぁ!」


理不尽極まりない。身勝手で我儘、心が子供なんだろう…。


「だから、俺は決めたお前は俺の女になれ、そしてあいつに、響野に近寄るな。近寄ったら…どうなるか解ってるよな…?この動画も拡散するし、響野には最悪死んでもらう。どうだ??この条件を飲むか…??」


響野(ひびの)くんに何も無いなら、それでいいと思った、私が身代わりになって彼を助けられるなら…。、


「わかった。」


それから数日間、部屋に軟禁され出て良いのは買い物をする時、大学には極力出ないように言われ、都合が悪ければ体調不良で休むように言われた。


心は疲弊していった、彼の前から突然消えて嫌われてないか、彼の声が聞きたい、そんなことばかり考えていた。


ある日、今日はクリスマスイブ。


「おい、今日はイブだ今日と明日で他の奴ら連れて前のクリスマスみたいにパーティを開くぞ。」


逆らえなかった、ただ黙ってついていくしか無かった。


ついた場所はあのいつものカフェだった。


「ここは…。」


男はニヤリと口角を上げた。


「ここはあいつとの思い出の場所になったんだよなぁ?なら、俺達で思い出を塗り替えようぜ。」


背中がゾッとした、これから行われる事を考えただけで吐き気がする。

そして半ば強引にカフェに入れられる。


すると、いつもの席に、あの席に、彼がいた、彼は私が消えてもずっとここに居続けたのだ、私は、私は…。


もう何も考えられなかった、自分が情けなかった、いつの間にか私はその場に倒れていた。

ずっと待ってくれていた、私を信じて。


ごめんなさい…。


目がさめた時には彼は居なかった、貸し切りの暗いカフェであの日聞いたような声が響く。

あの日のことを思い出した、あの日、あの日あの場所にいなければ、彼ともっと違う場所で…。


息を潜め、クッションを身代わりにそこを離れることを成功させた。

あの時とは違う、同じ事はやらかさない、そして私は彼と一緒に…!


でも、彼の行き先はわからない、知っているのは、彼の家のみ。


忙いだ、愛が重たくても、なんでもいい、死んでも良い、でも彼と最後に一言でも交わしたい。

必死に走った、胸が張り裂けそうで肺が痛い、風が冷たい、でも、走った。


ピーン、ポーン


ヒューヒューと息をしながらチャイムを鳴らす。


返事もなければ部屋の明かりもついていない。

でも、部屋の鍵は閉まっていない、なにか、根拠はない、根拠はないが、嫌な予感がした。


響野(ひびの)くん!!」


扉を開けると、宙に浮く彼の姿がそこにはあった。


私のせいで、私のせいで、私のせいで…私のせいで!!


急いで床に倒れた梯子を使い彼に巻き付いた縄を解く。


ドサッァ


完全に力が抜けて気絶しているようで、私では支えきることは出来なかった。

私は彼を抱きしめた、精一杯。


「ごめんなさい。」


その後は救急車を呼び運んでもらった、どうにか一命は取り留めた。


彼には悪い事をした、私と関わってなければこんなことにはならなかったのに。

そんなことばかり考えていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい響野(ひびの)くん…。ごめんなさい。」


すると突然頭に温かさを感じた。


「だ、大丈夫だよ、ぼ、僕こそ迷惑かけてごめんね…。僕、樫原(かしわら)さんに嫌われたかと思ったよ…。」


彼は目を覚ましたのだ。


「ううん、迷惑なんて無い、嫌ってなんか無い!」


「…、ずっと樫原(かしわら)さんだって気付かなくてごめんね、そして、急にいなくなってごめんね、」


いつから私だと樫原優花(かしわら ゆか)が同一人物だと気付いていたのか…。


「いつから…それを…。」


「君と話てて、何となく、でも確信は無かった、だからいつか聞こうかと思って」


それで私が居なくなってしまったと…。


「……私…私…。」


喉の奥まで出て来ていてあと一歩勇気が足りない。

言いたい、この気持ちを、伝えたい。


彼が私の手を握る。


……、。


「私、ずっと、ずっっっと貴方のことが大好きで、大好きで、大好きだったの!!!ずっと会いたかったの!!!」


彼は泣きながら愛を叫ぶ私を見て。


「知ってる」と微笑んだ。

どうも皆様、ここまで読んでいただきありがとうございます!!


ん~クリスマスには特に思い出はないですが、あげるならサンタさんからのプレゼントでしたね。

朝起きて物があるか確認するときが一番ドキドキするし楽しかった。


おy...サンタさんに感謝!


ということで今回の話はクリスマスに繰り広げられた、特にクリスマスでなくてもいい話でした。

外でふと思いついて「よし、書こう!」っていう勢いで書きました...。

恐らく、辻褄が合っていなかったり、誤字脱字があったりがあるかもしれませんが、少しでも皆様の心を動かせれば嬉しいです。


それでは、長々とお話ししましたが、今年ももう終わりですね。

来年も魔物。の作品をどうかよろしくお願いします。


それでは、またどこかでお会い致しましょう。

よいお年を。

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