おしゃべり銀行4
東京都江東区住吉駅そばにあるトークバンクという喫茶店。ここにはいつも悩めるお客さんが訪れママに話をきいてもらっている。
優の場合
結婚式を終えてしばらくして優がトークバンクにきた。
ママは優が注文したミルクティーを作りながら優との馴れ初めを思い出していた。
常連の千代のお友達として来たのが初見だった。修一という彼氏と長く付き合っている子なのに、違う男性と結婚した子だ。
「お待たせしました。もう落ち着いた?」
「はい。明日から会社に行くんですよ。」
「結婚退社じゃなかったのね?」
「彼は辞めて欲しかったけれど、私が働きたくて。」
「今時はみんなそうよね。優ちゃんは大きな会社で働いているからもったいないわよね。」
「それが息がつまるんですよ。」
「えっ???」
「あの男といると!」
「どういう意味?」
「夫の貴志です。今日も買い物して、帰りにここに寄ってこようとしたのに、ついていく…って言うんです。どこにでもついてくるんです。」
ママは言葉に詰まった。
優はバックからタバコを取り出し吸い始めた。
「タバコも吸うな…って言うし、ほんと、うっせいわ!って感じ。修一の時はそんなことなかったのに…。」
「新婚さんなのに、そんなうるさがってて大丈夫?」
「ママー。もう離婚したい!!」
「貴志さんが会社に行ったら、うるさいなんて感じないんじゃない」
「今から帰る…ってライン送ってきて、真っ直ぐ帰ってきそう」
「いい旦那さんじゃない」
「それがキモいのよ。」
ママは笑ってしまいたくなるのを必死でこらえた。
「今頃ラインに既読がつかないってイライラしてる頃だわ」
と、優の電話が鳴った。
「ごめんなさい。まだ買い物しています。もうじき帰るから待っててね」
と言って電話を切った。
「あぁ…うっせい、うっせい!!」
「でも大きな会社の息子さんなんでしょ?きっと世の中のお嬢さん方にはうらやましく感じてると思うけどなぁ。」
「私も最初はそう思ったの。修一なんて、私のお誕生日にヒィヒィ言ってジョエル・ロブションつれてってくれたのに、あの男は、ちょい予約して銀座でお寿司とか普通につれていってくれて、これだ…って思ったの。まあね、修一とは長すぎたのよね…。」
そう言う優には勝組に相応しい綺麗さがあった
「ママー?今日ここに来たのは内緒にしてね」
と言って帰って行った。ママは千代の
「修ちゃんが可哀想…。」
と言うのを思い出していた。