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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どんな事件も100%解決します

作者: 若狭巴

「あーー。暇だ。何で俺だけ留守番なんだよ」


ソファーに体を沈め枕に顔を押し付ける。


「大体何だよ。ユーリのやつ。なーにが『今日は依頼人ががくるからちゃんと一人でもやれよ。こっちは俺達だけで問題ないから。それにそっちはお前の能力じゃないと意味ないからな。くれぐれも馬鹿な真似はするなよ』って、何様なんだあいつは。俺はガキか」


朝の出来事を思い出し枕を殴る。


「はぁ、いつになったら依頼人が来るんだよ。絶対あいつロゼと二人が良かっただけだろ」


一人だと何もやる気が起きずうなだれていると、カランカランとドアが開く音が聞こえた。


声を出すのも面倒で目だけ動かし扉の方を見る。


「すみません。あの、ここは悲願を叶えてくれる場所ですか?」


今にも倒れそうなほど顔の生気がない女性が声をかける。


「ええ、そうです」


ソファーから立ち上がり仕事モードに瞬時に切り替える。


「お願いです。どうか、私の悲願を叶えてください」


女性は黒い彼岸花の花の造花を差し出す。


「わかりました。貴方の悲願確かに受け取りました」


黒い彼岸花の造花を受け取るとそう言う。




「では、まず自己紹介からしましょう。俺はカガチと言います。今回貴方の悲願を叶える手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします」


