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託児所


 駄姉妹が何故か孤児院に住み着くようになってから三週間ほどが経過した。

 託児所のリフォームも終了し、乳幼児も可能な限り受け入れ始めている。



「兄さま、これをお願いします」


「わかった、次のパスタも持ってくる」


「お願いしますね」


「お兄ちゃん! さんどいっちの追加もお願いねー!」


「あいよ」



 毎朝の弁当販売も順調だ。余っても託児所や孤児院の食事になるし、貧困家庭へのお土産としても持たせられるので量を作っても無駄にはならないからな。

 駄姉妹も普通に働いてる。

 正直この駄姉妹、中身は残念だが見た目は美人なので男性客に大人気だ。

 一部特殊性癖の男性客にはエリナやクレアが人気だが、俺は普通の性癖だからな。


 弁当箱の塗りも職人に出さずに一号達でできるようになったし、弁当箱以外の玩具や工作品も併売している。

 工作品の売り上げはまだほとんど売れていないが、家族や職場でシェアできるような大きな弁当箱を受注生産するなど、それなりに需要があることがわかったのは収穫だった。



「ここに置いておくぞエリナ、クレア」


「ありがとーお兄ちゃん!」


「ありがとうございます兄さま。あとこちらいつものお弁当を詰めておきましたよ」



 客足が落ち着き始めたら、託児所にガキんちょを預けに来られない一部の家庭に迎えに行く。

 日々の食事にすら困窮している家庭もあるので、パスタ弁当を渡す家庭もある。

 預かる乳児用に母乳を分けて貰える家にも、お礼にちょっと豪華にした栄養重視の弁当や形の悪い野菜などを置いていく。

 特にそういう家庭には追加で買った哺乳瓶を持たせて駄姉妹を向かわせているが、最初は想像以上の困窮した暮らしぶりにかなりの衝撃を受けたようだ。

 そりゃそうだ、今の孤児院なんか一般的な平民より良い暮らしをさせてる自信があるんだからな。



「婆さん、ガキんちょどもを迎えに行くから後はよろしくな、駄姉妹も行くぞ」


「はい、トーマさんよろしくお願いしますね」


「「はい」」



 最初の一週間は、魔力で軽くなるリヤカーを改造して、前押しのカートにした。それに乳幼児を複数人乗せ、押しながら三人で貧民街を回っていたが、今は子供運搬用に設計したカートを二つ追加して、三人で手分けをして回っている。

もちろん重量軽減機能付きだ。

 駄姉妹なら何かあっても自分の身や子供を守るのは容易だし、特に貧困家庭の住民の話を聞いて来いと命じたからだ。

 複数人で訪問するより、一人で訪問していれば、そのうち住民が心を許して色々話してくれやすくなるだろうからな。


 ゴロゴロとカートを転がしながら貧民街を回る。スクールバスの運転手の気分だな。



「おにーちゃん、きのうね、らすくをママにあげたらおいしいっていってたよ!」


「そか。お前はラスク好きか?」


「うん!」


「ぼくもすきー」


「今日もいっぱいあるからな。でもラスクだけじゃなくて飯もちゃんといっぱい食べるんだぞ」


「「はーい!」」



 ガキんちょどもの適応力は高く、一週間で大分慣れて来た。

 孤児院周辺以外の貧民街にも巡回兵が定期的に巡回するようになったし、ゆっくりとだが街灯設置も行われ始めている。

 だがそれでも子供達は外で遊ぶという機会は少ない。託児所に行けば玩具や絵本もあるし友達もいる、敷地内だが外でも遊べるし、ごはんやおやつもお腹いっぱい食べられると、託児所に預けられる子らに好評だ。


 クレアに算出してもらった費用だが、コストを無視した晩飯を除けば一人当たり一日銅貨三十枚程度で済むという。これは用地取得にかかった費用や修復費などの維持管理費、人件費などは入っていないが、朝と昼の食事とおやつ、風呂代、洗濯代等を含めた一人分の平均費用だ。


