駄姉妹 <クリス&シルの挿絵あり>
ぐったりした駄妹と、何故かつやつやしている駄姉も交えて夕飯の時間だ。
今日は週一のハンバーグデーという事でガキんちょどものテンションも高い。
クレアは無事駄妹の犠牲と引き換えに、ちょっとした再生なら出来るようになったらしい。
駄姉も優秀なんだな、性格以外は。
「じゃあみんなー、いただきまーす!」
「「「いただきまーす!!」」」
エリナの音頭で食事が始まる。
「トーマ様、このメインのお料理は素晴らしく美味しいですわね」
駄姉が一口ハンバーグを口に入れて驚きの声をあげる。
「どうしてもビーフステーキは高いしあまり美味くないからな。良い所の合い挽き肉を使ったハンバーグが一番肉料理では美味いと思うぞ」
「市井にもこんなに美味しいお料理があるのですね。貴族社会はどうしても格式だとか伝統にこだわっていて、市井で流行しているものを取り入れるといったことを忌避しておりますから」
「お前はそういう鬱憤があるから過激な思想に染まってるのか」
「トーマ様から見てもこの国の連中は頭が悪いとお思いでしょう?」
「そうだな、一見統治自体は上手く行ってるようには見えるが、実際細かい所を見ると弊害が出てきているんじゃないかと思うぞ。と言っても孤児とか貧困層の子供を見ただけの俺の意見だがな」
「いえ、トーマ様のその言は正しいと存じます。事実暗殺ギルドなどの件もありますしね」
「実際あのギルドはどういった経緯で出来たんだ? 駄妹の方に調査は頼んだけど」
「元々はラインブルク王国がこの地域を制圧した頃の話……ちょうど二百年前の話ですが、その時に戦功をあげた<転移者>の意見で、平和になって軍縮をする際に、失職する兵や傭兵の身の置き場として暗殺ギルド、盗賊ギルド、冒険者ギルドを設立したという事になっております。冒険者がどこへ冒険をするのかわかりませんが、ネーミングは<転移者>の方ですね。ついでにその方は勇者を自称しておりました」
「やっぱ頭悪いのな<転移者>って。というか飛ばされる年代は地球の時系列とは別っぽいな。ラノベの影響受けてる日本人っぽいし」
「たしかに十年ほどは、その施策によって平和になって軍を解雇された者の受け皿として機能はしていたようですが……」
「暗殺ギルドって誰を暗殺してたんだ」
「一応各地でゲリラ活動をしている抵抗勢力の駆逐任務、特に幹部クラスの斬首作戦が主任務であったようです」
「なるほど、それなら理解できる」
「盗賊ギルドはそのゲリラ活動を支える補給路等を妨害する通商破壊行動ですね」
「ネーミングセンスが壊滅的なだけで、一応はちゃんと目的はあったんだな。納得はできないけど」
「冒険者ギルドは手に職の無い連中の受け皿で、馬鹿でもできる仕事を斡旋する目的で設立されました」
「まあそれは今でもそのままだからな」
「ですので潰しましょう」
「それには全く異論はないが、手段をもう少し考えろ」
「トーマ様のご命令があれば、わたくし今からでもメギドフレアであの一帯を消し炭に変えてきますが」
「メギドアローの上位魔法かよ。お前がいれば地竜はどうにかなったんじゃないのか?」
「多分討伐は可能だったとは思いますが、出撃要請が来たのはトーマ様が地竜を討伐する直前でしたからね。トーマ様がいらっしゃらなければ猟師や騎士団はもちろん、町に住む民衆にも犠牲が出ていたかもしれません。何分ダンジョンからそんなに早く出て来るとは誰も予想できておりませんでしたから」
「まあ調査して結果を領主に報告してからだ。本気で駄目だと思ったらある程度の実力行使も辞さない覚悟はあるが、流石に国や領主を相手に喧嘩を売るわけにはいかん」
「トーマ様は領主家に喧嘩を売られましたが……」
「それを言われると何も言えないが、まあ可能な限り穏便にやりたいし、国や領主に頼らない方法だってあるだろ」
「残念です」
「そんな過激な性格だからお見合いを失敗するんじゃないのか?」
「わたくしはわたくしの夫になる殿方には、いざとなれば国王を弑逆する位の気概が欲しいだけですが」
「そら断られるわ。むしろお前が通報されてないのが不思議だわ」
「国王にファルケンブルク伯爵令嬢に謀反の兆しがありとすら報告できない腰抜けばかりなのが残念ですわ」
「お前は一体何がしたいんだ……」
その後は無言で食事を終えました。
変なのばかり集まるなこの孤児院。
食後の片づけが終わると、そうだ、と思い出し、駄姉に話しかける。
「そうだ駄姉、お前に聞きたいことがあった」
「そういえば、魔法の事で聞きたいことがあると先程おっしゃられておりましたね」
「二人で力を合わせて魔法の出力を増幅したり、片方の魔力を吸収して魔法を行使したりっていうのは研究してるのか?」
「はい、二人同時に同じ魔法を行使して威力を増幅させるというのは融合魔法という名称で研究が行われておりますが、魔力を他者から譲渡させるというのは面白い発想ですね」
「その融合魔法っていうのは実際に出来たんだよ。エリナ単独の風縛だとブラックバッファローを拘束できなかったんだが、俺と一緒に風縛を使えばブラックバッファローを拘束出来たんだよ」
「融合魔法は親子や双子、師弟、魔力の似通った者同士であれば行使出来たというケースはありますが、夫婦でというのは珍しいですね」
「あと吸収の方は地竜討伐の時に俺とエリナの魔力が空になった件で考えたんだけどな。片方が魔力を使い果たしても、魔力のある方から魔力を貰って行使できないかって考えたんだわ。で、今日は二人とも魔力がある状態だったんだが、俺がエリナから魔力を貰って探査魔法を使ったら俺単独の時よりも探査範囲が広がったんだよ。エリナの消費魔力の割りには探査範囲が百メートル程しか広がらなかったから効率としては悪いんだがな。ひょっとしたら俺の魔力が空っぽでもエリナの魔力を貰って探査魔法が発動できたかも知れん」
「それは……理論上は不可能ではないというレベルの研究論文は存在しますが、実際に行使出来た例は存在しませんね。人工の魔法石に魔力を備蓄する技術は存在しますが、あくまでも備蓄した本人にしかその魔力は使用できませんし、備蓄できる魔力もまだまだ微量です」
「そうか、これって他言したらまずいかな」
「そうですね、少し危険かもしれません。戦争利用も可能な技術ですし」
「あーそうだよな」
「どうでしょうか? 是非わたくしの研究にご協力いただけませんか? 個人的な興味ですので公に発表は致しませんから」
「それは構わんが、見返りはあるのか? もちろん俺達もこの魔法が上手く利用できるようになれば色々便利になりそうだから助かるんだが」
「見返りは私の個人資産からおいくらかという事になりますね。是非託児所の為に使っていただきたいと考えておりますが」
「ありがたい話だが、協力できるのは雨が降ったりして狩りをしない日だぞ。あとどこか魔法を使える場所を提供してくれ。今までは冒険者ギルドの訓練場を借りていたが、秘匿する技術ならそれなりの場所が必要だろうし」
「そちらはお任せくださいませ。では早速次に雨の降る日に実際に見せてくださいますでしょうか?」
「ああ、わかった」
戦争利用は流石に想定外だった。
しかし過激派思想のこいつにそんな技術を研究させていいのだろうか。
まあいざという時には頼れる味方になってくれるなら良いんだが、その辺りも見極めつつだな。