ソファーに座るよう促しお茶を置き女性を落ち着かせるよう自分から名をのる。


「はい。私は九十九秋子(つくもあきこ)です」


「九十九さん。貴方の悲願を聞く前に注意事項を三つ言います。これを守ることができないのなら依頼を受けることはできません」


九十九の顔が強張っていくのがわかるが話を続ける。


「一つ目はこの依頼中に起きたことは他言無用でお願いします」


九十九はそれくらいならと頷く。


「二つ目、俺が何しようと何も聞かないでください。そして黙って指示に従ってください」


女性はどういうことだとよくわかっていないが「わかりました」と頷く。


「三つ目、これが一番重要です。俺のことそしてこの場所のことは絶対誰には言わないでください」


カガチと目が合う。


その瞳に引き込まれ視線を逸らすことができなかった。


「以上です。この三つを守れると誓えるのなら九十九さんの悲願を叶えると約束します」


「わかりました。誓います。どうかお願いです。私の願いを叶えてください」


「わかりました。契約成立です。では、貴方の悲願を聞かせてください」


九十九はゆっくり話し始める。




「って言うわけだからさ悪いんだけど、アザミさんその事件のこと教えて」


語尾にハートマークがつきそうなくらい甘えるような声で言う。


『気持ち悪い声を出すな。鳥肌がたった』


「ひどーい。なぁ、頼むよアザミさん」


『アオイに頼めばいいだろ』


いつもならそうするのに何故自分にと面倒くさそうに言う。


「……アオイさんはあの二人に取られた」


『何だ?今回の悲願はお前一人でやるのか?大丈夫か?てか、お留守番させられたのか』


「……」


哀れむような馬鹿にされる。


文句を言いたいがその通りなので何も言い返さない。


『それなら仕方ないな。わかった、今すぐ調べる。少し待て、後で連絡する。じゃあな』


笑いを我慢しながら電話を切る。


「はあ、連絡くるまで少し間寝るか」


九十九から話を聞いた後、依頼達成したらまた連絡すると言って帰って貰った。


聞いた話し、読み取った情報を整理する為、目を閉じ眠りについた。




三日後。


「遅い」


『お前な、俺は普通に仕事しながらお前の件も調べてるんだぞ』


「感謝してます」


『詳細はメールに送った。ただ、見た感じなんかあるな。これ』


「刑事の勘ってやつ?」


アザミさんの管は当たる。


それも嫌な方は百発百中。


『そうだ。とりあえず夜そっちに行く。後でな』


言うことだけ言ってさっさと切る。


「さてと、確認、確認」


メールを開き九十九の話と照らし合わせる。




九十九の依頼は簡単に言えば娘の秋菜(あきな)を殺した犯人を見つけて欲しい。


アザミさんから送られた事件の詳細は自殺で処理された内容のもの。


九十九は娘はは殺されたと主張したか、警察はそれを自殺と判断した。


そう判断したのは本人筆跡の遺書があったからだ。


ーーもう嫌だ。こんな人生終わらせてやる。


九十九からも聞いていたので遺書の内容は知っていた。


これは遺書ともとれるし違うとも言える。


まぁ、死体の傍にあれば遺書と思われても仕方ない。


秋菜が死んだ理由は恋人に振られたからと結論っけられた。


幼稚な理由だと思うたったが、逆恨みで人を殺すものもいる。


当人しかわからないものがあるのだろう。


九十九が話した内容通り警察の供述にも同じことが書かれていた。


秋菜は当時二年交際していた男、青柳塔矢(あおやなぎとうや)に振られ親友だった松本花凛(まつもとかりん)に奪われた。


話を聞いているとき「昼ドラかよ」とうんざりした。


九十九の予想では恋人だった塔矢か親友だった花凛のどちらかが犯人だと。


カガチももし本当に秋菜が殺されたのなら二人のうちのどちらかだろうと考えていた。


アザミから連絡が来るまでの間、カガチは九十九から二人の名前と現在のことを教えてもらっていたので話しかけはしなかったが確認しに行った。


二人はまだ恋人同士で秋菜が死んでからも付き合っている。


近々結婚すると周囲に言っている。


娘を殺したかもしれない者が幸せになるなんて母親からしたら許せないだろう。


手っ取り早く過去を覗こうかと思ったが、接触するのが難しくその日は諦めた。


過去を覗くにも条件がある。


どうしたものか、と物思いにふけっていると電話が鳴る。


「はい。こちら悲願花です」


『あの、私、九十九秋子です」


「ああ、九十九さんですか。どうかしましたか?」


