0,プロローグ
逃げる。逃げる。逃げる。
現実から、その場から、全てを置いていくように。
逃げる。逃げる。逃げる。
思考を放棄しがむしゃらに。
どうなってもいい。もうどうにでもなればいい。
俺が考えることじゃない。
考えることはただ一つ。
「もう、あいつらなんて死んでしまえばいい」
呟きながら目が覚める。夢を見ていたようだ。
「・・・またあの時の夢か・・・」
むくりと起き上がり、あくびをする。空は晴れ、窓からは暖かい陽の光が差し込んでくる。
今日は近所のおばさんの畑の手伝いだ。仕事のためにベッドから出て支度をする。
飯も食べて準備万端。俺は玄関の戸を開けた。
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そこまで暑くない日ではあるが、畑で作業していると動いているせいなのか余計に暑く感じる。
こんな仕事を毎日のようにして平然としている方々には頭が上がらない。
「ふぅ・・・ここはこんなもんか。」
今日はこの畑の収穫だ。長細い実に赤く丸い実、黒くてつやつやな実・・・どれもおばさんの魂がこもった野菜である。
籠がパンパンになったので一息ついたところ・・・
「おーい!そろそろ終わりでいいよぉー!」
おばさんの声だ。俺は声の方向へ向かった。
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「ただいまー・・・」
誰もいないがなぜか言ってしまう挨拶。仕事の後はついつい口から出てしまう。
俺は農家ではない。畑もないし自ら野菜を育ててもいない。ではなぜ俺が今日汗と泥だらけで畑から帰ってきたのか・・・
答えは、俺が【便利屋】だからである。
時には子守り、時には修理屋、そして時には農家でもある。
おばさんは依頼者で、収穫を手伝ってほしいとのことで報酬を頂いて働いたということだ。
・・・実際のところ、おばさんは俺の二倍以上収穫している。おばさんは「若いのによくやるねぇ!」なんて言っていたが、完敗だ。やはり農家の人には頭が上がらない。
ま、まあそれはそれ。今回は報酬の金額とともに、収穫した野菜をどっさり頂いた。
やはり農家の人には・・・いや、これ以上頭が上がらないと俺の頭は地面に埋まって芽が出てくるかもしれない。やめておこう。
「こんなにたくさんの野菜、一人で食い切れるかな・・・」
不安に思いながらも魔法を用いた冷蔵室に入れる。今日から野菜祭りだ。
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「・・・ふぅ、食った食った。」
ざぶんと湯船に身体を沈める。今日の野菜祭りは幕を閉じた。
みずみずしいトマトとキュウリの盛り合わせ、ナスの肉巻き、トマトのスープ・・・
どれも本当に美味かった。料理はしたが、素材の味がやはり多いであろう。
あの野菜たちは明日市場に並ぶらしい。ご家庭にこの味を届られるのだから、我ながらいい仕事をしたと優越感に浸っても誰にも文句は言われないだろう。
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風呂から上がりベッドに寝転がる。今日はゆっくりと眠れそうだ。
寝室明かりをつけ、予定帳に書いた明日の予定を確認する。
「明日は何もなしか・・・」
休みだったらしい。張った気が抜けとろんと眠気が襲ってきた。明かりを消して目を閉じる。うつろに明日の予定を考えるが、何一つとして頭に入ってこない。
そして、眠る。
明日もきっと同じ日が続く。依頼されて、手伝って、報酬をもらって・・・
それでいい。それがいい。俺はきっと停滞したこの時の中で生きていくんだ。
自ら進まず、進んでいくものを見つめるだけで羨ましがりもせず・・・そうやって生きて、死んでいくんだ。
俺の人生という冒険は・・・終わっていた。
初めての投稿で至らぬ点ばかりかもしれません。読んでいただきありがとうございました。これから始まる主人公のストーリー・・・頑張って書くので是非お楽しみに




