前編「樫原優花」
どうも皆さん魔物。です。
クリスマスの為に書き下ろした短編小説になっております。
今回の話は前編と後編に分けて書いております。
後編が楽しみになるように前編を書いておりますので、是非とも前編、後編共にお楽しみ下さい!
~この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません~
夜の街は賑わい、誰もが浮かれている。
もし本当にサンタさんが居るのなら、プレゼントは珈琲が欲しい。
12月24日、世間はクリスマスイブと称してクリスマスの前夜を祝う日。
僕は部屋の中で死ぬための準備をしていた。
部屋の外から聞こえる街の雑音が孤独感を引き立てる。
古びたアパートの暗い1室で小さめな梯子を立てる。
そこにゆっくりと登り、天井に縄を淡々と結んで行く。
手をボロボロにしながらも縄を結び終わった頃、耳に残るように甲高い音がお湯が沸騰したことを伝える。
少し慌てて梯子を降り火を止める。
いつもの場所からいつもの珈琲の豆を取り出し、挽く所から淹れて行く。
いい感じに部屋中に珈琲の匂いが充満した頃、少し蒸らして口へ運ぶ。
珈琲が過去の苦い記憶を蘇らせる。
事の発端は約1ヶ月前に遡る。
僕は冴えない、ただのモブの様な大学生だった。
そしてそんなモブにも好きな人が居た。
名前は樫原優花。
彼女は皆の人気者で、どんなモブにも、どんな人にも等しく優しい。
当然僕にも良くしてくれる。
物を落とした時は愛想良く、「落としましたよ」
修正ペンを忘れた時にたまたま席が近い時は「貸しましょうか?」
僕が文化祭で売店の仕事をしていてた時にたまたまお客さんとして来てくれた時は「頑張ってくださいね」
彼女はこんな僕にも愛想良く振る舞ってくれる。
そして、そんな何気ない会話も嬉しく思うほどに彼女のことが好きになっていた。
そんなある日、事は起きた。
何故か、僕は彼女に呼ばれて街門にある落ち着いた雰囲気のカフェに来ていた。
こんな事、どれだけ想像したか。
高嶺の花だと、自分には程遠い存在だと思っていた人からお茶を誘われたのだ。
お互いに珈琲を頼み、少しの間無言の時間が続いた。
そんな中、口火を切ったのは彼女だった。
「あの…きゅ、急に呼び出してしまってごめんなさい。」
普段人と話さない僕は人間としてのコミュニケーションが取れなかった。
「え、あ、えっっと、だだだ、大丈夫ですよ、あはは。」
自分自身、言葉を発しているのかどうなのかも解っていなかった。
「ありがとうございます、実はこのお店、私の行きつけで…、珈琲が好きと聞いたので1度お連れしたかったのです…」
僕は話についていけなかった、憧れの人が僕のことを知っていた…?
その上で話しかけた…?
理由がわからなかった、何もかも。
考えられなかった、脳で考える前に脊髄が勝手に言葉を発していた。
「な、なんでそんな事…」
彼女はそう問われ冷静に返事をした。
「実は…前々から貴方の事を知っていて…、ずっと話してみたいと思っていたんですよね…、すみません、こんなの気持ち悪いですよね…」
突然の卑下に僕は焦り「そ、そそ、そんなこと無いですよ!む、寧ろ嬉しいと言うかなんというか…」と返していた。
すると彼女は「ふふ、良かったです」と胸を撫で下ろし、僕に微笑んだ。
顔を見ていられないほど眩しかった。
それを境に大学の受講後は彼女とよく話すようになっていった。
お互いの趣味の話、珈琲の話、友人関係の話。
もちろん、あのカフェで。
楽しかった、人と話していて楽しいと感じたことは初めてだった。
僕は今まで人を避けてきた、話しても楽しく無いし、良いことなんて無かったから。
でも、今回は違う、相手が僕自身に好意があり、僕自身も、話をしていて楽しかった。
趣味の話をしている時も、世間話をしている時も、彼女の愚痴を聞いているときも。
彼女の笑顔が僕の心を光で満たして行った。
もう明日死んでもいい、それと同時に、まだ死にたくない、そんな複雑な感情が心地よかった。
そして、約二週間が過ぎた頃…。
突然、彼女と連絡が取れなくなっていた。
前触れはあった。
彼女は時々話していても心此処に非ずというか、なにかそわそわしている時があった。
それが日に日に増えて来たのと同時に、会える時間が少なくなっていった。
最初は「僕をイジって楽しんでいただけだったのか…」そう思っていた。
だが、大学にも来る回数が減り、今では大学に行っても彼女は居ない、それどころか誰も彼女の話をしていなかった。
何かが変だった、失踪したにしては誰も噂をしていない、何なら今まで話していた人達も特に気にしている様子はなった。