『その、もしかしたら事件に関係するかもしれない娘の日記を見つけたのですが、今からそちらに伺ってもいいですか?勘違いかもしれないですけど。もしかしたら何かの役に立つかもしれないと思いまして』


「はい。大丈夫です。よろしければこちらから伺いましょうか?」


『いえ、そんなご迷惑をおかけるするわけには』


「迷惑なんてとんでもない。他にも何か手掛かりが見つかるかもしれませんので、宜しければ他の物を見してもらうことはできませんか?」


死んでから七年経っているので余程強い想いでなければ覗くことはできないが念のため試してみようと了承する。


『……わかりました。こちらでお待ちしております』


「はい。すぐに伺います」


電話を切るとカガチは急いで着替え家を出る。




「ここか?」


表札を確認しインターホンを押す。


ピンポーン。


『はい』


「カガチです」


『今開けます』


ガチャと音がするとバタバタと足音が近づく音が聞こえる。


「どうぞ」


扉を開け中に入るよう促す。


「ありがとうございます。お邪魔します」


中に入ると家の中は暗く重い空気が流れていた。


一人娘が死にこの家もまたその日死んだのだろう。


「どうぞ」


冷たい麦茶をカガチの前に置く。


「ありがとうございます」


ちょうど喉が渇いていたので一気に飲み干す。


「あの、電話で話した日記です」


九十九がおずおずと机の上に置く。


「見ても」


「はい、どうぞ」


九十九の許可を貰いページを開く。




七月十七日


塔矢と付き合うことになった。


ずっと好きだったから嬉しかった。


告白されたときは夢かと思った。



十二月二十四日


今日はデートした。


遊園地に行った。


プレゼントでネックレスを貰った。


一生大事にする。



四月九日



新しいクラス。


塔矢と違うクラス。


悲しい。


花凛は塔矢と一緒のクラス。


羨ましい。



八月十三日


最近塔矢と花凛の仲がいい。


クラスが一緒だからだろうか。


羨ましい。


私も二人と一緒のクラスが良かった。



一月一日


今年も塔矢と初詣。


雪が降った。


また二人で一緒に行きたい。



五月二十八日


最近塔矢の様子がおかしい。


何かあったのかな。



九月九日


塔矢に振られた。


他に好きな人ができたと言われた



九月十日


塔矢と花凛が手を繋いで登校してきた。


塔矢の好きな人は花凛だった。


昨日別れたばかりなのに、二人はいつからそういう関係だったの?


私は昨日恋人を失い、今日は親友を失った。



十月十一日


最近誰かにつけられている気がする。


怖い。



十一月三日


今日は手紙が入っていた。


お前なんて死ね、って書かれていた。


怖い。



十二月十五日


今日陸橋から突き落とされた。


このままでは殺される。



一月十六日


ーーから呼び出された。


会いたくない。




一月十六日で最後。


秋菜が死んだのは次の日の十七日。


最後のページの誰に呼び出されたのかその部分だけ染みていて読めない。


「あの、これはいつ見つけたのですか?」


「昨日です」


昨日?七年もあったのに見つけられなかったのかと問いただしたくなったが、ノートは学校で使うようなもので「数学A」とカモフラージュされていた。


気づかなくても当然かもしれない。


「すみませんが、暫くの間預かってもいいですか。手掛かりを探したいので」


「はい。よろしくお願いします」


九十九は深く頭を下げカガチになんとしてでも秋菜を殺した犯人を見つけて欲しいと頼む。


カガチはそれから部屋の中を調べ何か重要なものはないか探したが、日記以上に過去を調べられるものがないのでお暇することにした。


「では、このへんで失礼します。悲願が完了するまで暫くお待ち下さい」


ペコッと頭を下げ事務所兼家へと戻る。




「さてと、覗くか」


家につくとソファーに座り日記の上に手を置き能力を発動する。


カガチの目の色が紅くなる。


目を閉じて秋菜がどんな想いでノートに書いていたのかそれを覗く。


書いた時間は少ないが二年近くの量なので全て覗くのに二時間近くかかった。


「なるほど、そういうことか」


日記から手を離し目を開ける。


「ほら、水。飲むだろう」


「ああ、ありがとう」


差し出されたコップを受け取り水を口に含む。


ん?