 それでも月額にすれば銀貨一枚弱にはなるし、貧困家庭や比較的収入の低い一般家庭、野菜売りのおばちゃんのように複数の子供を預ける場合には結構な負担となる。


 今現在は婆さん、クレア、駄姉妹と一緒に国へ援助要請の陳情書を作成している所だが、さてどうなる事やら。

 ぶっちゃけ今の人数なら、このままでも十年以上は援助なしで運営できる資金はあるし、そろそろ入ってくる地竜の素材売却金が入れば、今いるガキんちょ全員成人するまで問題無く食わせていけるが、それでは意味が無いのだ。

 俺とエリナが稼げる期間なんて頑張っても四十年といったところか、孤児院出身者にエリナやクレアのような魔法適正持ちがいて、運営資金を稼いでくれるなんて期待はできない。

 百年、二百年と恒久的に運営できる体制作りをしなければ結局いつかは破たんして不幸な子供が出てしまうからな。



 ガキんちょどもと他愛の無い話をしながら、孤児院ではなく託児所の入口に到着する。

 既に露天販売所は片づけられており、広い託児所内では朝食の準備が始まっている。



「お兄ちゃんお帰りー」


「あ、兄さまお帰りなさい」


「ぱぱ!」


「おう、ガキんちょどもを連れて来たぞ。ミコト、にいちゃんとねえちゃん達が来たぞー」



 キャリアカーからガキんちょを一人ずつ抱えて下ろすと、ぽててと仲のいい友達や好きな玩具、昨日途中まで読んだ絵本を探しに、それぞれ散らばっていく。



「クリス姉さまとシル姉さまはもう帰ってきましたよ」


「お姉ちゃんたちは今返してもらったお弁当箱を洗ってるよ! お兄ちゃんの預かって来たお弁当箱も一緒に洗っちゃうから預かっておくね!」



 エリナに今日貧困家庭で引き換えに預かって来た弁当箱を渡す。

 洗った後に、余った食べ物を詰めてまた渡すためだ。



「貰った母乳は足りそうか?」


「ええ、大丈夫ですよ兄さま」


「乳児は目が離せなくて大変だけど頼むな」


「ハンナやニコラ、ミリィも大分小さい子の面倒を見られるようになりましたしね。心配しなくても大丈夫ですよ兄さま」


「じゃあ今洗い物してる連中が戻ったら朝飯にするか」



 そういってる間にエリナと駄姉妹が戻ってきたので、孤児院メンバーと託児所メンバー合同で朝飯だ。

 託児所で預かってる子は十人になったので、孤児院のメンバー十三人と駄姉妹を合わせるとリビングではもう収容できないし、いちいち分けるのも手間だしな。



「ではみなさん、いただきます!」 


「「「いただきまーす!」」」



 クレアの音頭で朝食が始まる。

 まだまだ預かり始めた子らは手づかみでパスタを掴んだりしてるが、少しずつ直していってる。

 孤児院メンバーがそれぞれ「こうやって食べるんだよー」などと教えているのだ。

 友達同士で食事というのも預かった子らには、新鮮なのか遊び感覚なのかはわからんが、素直に言う事を聞くので今のところ問題はない。


 朝食は露店で売っているものと同じメニューに加えて簡単な野菜スープを提供する。

 昼は揚げ物を追加したり、新メニュー開発を兼ねたパスタやパンにはさむ具材のおかずなどに、スープとパンを追加して食わせている。

 おやつはパンの耳を揚げたラスクを出しているし、週一回程度でドーナツやクッキーなどを作っている。だが、流石にケーキは高いので月一回に減らした。

 晩飯は孤児院のメンバーと一緒にコスト無視の飯を食わせているが、資金援助次第ではメニューの変更や、晩飯を食わせないで帰宅させるかもと色々考えている最中だ。

 できれば晩飯まで面倒を見てやりたいがな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう新しい試みが、新しい人たちと順調に進んでいく描写は何か嬉しい気持ちになりますね。次の試練が気になりますが、子供たちが幸せであってほしく思います。
[気になる点] 孤児院の将来を考えるような主人公が ほとんど憎んでいるとはいえ領主家の人間を子供たちの面前でポンコツとか駄姉妹とか呼ぶのはさすがにきつくなってきました だれか止めてやれ それだけ主…
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