僕は何かが起こっていると考え、まずは彼女の友人だったはずの人に話を聞いて回った。
「樫原優花さんは今どこに…?連絡が取れなくて…」
だが、全員が全員、誰に聞いても返ってくる返答は
「誰?」
だった。
そう、元から居なかったかの様に。
僕は彼女を探そうとした、でも、彼女の家も連絡先も何も知らなかった。
いつも大学の終わりにいつものカフェで待ち合わせをしていたから。
だから、毎日毎日あのカフェに通った、彼女にまた逢えることを信じて。
だが、いくら待っても彼女が来ることは無かった。
そして12月24日の朝。
これで最後にしようと思った。
これ以上探す意味が、生きる意味が解らなくなっていた。
1ヶ月は彼女を見ていない、探す宛もない。
今日は休講、朝からずっと居座った、いつもの珈琲を頼んで。
少し周りが暗くなってきた頃、あまり客が来ないこの店にグループ客が来店した。
恐らく同じぐらいの歳の大学生だと見てわかった。
そのグループは彼女が良くつるんでいた人達だったから。
あまりジロジロ見ていると不審がられるので珈琲の揺らめくカップをジッと見つめていた。
すると先程のグループがざわざわとしだす。
話の内容は聞こえなかったが、明確にわかることが一つあった、こちらにそのグループが近付いている。
こちら側に席が空いているわけでは無い。
こちらに何かを言いに来ているのが明確にわかった。
「おい、てめぇ、優花のストーカーだな?」
「まだここに来てたのかよ!」
「え!まじぃ!?きもー!かなち良くこんなのと一緒に居れたね!」
脳は全然動いていなかったが、感覚ではなんとなくわかっていた。
今がどういう状況なのかを。
顔を上げるのが怖かった、本当に彼女が、樫原優花がその場に居たとして、僕はその現実を受け入れられるだろうか。
いや、無理だろう。
でも、ここでこのまま何もせずに終わるのも嫌だった。
だって、彼女に逢う為にこのカフェに通い続けたのだから。
勇気を振り絞って顔を上げた。
その瞬間、彼女と、樫原優花と目が合った。
だが、彼女は心此処に非ずといった感じだった。
あの時彼女は何を考え、何を見たのかはわからない、だが目が合った次の瞬間。
ドサッ!
「う、うげぇえええ……」
「おい!どうした!?大丈夫か!?」
「かなち!?」
彼女はその場で倒れ込み嘔吐した。
それからのことはもうあまり覚えていない、その場から必死で走り去った。
どこへ行くわけでもなく、ただ走った。
理由もわからず、ただただ走った。
気づけばもう夜。
途中からは疲れて徒歩になり、何も考えずにひたすら歩いた。
結局、辿り着いたのは家の前だった。
どういうルートで帰ってきたのかはわからない、ただ覚えているのは彼女のあの光景。
目から、頭から離れない。
彼女は僕を酷く拒絶していた、嘔吐するほどに。
周りを見渡す。
世の中はカップルで溢れかえり、眩しいほどのライトアップが僕を照らす。
周りを見れば見るほど1人の僕は浮いていて、僕は騙されていたのに浮かれていただけだったことが明らかになる。
怖い、怖い、怖い、怖い。
もう何も信用できない。
いっその事……
消えてしまいたい。
ただその言葉が脳裏に過った。
もうどうでもよかった、こんなのなら、生きていてもしょうが無い。
理由がない。
彼女は拒絶したのだ、僕を。
遊びだったのだ、全て。
何かに誘われるかのように僕は部屋へと入った。
スマホで縄の結び方を調べた後、小さめな梯子を使い部屋の天井に縄を結っていく。
梯子も縄も、昔同じ事をしようとした時に買ったものだ。
あの時は親に止められてしまった。
だが、今はもう止めるものなど、邪魔する者などもう居ない。
大好きな珈琲を淹れ最後の晩餐を楽しむ。
過去のものになってしまった彼女の笑顔が甦る。
辛かった、今記憶から彼女を消せるならなんでもいい。
ゆっくりと梯子を登り、首に縄を掛ける。
そして、そのまま勢いを付けて梯子を蹴飛ばす。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。
痛い、痛い、怖い、助けて、誰か、助けて。
意識が薄れていく、視界が掠れていく。
どう藻掻いても、どう足掻いても、自分にはもうどうすることもできない。
苦しい、苦しい…助けて…、。
死にたく…な…………い…。
「ごめんなさい。」
僕は薄れる意識の中で、彼女の声が聞こえた気がした…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
んん~まさかの展開。
樫原優花、彼女が何を思い何があったのか、気になるよね~。
と言う事で後編へ続きます。