え、誰?


驚きすぎて変なところに水がはいりむせる。


声のした方に視線を向けるとそこにアザミがいた。


「おいおい、大丈夫か?」


ハンカチを出す。


カガチはそれを受け取り口元を拭く。


「大丈夫なわけないだろ。全く俺は繊細なんだから驚かさないでせめてくれよ。次からは声かけてから入ってくれよな」


「俺は何度も声かけたが反応がなかったから入ったんだ。能力使ってるときはお前例え爆発が起きても気づかないだろう」


その通り過ぎて何も言えない、そんなカガチを無視して話を続ける。


「いつも言ってるが能力を使うときは誰か人がいるときにしろ。殺されても文句言えねぇぞ」


「悪かった。もう、しない」


それが本当ならいいんだがな、という言葉は飲み込みカガチの頭をぐしゃぐしゃにする。


「で、何を見たんだ」


ドカッとソファーに座り尋ねる。


「依頼人の娘の二年間の記憶だよ。殺されるまでの」


「自殺じゃなく他殺なのか?」


「それは、まだわからない」


「わからない?」


言っている意味がわからん、と説明するよう求めてくる。


「ああ、自殺の可能性もあるし他殺の可能性もある。これだけじゃ最後は読み取れない。その場にいたもう一人に会いにいくしかない」


日記を指で叩きながら言う。


「アザミさん」


「嫌だ」


カガチが何を頼むか予想できて先に断る。


「まだ、何も言ってない」


「どうせ、そのもう一人の過去を覗きたいからいつものようにやれと言うだろ」


「流石、アザミさん。よくわかってる」


「やらんからな」


さっきよりも強く言う。


「そこを何とか。頼むよ、アザミさん」


「くっつくな。無理なもんは無理だ」


「そこを何とか」


アザミに抱きつき、いいと言ってくれるまで離れないと意思表示する。




「結局こうなるのか」


最後はアザミが折れカガチに協力することになった。


依頼者なら手を触れ覗けばいいが、そうでなければ髪の毛一本を拝借する。


物でもいいが、その日身につけていたものでないと覗くことができない。


髪の毛一本だと覗くのに苦労するが、アザミが触れて覗くにはリスクがありすぎる。


男性なら如何とでも理由を作って無理矢理納得させることもできるかもしれないが、女性だった場合はそうもいかない。


最悪痴漢と間違われ捕まる可能性もある。


物陰からこちらを見てグッと親指を突き出してくるカガチにイラッとくるが仕方ないと諦め花凛に近づく。


花凛は髪が長いので男に比べれば抜くのはやりやすい。


すれ違い花凛の視線から外れた瞬間、素早く一本の髪の毛を掴み抜き取る。


花凛はイタッと頭を押さえるも大して気にもせず、そのまま歩いていく。


「ほら、お目当てのもんだ」


髪の毛をカガチに渡す。


「流石、アザミさん。ありがとう」


ハンカチに包む。


外で能力を使ってもいいがバレたら大変なので家へと戻る。


アザミもついてくる。


「じゃあ、やるよ」


「ああ」


髪の毛に触れ能力を発動する。


アザミはカガチの身を守るため護衛にあたる。


三時間が経過した。


一向に終わる気配がしない。


髪の毛一本だし、七年前の出来事だからか覗くのに時間がかかっているのだろう。


そこから、さらに二時間経過して漸くカガチが戻ってきた。


「何かわかったか」


「ああ。全部わかったよ。本当の犯人も」


「そうか。これから如何するつもりだ?」


事件は自殺として処理されている。


新たな証拠か犯人が自白しないと捕まえられない。


アザミはどちらも不可能に近いと思っていた。


「勿論、会いにいくよ。依頼人の悲願を叶えるためにね」


「捕まえられるのか?」


「それは難しいかな。それに、あくまでも依頼人の悲願は娘を殺した犯人を見つけて欲しいこと捕まえることじゃないよ」


「……そうだな」


「さてと、アザミさん」


満面の笑みでアザミを見つめお願い事をしようとするがそれより早く断られる。


「嫌だ」


「まだ、何も言ってない」


「言わんでもわかる」


「なら、やってよ」


「嫌だ。アオイに頼め。本来それはアオイの仕事だろ」


「だから、アオイさんはあの二人のせいで頼れないんだって」


そういえばそうだったな、と思い出す。


深いため息を吐き「わかった」と了承する。


「ありがとう」


「で、いつ呼び出せばいい?」


「今日、水曜日だから金曜日の夜一月十七日にしよう。時間は二十二時四十七分。場所は  が死んだ建物の屋上で」


「わかった」


「あ、待って。もう一人にも送って欲しいんだけど」


カガチがそういうとアザミは嫌そうな顔をする。


「……わかった」


「じゃあ、金曜日の二十二時四十七分に」


「ああ」


そう返事するとアザミは自分の仕事に取り掛かる為事務所から出て行く。


「さてと、どんな内容で送るか考えるか」


カガチは秋菜が死んだ日、何があったのかほとんど知っているので、どういう内容を送れば呼び出しに応じるかわかっていた。


「……うん、こんな感じでいいか。後はアザミさんから連絡をくるのを待つだけ。明日は朝早くから出かけるから、もう寝るか」


風呂に入ってベットの中に入る。




金曜日の夜。


時刻、二十二時三十分。


「アザミさん。準備いい?」


「ああ」


コートの中に手を突っ込み体を縮こませる。


「カガチ」


顎でクイッと外をさす。


「来たな」


カガチはフードを深く被り準備をする。


「アザミさん。そっちは任せた」


「ああ、さっさと行って終わらせて来い」




「誰!時間通り来たわよ!さっさと出てきなさい!」


花凛は屋上に着くと周りを見渡し誰もいないとわかると叫ぶ。


「そんなに、大きな声を出さなくてももうここにいる」


カガチは気配を消して花凛の後ろにずっといた。


「誰よ、あんた!一体何を知っているのよ!」


木曜日の朝、アザミから頼んでいた二人のメールアドレスが送られていた。


昼過ぎに二人にメールを送った。


花凛にはこう送った。


『××××年一月十七日、二十二時四十七分におきた出来事を全て知っている。お前の罪を俺は知っている。金曜日の一月十七日、二十二時四十七分にあの建物の屋上に来い。こなければ全てバラす』


「何が目的なのよ!黙ってないで何とか言いなさいよ」


花凛はただ黙ってその場に立っているカガチが不気味で、何か言わないと頭がおかしくなりそうだった。


「俺の目的はただ一つ。君の罪を聞くこと。それだけ」


「罪?何言っての?意味わかんないんだけど」


「なら、何故ここにいる。罪がないならここにはこない。メールだって無視すればよかった。それでも、そうしなかったのは罪の意識があったからだろう」


その通りで何も言えない。


唇を噛みしめ、爪が食い込むほど強く拳を握りしめる。


「話せ。そうすれば、お前は無事に帰れる」


「もし、断ったら」


「あの日と同じことが起こるかもな」


そんなことをするつもりは毛頭ないが、いい脅しになると思いそう言う。


「……本当に話したら無事に返してくれるのね」


「ああ」


「わかったわ。話すわ」


そう囁くと花凛はポツリ、ポツリと当時のことを話し出す。




あの日。


花凛は秋菜に話があるといい、誰もこないであろうこの建物の屋上に呼び出した。


昔、ここで飛び降り自殺があったという噂があって、度胸試しでくる悪ガキ以外は誰もここに近寄ろうとはしないのでここを指定した。


秋菜と会ったということは誰にも知られたくなかったのでこの建物に二十二時頃に来るよう指定した。


花凛は秋菜に会ってお願いしたいことがあった。


塔矢のことを諦めて欲しい、と。


花凛は秋菜と塔矢が付き合う前から、ずっと   のことが好きだった。


せっかく付き合えたのに塔矢はまだ秋菜が好きだった。


汚い手を使った自覚はある。


そうしてでも、塔矢を手に入れたかった。


後、少しで卒業する。


卒業式の日に最後だからと言って、もし がもう一度告白でもしたら別れることになるかもしれない。


いや、きっとそうなる。


それが怖くてそんなことをしないでと頼んだ。


だが、秋菜はそれを受け入れてはくれなかった。


無理だと言った。


「貴方も同じことをしたのだから、私にもする権利はある。それに、最後の日にもう一度ちゃんと塔矢と話がしたい」


秋菜はもうこれ以上話すことはない、と言って家に帰ろうとする。


このままでは、自分は塔矢と別れることになる、と思い諦めてもらおうと秋菜に掴みかかる。


「お願いだから、それだけはやめて。私ずっと塔矢のこと好きだったの。秋菜は美人だしモテるじゃん。別に塔矢じゃなくてもすぐにいい人と付き合えるでしょう」


「は?何言ってんの?私が誰と付き合うかなんて花凛に決める権利なんてあるわけないでしょ!離して、もう帰るから」


「待って!お願いだから、塔矢と話さないで!」


「しつこい!離してってば!」


花凛の手を払いのけると、秋菜は凍ったタイルのせいで足が滑り体が傾く。


花凛は危ないと思いその手を掴もうとしたが、花凛もまた足を滑らせてしまい助けようとするどころか押しのけてしまった。


秋菜はそのせいでか体が屋上から落ちてしまった。


ドンッ。


大きく鈍い音がした。


花凛は暫く自分のしでかした重大さを受け止めきれず放心してしまう。


暫くそこから立ち上がることかできなかった。


漸く落ち着くとゆっくりと足を動かし、上から下を見る。


上からでもわかるほど、真っ白な雪の上に赤い血が咲いていた。


ーー死んだ。


そう思った。


このままでは、殺人犯人になる。


急いでその場から逃げた。


家に帰ると両親は両方とも出張で家にはいないので、こんな時間に家に帰ってきても誰にもバレない。


扉が壊れるほど激しく閉めても誰も声をかけてこない。


花凛は急いで自分の部屋に上がり布団に包まる。


ーーわざとじゃない。私のせいじゃない。 が、うんって言えばこんな事にはならなかった。そうよ。これは秋菜のせいよ。


必死に自分のせいではないと言い聞かせ、布団の中で震える体を抱きしめる。


次の日の夕方。


朝からニュース番組をテレビとスマホでずっと確認していた。


夕方の番組で秋菜の死体が発見されたと報道があった。


心臓が口から飛び出るのではと思うくらいバクバクと大きな音がした。


『ーー警察はこの件を自殺と処理しました。遺体の近くからはーー』


自殺。


その言葉が聞こえた瞬間何も聞こえなくなった。


無音の世界とはこういうことをいうのかとぼんやりと考えた。


どうして自殺と判断されたのか。


本当に自分は大丈夫なのか。


警察が自分を捕まえに来るのではないか。


不安や恐怖はまだあったが、それよりも助かったという安堵の方が強かった。


一週間、一ヶ月、半年、一年。


時が経つにつれ花凛の不安や恐怖は次第に薄れていった。


三年経った頃には、きっとこれは神様がくれた贈り物だと決めつけ忘れることにした。


それから、さらに四年が経ち塔矢と結婚する事が決まった今になってどうしてこんな事になったのだろうと絶望した。


「これが、全てよ。満足!?さっさと、そこを退いて!」


「駄目だ。まだ、俺の用は終わっていない」


「あんたの用なんて知らないわよ!約束は守ったんだからもういいでしょう!!」


「よくない。それに、お前はまだ俺に言ってないことがあるだろう」


過去を覗いているので花凛がまだ隠していることがあるのを知っている。


「は?そんなのないわよ!」


全て見透かすようなカガチの目を見つめ返すことができず、つい逸らしてしまう。


「まあ、それならそれでいいけど。どうせ、今から言うしかなくなるし」


「ちょっとそれどういう意味?」


と最後まで言いたかったが急に現れた塔矢のせいで最後まで言えなくなった。


「花凛」


「……ど、どうしてここに?」


絞り出すような声で問う。


「俺も君と同じでここに来るよう呼び出されたんだ。秋菜の死の真相が知りたければ黙って話を聞け、と言われて隠れていた」


「いつからここに?」


「最初から。………… 、どうして秋菜を殺したんだ?」


花凛は何も答えずただ黙って時が過ぎるのを待つ。


「答えろよ!」


今にも殺しそうな勢いで花凛に掴みかかろうとするがアザミがそれを止める。


アザミはカガチに手伝うよう視線を送るが無視して知らん顔をする。


「私は殺してない!!」


「嘘をつくな!遺書まで用意してたくせに、全部話せ!」


「は?遺書ってなんのこと。私そんなの知らないけど」


その言葉にアザミは、は?という顔をするが直ぐにまさかという顔をしてカガチを見る。


「ああ。全部わかったよ。本当の犯人も」


あれはそう意味かと漸く全て理解した。


これから何が起きるのかも。


「シラをきるな!お前以外誰がいるんだよ!」


「だから、本当に知らないって!私じゃない!!」


「じゃあ、他に誰がやるんだよ!!」


「君だよ」


カガチがそう言うとシーンッと辺り一面から音が消える。


カガチはもう一度同じ言葉を繰り返す。


「君だよ。青柳塔矢。君が遺書を置いた。そうだろう」


カガチはフードを脱ぎ塔矢に顔を見せる。


何で急にフードを脱いだんだ?と三人共疑問に思うも塔矢はハッとして「お前昨日電車にいたやつか」と目を見開いて問う。


「だったら何?」


昨日の朝、塔矢と同じ電車に乗り過去を覗いた。


塔矢が朝乗る電車は通勤ラッシュでいつも満員。


電車が揺れた時に手が体に触れても不審じゃない。


たった一瞬でも、本体に触れれば一瞬で全てを覗くことができる。


ただ、一瞬で全て頭に入ってくるので下手をすれば倒れてしまう。


今回はたまたま倒れる前に椅子に座り処理されるのを待ったので大事にはならなかった。


アザミから殺気の篭った視線を感じる。


これは後で殺されるな、と苦笑いする。


「今はそんなこと関係ないだろう」


カガチが続きを話そうと口を開けたが、その前に花凛が声を出す。


「ちょっと待って、それどういう意味。遺書を置いたのが塔矢?何で?意味わかんないんだけど」


自分の罪を知られたこと、自分の知らないこと、情報が一気に流れ込んで上手く処理が出来ず混乱して説明するよう求めてくる。


面倒くさかったが、花凛にも知ってもらう必要があるので簡単に説明することにした。


「何でって、その日塔矢さんもその場にいたからですよ。それに、秋菜さんを殺した犯人は塔矢さんだからです」


「は?何言ってんの?秋菜は屋上から落ちて死んだのよ。私の目の前で落ちたんだからそんな訳ないでしょ!」


「いいえ、殺したのは塔矢さんです。そうですよね」


塔矢の方を見る。


「ちょっと何言ってるのかわかんないんだけど」


「わかってるはずです。自分が一番。その日何をしたのか」


「は?マジで意味わからん。付き合ってらんねーよ、こんなの。俺は帰らしてもらう」


屋上から降りようと扉に近づくが、アザミが扉の前に立ち邪魔をする。


「何のつもりだ、おっさん。退けよ」


退くように言うがアザミは動こうとしない。


「おい!どけって言ってんだろうが」


アザミに掴みかかろうとしたが、逆に腕を掴まれ壁に押しつけられる。


「心当たりがないなら別に最後まで聞いてもいいじゃないか。今帰ると逆に怪しいぞ。ん?わかったら大人しくしろ」


腕を捻り上げる。


塔矢はあまりの痛さに「わかったから、離せ」と頼む。


わかればいい、と鼻で笑い腕を離す。


アザミはカガチにさっさと続けろと視線で訴える。


「塔矢さん。その日貴方がしたことを見た人、目撃者がいると言ったらどうしますか」


カガチの一言に塔矢の顔色が変わる。


目撃者と言ってもその場にいたものでなく過去を覗いて真相を知った目撃者だが。


「今更そんなの現れたって誰も信じねーよ。秋菜が死んでから七年経ってんだ。誰がそんな話信じるんだよ」


声を荒げ語尾を強めにしているが、声は震えている。


焦っているのがわかる。


「ねぇ、塔矢本当に?本当に貴方が秋菜を殺したの?」


秋菜の声は失望や哀れみといったものではなく歓喜に近いものだった。


「は!?お前まで何言ってんだ!俺がそんなことする訳ねぇだろ!証拠があるなら出してみろよ!俺が犯人だっていう証拠を!ほら、早くだせよ!」


「確かに証拠はありませんが貴方がどうやって秋菜さんを殺したのか言うことはできます」


証拠はないの一言で喜んだのも束の間、一瞬で地獄に叩きつけられた。


「貴方はまだ生きていた秋菜さんを口と鼻を覆い殺したんです」


雪のおかげで助かった秋菜を塔矢は手で鼻を摘み口で口を覆い息ができないようにした。


指一本動かすことができなかった秋菜はそれをただ受け入れるしかなかった。


暫くすると秋菜は冷たくなった。


目の奥が真っ暗になり死んだのだと。


塔矢はその日のことを思い出した。


今日はあの日と同じで雪が降っていた。


好きな女が自分の腕の中で死んでいくのが堪らなく幸せだった。


ーー狂っている。


自分でもわかっていた。


でも、耐えられなかった。


愛した人を失うことが。


自分ではない他の者に笑いかける姿が。


それなら死んで自分の者にすればいい。


死ぬ間際に愛しあえればきっと最高の幸せを手に入れられる、と。


だから、花凛を使って殺すことを決めた。


「そうだ。で、何だ?何か悪いか?」


さっきまでの態度とは一変する。


そこまでバレているのなら今更隠しても意味はないし、それにずっと誰かにこの事を話したかった。


自分の愛がどんなに美しく素晴らしいものかを。


「俺は昔から今もそしてこれからも秋菜だけしか愛せない。でも、秋菜はそうじゃなかった。俺以外にも愛しているものがあった。両親、友人、飼っている犬、動物。彼奴は俺以外にも愛せていた。俺は秋菜だけしか愛さなかったに。彼奴は違ったんだ。酷いと思わないか。こんなにも俺は秋菜だけを愛していたのに」


「だから、殺したと?」


「そうだ。このまま秋菜が生きていたらいつかきっと俺のことを愛さなくなる日がくる。でも、今殺せば秋菜は俺のことが好きなまま死ぬ。俺だけを愛して死んでいく」


うっとりした顔で幸せそうに話す。


アザミはゲス野郎と蔑み、カガチは無の表情でただ見つめていた。


花凛は今も昔も塔矢は秋菜のことしか愛していないと知り絶望しその場に座り込む。


「だから、殺した。死ぬ間際のキスは今までしたキスのどれより甘美で最高だった」


「一つ聞いても」


「いいぞ。今は気分がいい何でも答えてやる」


「何故、彼女と結婚することにしたんですか。利用する為に付き合ったのはわかりますが、今も恋人ごっこをする理由かわかりません」


花凛を指差し尋ねる。


過去を覗いたが、それだけは理解できなかった。


「ああ、それは褒美だからだ」


「褒美?好きになったとかではなく、思い通りに動いたからってことか?」


「そうだ。それ以外に何がある?大して美人でもない、頭も良くない。何か秀でた才能があるわけでもない、どこにでもいる普通の女。そんな女を俺が本気で愛するとでも?俺の願いを叶える手助けをしたこいつに褒美をあげただけ」


花凛に醒めた視線を向ける。


「こいつは俺と一生いることが夢だったんだ。だから、結婚することにした。それだけだ」


「嘘よ!そんなの嘘!この二人にそう言わされてるだけでしょう!ねぇ、そうでしょう。私のこと愛してるでしょう」


塔矢に抱きつき甘ったるい声をだす。


花凛が塔矢の頬に触れようとした瞬間、その手を振り払い体を突き放す。


「塔矢」


今にも消えてしまいそうな声でその名を呼ぶ。


「はぁ、いい加減にしてくれ。何で俺がお前を愛さないといけない。勘弁してくれ。図々しいにも程がある」


その言葉に花凛は絶望ひ静かに涙を流した。


カガチはそんな二人のやりとりを醒めた瞳で見ていた。


「で、お前達は何が目的でこんなことをした?」


カガチとアザミを交互に見る。


カガチは誰もを魅了するほど美しい笑みを浮かべこう言った。


「ある人の悲願をなくすため」


塔矢はカガチが言った言葉を繰り返し言った後、意味がわからないと言う。


「貴方が知る必要はない。貴方の自白も取れたしこれで俺達は帰るよ」


煙草を加えて待っていたアザミに行こうと言って屋上からでようとする。


本当は花凛にまだ言わせたいことがあったがこの状態では無理だと諦める。


「あ、そういえば、俺一つ嘘ついた」


「嘘?」


「さっき俺証拠ないって言ったけどあれ嘘。証拠は見つけた。マフラー」


マフラー。


その言葉を聞いた瞬間目をカッと見開き血が頭に昇っていく感じがした。


「貴様!どこでそれを」


知った、と言おうとする前にアザミがお腹に蹴りを入れ黙らす。


「それも貴方が知る必要はないこと。もうすぐ、ここに警察が来るから仲良く捕まってくれ」


じゃあ、そう言って今度こそ屋上から出ていく。




「……ありがとうございました」


店員が頭を下げる。


「ほれ、豚まん」


「あんがと、アザミさん」


カガチは豚まんを受け取り黙々と食べる。


「で?何か言うことは?」


煙草に火をつけ中々言わないカガチに痺れを切らしそう尋ねる。


お礼は言ったし他に何を言えと?


何を言えばいいかわからず首を傾げる。


「そんなに握り潰されたかったのならそう言えばいい」


カガチの頭を掴む。


「待って、待って。本当にわかんない。言うから何が知りたいか言って」


慌てて何でも話すから許してほしいと頼む。


「全部だ、全部。まだ、謎が残っているだろう。ストーカーの件とか屋上から落ちたときのこととか色々教えろ」


一見全て解決したように見えて細かいところの謎がまだ残っている。


「ああ、それね。まず、ストーカーは俺にもわからん」


「は?塔矢じゃないのか?」


「違うよ。塔矢じゃない。過去を覗くまでは俺もそう思ってたけど違ったみたい」


アザミは信じられないといった表情でカガチを見る。


どうせストーカーは塔矢だと思っていたから。


「塔矢にそんな暇はなかったよ。殺す準備や   を思い通りにする為に時間をかけてたからな。そんな暇なかったよ」


「じゃあ、一体誰が?」


「それはこれから見つけるしかないね。まあ、今回の件には関係なかったからどっちでもいいけど、秋菜の記憶で一瞬だけど顔を見たし見つけようと思ったら見つけられるよ」


どうする、と尋ねる。


「お前の好きにすればいいだろう」


「じゃあ、そうさせてもらうよ」


豚まんを一口食べる。


「次」


「はいはーい、わかったよ」


豚まんを急いで食べ話しを再開させる。


「犯人はもう一人いるって言ったらどうする」


やっぱりか、と妙に納得する。


「自殺か」


「うん」


カガチは秋菜の日記から過去を覗き死のうとしていた事を知った。


実際はどうだったかはわからないが、九十九パーセントわざと屋上から落ちたと思っていた。


花凛と手が触れたとき、花凛も秋菜を殺そうと押していたが、秋菜もまた自ら飛び降りていた筈だと。


塔矢が保管している、秋菜が死んだときに巻いていたマフラーから過去を覗けば一発だがそれをしようとは思わなかった。


「確証はないけど間違いないと思うよ」


秋菜は恋人と親友に裏切られ傷ついた。


だから、二人にも絶対に癒えることのない傷をつけてやりたかった。


それが、目の前で死ぬことだった。


ただ、一つ誤算だったのが二人は秋菜の死を強く願っていて殺そうと計画していたので心に傷をつけるどころか喜ばせてしまったこと。


「そうか」


「うん」


二人の間に重い空気が流れる。


「……あの遺書はどうやって用意したんだ」


「あれは、秋菜自身が書いたものだよ。それっぽいの書いて塔矢の鞄の中に入れていたんだよ。それを持って彼処に来てほしいって。あれさ、死体の近くにあったら遺書とも取れるけど、そうじゃなかったら違う風に捉えることもできるじゃん」


「確かに、そうだな」


「多分、わざとそう書いたんだよ」


「何の為に?」


「最後の手紙を利用するのかしないのか知りたかったんだと思う。本当に塔矢は自分の事を愛していたのか知るために」


「結果はどうであれあの男は愛していた」


「でも、秋菜は多分逆のことを思ったよ」


元彼女より現彼女を選ぶだろうと秋菜はわかっていた。


だから、それは仕方ないことだと諦めていた。


でも、最後の手紙ならもしかしたら大事にしてくれるかもしれないと賭けに出た。


遺書に出来そうな文をわざと書き塔矢がそれを使うか使わないか。


使えば塔矢は自分のことを愛していなかった。


使わなければ、いっときの間でも自分のことを愛してくれていた。


そう思って死ねる、と。


だが、塔矢はその手紙を切り取り靴を脱がせ屋上に置き自殺にみえるようにした。


そのときには既に死んでいたが、ロゼ曰く死んだ魂は強い想いがあれば暫くはそこにいて成り行きを見る、と。


だから秋菜はその光景をきっと見ていただろう。


愛した人が本当は自分を愛していなかったのだと思い知ることになった行動を。


「依頼人にはなんて言うつもりだ」


「犯人は捕まり罪を償う。娘さんは自殺ではなかったです」


依頼は殺した犯人を見つけること。


秋菜は二人の裏切りによって死ぬことになった。


だから、自殺したのは二人のせいだと。


「そうか」


「後は警察の仕事。アザミさん、任せたよ」


「ああ」


家までカガチを送ると部下に電話し人を殺したと自白した者を捕まえたから、今から言う場所まで来い、と。


来た道を戻り二人を捕まえる。




「つまり、娘は自殺ではなくこの二人に殺されたと言うことですか」


朝のニュースを見た後、タイミングよくカガチから連絡がきた。


詳しく話すのでそちらに伺いたいと。


「はい」


「何故、娘が殺されなければならなかったんですか。理由は聞きましたか」


「はい」


「教えてください」


九十九の願いを聞き入れその理由を教えた。


好きな男を取られたくなく邪魔な秋菜を殺したかった。


自分以外を愛するかもしれない未来があることに我慢できず、自分のことを愛しているうちに殺すことで他の者を愛さないようにしたかった。


二人の動機を教える。


九十九は黙ってカガチの話を聞いていた。


「そんな、身勝手が許されるんですか」


怒りで体が震える。


今すぐその二人を殺したい衝動に襲われる。


「許されません。ですが、彼等のような人間は許されると思っているからやるのでしょう」


自分の欲のためなら人が傷つこうが死のうが大したことではない、と。


「だから、俺みたいな人間がこの世にいるのです」


それは九十九に言い聞かせるというよりは自分に言い聞かせていた。


「九十九さん。貴方の悲願は叶いました。これで、契約終了です」


「はい。本当にありがとうございました」


床に手をつき頭を下げてお礼を言う。


「九十九さん。どうかお元気で」


「カガチさんこそお元気で」


別れの挨拶を終え家へと戻る。




「遅い」


「これでも急いだわ」


「じゃあ、燃やすよ」


九十九が依頼する為に持ってきた黒い彼岸花の造花に火をつけ燃やす。


「これで依頼達成」


「おつかれ」


カガチの頭を撫でる。


「うん。疲れた。……ラーメン奢って」


「はぁ、あの二人には内緒にしろよ」


「ありがとう、アザミさん」


本当はまだ、マフラーのこと花凛がどうやって二人を別れさせたのか、あの時の歓喜の声はどういう意味なのか、どうして好きな相手を振って別の女と付き合うことにしたのか、聞きたいことはあったがそれは知る必要のないことなのかもしれないと思い聞くのをやめた。


例え聞いたとしても理解できない。


知らないほうが幸せだろと燃えた塵となった造花を見て煙草を吸う。



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